チュンチュンと鳥のさえずりを聞きながら目の前の男の顔を凝視していた。男も私と同様に私の顔を凝視している。

「………」
『………』

んんんん?なにこれ、どういう状況だよ。


*

ボンゴレ式夏祭りだかビアガーデンだかよくわからないがただ酒が呑めるというおいしいイベントをやるとボスから通達がきた。全員強制参加という有難いお言葉に歓喜の雄叫びをその場にいた者であげた。まだ日の明るいうちから呑めるという最高のシチュエーションに自然と気分も高揚していく。
庭には日本の祭りを模した屋台が並ぶ。懐かしさと祭り独特の雰囲気に盛り上がらない訳がない。いつもより開放的になった私は飲めや騒げやのお祭り騒ぎで周りのテンションと勢いに身を任せ文字通り浴びるように食べたし呑んだし騒ぎ倒した。
アルコールも廻って気分よくふらついていると丁度建物の物陰で身を隠すようにして壁に凭れかかりながら電話をしている奴が居た。こんな時にこんな場所で恋人に愛でも囁いてんのかコノヤロー。当然絡まないわけがない。慎重に忍び足で近づいていき背後から飛び掛かった。
しかし相手は微動だにせず冷たい視線を投げつけて通話を終えたようだ。なにが「邪魔がはいりました。また後で」だ。後からお楽しみタイムですか、羨ましいわちくしょう!

「酒臭いです。離れてください」
『しっつれいしちゃうー!』

引き剥がされそうになったのを意地でも離れてやるものかともがいていると諦めたのか力が緩んだ。ふふん、勝ったぜ!

「ほら、お仲間がお待ちかねですよ。行かなくていいんですか?」
『いいのー』

六道にぶら下がりながらそう答えると「そろそろ重くなってきたので離れてください」なんてデリカシーの欠片もない台詞と共にあっさりと振り落とされた。油断した時に卑怯な!
それでも負けじとしがみついた私ってば往生際が悪くて本当に最高だな。自画自賛しながら今度は前から六道にぶら下がっていると諦めたような海よりも深いため息を吐き出した。海よりも深いため息ってなんだろう。自分でいっててわかんないわ。

『六道は呑まないの?』
「僕はいいです。この後、用がありますので」
『全員強制参加なのに』
「僕は彼らの仲間になった覚えはありませんよ」
『でも城島は呑んでるよ?』
「…全く」

苦々しそうに城島達のいる場所を一瞥して、でもさっきとは違う種類の息をついて眉を下げた。

『六道も楽しみなよ。お祭りだよ?ただ酒が呑めるんだよ?』
「そんなもの、僕には必要ありませんから」

寂しいなあ。折角こんなにたくさん人がいて、美味しい食べ物もあって、美味しいお酒もあるのに。六道を見るときょとんとした顔をしている。なんだよ。

「僕は寂しいなんて思ってませんよ」

あ、もしかして口に出していた系か。酔っぱらいってやつは本当に始末に終えないな。

『六道が寂しくなくても私が寂しいの』
「君が、ですか?」
『そう、私が!』
「なんで、君が威張るんですか…」

可笑しそうに笑う六道に嬉しくなってついつい唇をちゅっと合わせてしまった。

「なんです?誘っているんですか?」
『さっきから誘いっぱなしでしょー』
「おや、それは気づきませんで」
『まあ、一緒に美味しいもの食べて美味しいお酒を呑んでくれたら許してあげる』

仕方ありませんね、とお尻を持ち上げられて抱えられ直すと六道の唇がやっぱり丁度いいところにあったからまたちゅと口づけるとさっきよりもえろいキスを食らってしまった。まじでねっとりしてて気持ちいいな。ご馳走さまでした。
それから抱えられたまま皆の元に戻るとみんな変な顔をして出迎えてくれた。出迎えご苦労。

『ボス、六道を確保しました!』

ビシッと敬礼してボスに報告すると目を丸くして、でもどこか嬉しそうに「ありがとう」と笑ってくれて獄寺や山本も誉めてくれた。

「やるじゃねぇか!」
「でかした!」
『ふふん、すごいでしょ!』

自慢げに胸を張っていると不機嫌そうなため息と共にそっと耳打ちされた。

「なんですか、彼らに言われて僕を呼びに来たんですか?」
『まっさかー。私が六道にちょっかいかけたくなっただけだよ』

なんとも面白く無さそうな顔をした六道を宥めながら酒を持たせてみんなで乾杯をした。



*

まあ、そんなわけで私の記憶はそこで途切れているわけだが目の前の六道はまだまだ私を凝視している。目が乾いたのかぱちりと瞬きをひとつして、言っておきますけど、と前置きをして口を開いた。

「君が一緒に帰るとしがみついて離れなかったんですからね。お陰で僕のシャツは君の涎まみれですよ」
『それは大変ご迷惑をお掛けしました…で、この状況は…?』
「抜くのがもったいないといってそのまま寝たのを覚えてないんですか?」
『あー、それってよっぽど六道が気持ちよかったんだね。重ね重ね失礼を……?』

言いながら六道の上から身体を退かそうとした。しかし私の身体は私の意思に反してすとんと再びその場に腰を落ち着けた。その際、変な声が出たのはおいておこう。しかし…腰が持ち上がらない…だと…?

『えっ…なんで、』
「どうしてでしょうねえ」

意地悪く細められた瞳には寝癖で跳ねたぼさぼさ頭に間の抜けた顔をした私が映っていた。

「皆と別れてからの昨日の君の行動、全てお話しましょうか?」

聞くべきか、聞かざるべきか。
六道のとてつもなく愉しそうな顔を見ていると嫌な予感しかしない。






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