餃子

お昼休みのチャイムが鳴った。今日はお給料日だから奮発して外に食べに行こうとずっときめていたのだ。財布を掴み急ぎ足で会社を飛び出す。お昼の時間帯は混み合うから急がないと時間がなくなってしまう。
会社の近くで見つけた中華屋さん。ここのラーメンと炒飯と餃子と肉まんは絶品だと社内でも評判がいい。社食もいいけどたまには活気のあるお店もいいよね。
急いで来たものの既にお客さんの数は多い。
しかし運良くカウンター席に通されなんとか待たずに済んだ。
さてさて何にしようか。備え付けてあったメニューを見つめ悩む。

結局、炒飯と餃子にした。餃子にして臭いは大丈夫かな、と思ったけど看板娘の女の子に「ウチの餃子にはニンニクもニラも入ってないの」と魅力たっぷりのウインクでおすすめされたらこれはもう頼むしかない。

ワクワクしながら料理がくるのを待つ。
店内の様子を観察していると、女の子はにこにこ笑顔で案内、注文、更には料理まで一人でこなしている。すごいなぁと感心するばかりだ。
またお客さんが入ってきたみたいでいらっしゃいませー!という元気な声が店内に響く。
そして私の両隣に通されすとんと腰をおろした。
あれ、もしかしてこの人達連れだってきているんじゃないの?案内されたタイミングが全く一緒だったから間に挟まれてしまうとなんだか気まずい。席をずらそうと腰を浮かせていると「君はそのままで大丈夫ですよ」の声と同時に腕を引かれ再び椅子に座らせられた。「いやー、イーピンの餃子久しぶりだなあ」と看板娘ちゃんに声をかけておしぼりで手を拭いている男の人達の声に嫌に聞き覚えがあったから冷や汗が頬を伝う。いやいやまさか。あの人達がこんな定食屋さんに来るわけない。
そろりと左右を確認すると仏頂面でメニューを見ている霧の守護者とビールを注文しているボスがいた。

なんで居るんですか!?

もちろん声に出せるはずもなく、そっと席を立とうとした時に「おまちどうさま!」の声と共に炒飯と餃子がテーブルに置かれる。
なんでこのタイミングできたの!!「おっ、旨そうだね。俺も餃子頼もっかなあ」「僕も彼女と同じものをお願いします」同時に発せられた言葉に看板娘ちゃんは「はぁい」と可愛らしく返事をして厨房の中へと消えていく。一体どうしろと。「食べないの?」というボスのお言葉と霧の守護者の人から割り箸を手渡され観念していただきますと箸を割って餃子を口へ運ぶ。

『あつっ』

美味しいけど熱い。焼きたての餃子は凶器になりうる代物だった。熱さと格闘しながらモグモグと咀嚼をしていると霧の守護者の人から無言で差し出された水にペコリと頭を下げて口のなかを冷ます。

「火傷していませんか?」

心配そうな顔をして覗きこんでくる霧の守護者の人に慌てて目を反らす。熱さで顔が汗ばんできているのに見ないで欲しい。大丈夫ですと蚊の鳴くような声でぼそぼそ答えると「やらしい顔して困らせるなよ。ね、なまえさん」とやんわりと凄いことを言うボスの言葉に頷く事も出来ず代わりにレンゲで炒飯を掬って口の中へ運ぶ。


もちろん炒飯も最高だった。今日は思いきってここに来て良かった。他のメニューも気になるところだが、次はいつ来れるだろう。またボス達に会っちゃったら気まずいし。当分足が遠のくことになりそうで悲しい。折角の巡り会えた当たりのお店だったのに。
最後の一口を食べ終えてコップに残っていた水を飲み干す。まだまだお客さんは入ってくる。早く席を開けて待っている人達にここの料理の感動を感じてほしい。
伝票を掴み腰を浮かせつつおあいそをお願いしようとしたらすとんと椅子に逆戻りした。あれ?引っ張った先をちろりと確認すると黙々と炒飯を食べていた霧の守護者の人にぎゅっと手を握られていた。えっ、えええええ?

『あ、あのぅ…』
「デザートなんていかがです?」

すりすりと数度撫でられて離れていった手は今度はメニューを掴み握らされた。どうしろと。お腹はもういっぱいだし断ろうとしたところでボスののんびりとした声が割ってはいる。

「杏仁豆腐も美味しいよ。あとゴマ団子もおすすめかな」

にこにこと笑顔で一緒にメニューを覗きこんできたボスの顔面が目の前に伸びてきた腕によって遮られた。

「近すぎます。セクハラで訴えられても良いんですか?」

じろりと睨みつける霧の人の視線をものともせずへらりと笑った。さすがボス。

「えー?手を握られていた方がセクハラだよねえ?」

イエスともノーとも言いづらい。曖昧に笑っていると「そんな事ないみたいですよ」としゃあしゃあと言ってのける霧の人。ここにいたら二人の餌食になってしまいそうで…

「あの、そろそろお昼休みが終わっちゃいそうなんでこれで失礼します!」

今度こそ伝票を掴み逃げるように店を後にした。

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