懐石

この際はっきり言おう。難易度が高過ぎる。土台私には無理な話だったのだ。
そもそも会話が成立しないどころか言葉を発してくれないんじゃこちらもやりようが無いわけで。視線すら合わせてもらえない私にどうしろと。
お父様この日のことはこの先の長いのか短いのか分からない生涯を掛けて恨み続けます。虚ろになりつつある目で仏頂面のあの人をちらりと盗み見して口をついて出そうになった溜め息を飲み込んだ。

そもそもボンゴレなんてどうやって知り合ったというんだ。しかも暗殺部隊なんていう物騒な集団のボスなんて人と会食の機会なんて要らんもんをセッティングしやがって。ああいけない。私は良家のお嬢様という体でこの人の前にいるというのに。まあ良家なんて名ばかりの成り上がりの弱小どころか零細マフィアの一人娘とかいうなんとも心許ない肩書きしか持ち合わせていない私にはこの目の前の人を拐かすなんて無理だ。今日は目の前の美味しそうな料理…日本の懐石っていうんだっけ…?を食べて大人しく帰ろう。うん、そうしよう。

「…おい」

低く地を這うような低い声にびくりと肩が跳ねる。

『は、はいぃいいい?!お、お飲物おつぎしましょうか?』

無理無理無理無理絶対無理。
赤い瞳で見つめられると手が震えてくる。落ち着け…ここで粗相なんてしたら関係悪化どころかうちのファミリーが潰されかねない。と、とりあえずお酌をしてから…震え出そうとする手にぎゅっと力を入れて徳利を掴む。そっと差し出したら彼もお猪口を手にした。いい感じだ。注ごうと近づいてちらりと間近で彼の顔を盗み見る。
ああ、雰囲気は怖い感じの人だけどよくよく見れば随分整った顔立ちをしているな、と思った時点で今度は別の意味で心臓がうるさくなった。
落ち着いて落ち着いて。すうっと深呼吸をひとつして徳利を傾けたところで私の手元は意思に反して再び震えだした。お、落ち着け。
そして狙いのずれた徳利から流れるお酒はお猪口から勢いよく溢れて彼の膝元を濡らした。

詰んだ。




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