ああもうランボがまたリボーンに返り討ちにあって泣き出そうとしている。
我慢を連呼するのはいいが未だに実行出来た試しがない。
厄介な武器に頼ろうとする前に早々に回収しなければと慌ててランボの元へ駆け寄っているとやっぱりいつもの武器を頭から取りだし発射しようとしているではないか。
このまま大人ランボに代わってもらって場を納めるのもひとつの手かもしれないなあ。なんて諦めに似た境地になりつつのろのろと足を動かす。
リボーンの奴が反撃とばかりにランボの頭を蹴った。地面にめり込んでぐぴゃあなんて泣きながらバズーカがガシャンと音をたててランボの手から離れる。カチッと嫌な音がして発射される弾。それがなんのミラクルかリボーンの方へ向かっていく。
十年後のリボーンってどんな感じになってるんだろうってちょっと興味がわいたのは内緒。
身を呈して守るなんてことはしない。また棺桶の中にいたら嫌だし。
ひやひやと弾の行く末を見守っていると不意にリボーンが相棒のレオンを掴みバットに変形させて弾を打ち返しやがった。ホームランじゃないですかーもう!!
そしたらなんとお約束とばかりに近くを歩いていた人に軌道が反れた。
きゃあ!なんて短い悲鳴が聞こえてきた。どうしよう。ついにこの日がやって来たか。今まで無かったのが不思議なくらいなんだけど全然関係ない人を巻き込んでしまった。制服は俺たちと同じ並中の女生徒のものだったような気がする。
でも万が一バズーカに当たっていないのなら驚かせてしまったことを謝るしかない。
恐る恐るまだ収まらない煙をかき分けてその人物へと近付く。

「あの、大丈夫ですか?」

声をかけたところで煙の中にきた人の顔が見えた。

『……沢田くん?』

俺と目が合うと驚いたように目を丸くしてじっと凝視された。
もちろん俺だって、その女の人に目が釘付けになった。誤解して欲しくないんだけど、俺が釘付けになったのは一目惚れとかそんなんじゃないってこと。
だってその女の人は大きなお腹を抱えていたから。
うわー。十年後って女の人だったら当然こういうこともあるんだ、なんて今更ながらに気づく。今まで未来に行っていた時も京子ちゃんやハル達といった身近な女の子達は身籠ってなんかいなかったからすっかり頭の中から抜け落ちていた。

「あの、どこかぶつけたところとかないですか?!」
『うん、ちょっとびっくりしたけど大丈夫』
「えっと、」

ゆっくりとした動作で身体を確認しながらにこりと笑った女の人にほっとした。

しかしここで疑問がひとつ。女の人を確認してみたけどやっぱり心当たりがない。

『どうしたの?』

しかし向こうは俺のことを知っているようだ。

「すみません、誰ですか?」

虚をつかれたように一瞬黙ったが、ああとどこか納得したように頷く。

『今まで接点がなかったから。たぶん来年から同じクラスになると思う。その時は宜しくね』

ふわりと優しく微笑んだその人にちょっと見惚れてしまった。それから慌てて頭を下げた。

「それはもちろん!あの、本当にごめんなさい。」

ランボにもごめんなさいを一緒にさせようとしたけど、するりと俺の手をかいくぐってあんなに派手に泣いていた涙はどこに消えたのか「ランボさん知らないもんね」という捨て台詞をはいてあっさり逃げだした。くそ、ランボのやつ後で覚えてろよ!
俺達のやりとりをくすくすと楽しそうに眺めていた女の人は五分たったのかまたもや煙に包まれていく。

「あっ、名前…」

聞き忘れていたことを思い出したがまあいいかと思い直す。あと、数ヵ月もすれば会えるだろうし。また会えることを信じて。


*

「えっと、」

これは予想外だ。
泣きじゃくる並中生を前に俺は非常に身の危険を感じていた。「ツナ、やるじゃねぇか!」の家庭教師の称賛なんて全然嬉しくない。きっと騒ぎを聞き付けた風紀委員…っていうか雲雀さんが「ふうん。まさか草食動物の君が婦女暴行なんてね」ほら来た!って俺じゃないです。断じてこれは俺じゃない。
リボーンと雲雀さんを見て顔を青ざめてガタガタ震え出した女の子に「大丈夫?」と声をかけると腰を抜かして後ずさる。えっ、ちょっと待って。俺、何もしてないよ。むしろ十年後の君に宜しくねって言われたくらい仲良しだったじゃないか。そんな態度だとますます誤解される。
夏の日差しは容赦なく降り注ぎ婦女暴行未遂というとんでもなく重たい冤罪をかけられた俺はこれからどう切り抜けるか忙しなく鳴くセミの声を聞きながら朦朧とした頭を抱え立ちつくしていた。


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