伊勢うどんソフト

「という事でやってきました!三重県!」
「…どういう事なんだあ。」

アジトの談話室のソファに転がりながら、携帯を弄っているなまえに下心満載でイタズラしてやろうと近づくと、いきなりなまえが顔を上げて「日本に行こう!」と言い出した。
訳が分からずも、特に予定もなかったので着いてきたわけだが、てっきり並盛に行くのかと思いきや三重県。
訳が分からねえ。

「スクアーロは三重県初めて?」
「そうだなあ、特に用事もなかったしな…。」
「ふふー!スクアーロの初めてもらっちゃった!」
「んな、何いってやがる!!」
「スクアーロに美味しいもの食べさせてあげるよ!」
「人の話を聞きやがれえ!」

俺の手を引っ張って道を進んで行くなまえは楽しそうだ。
そんな恋人の可愛い表情を見て俺も久々のデートに少し楽しくなってくる。引っ張られていた手を恋人繋ぎに変えた。

「美味いものってなんだあ?」
「三重県と言えば?」
「…松坂牛かあ?」
「ぶっぶー!もちろん松坂牛も美味しいけど、それはスクアーロに奢ってもらいます!」
「…いや、構わねえが当然の様に言うんじゃねえ。」

ふふー。とにこにこ笑ってくっついてくるなまえにもう肉でも海鮮でも好きなもん食わしてやる…と思ってしまう俺はちょろいんだろう。
まぁ、こいつが食べてるところを見るのは好きだから一向に構わないのだが。
しかし、見えてきたのは水族館だった。
遊んだ後に食べに行くのかと思いきや、入った瞬間に向かった先はレストラン。
特に何の変哲もないどこにでも入ってそうなレストランだ。
もっと違うテイストの店を想像していただけに拍子抜けしてしまった。
それとも水族館で遊んで腹を空かせた後に食べに行くつもりなのか。
しかしそれなら何故いきなりレストランなんだ。
今俺の頭の周りにはクエスチョンマークが飛んでいるだろう。

「スクアーロ並ぼ。」
「あ、あぁ。」

休日なのでそれなりに人もいてカウンターには人がずらりと並んでいた。
暇つぶしになまえにちょっかいを出したり、後ろから抱きついたりしているとすぐに順番が回ってきた。
「ちょ、スクアーロ!」なんて恥ずかしそうに頬を赤く染めて怒っていたなまえも順番が来たとわかるところりと表情を変えた。
メニューに一瞬目を通したと思ったら、すぐに口を開いた。目当てのものが決まっていたのだろう。

「伊勢うどんソフトひとつください!」
「は?」
「あ、スクアーロも食べる?ふたつにしようか?一緒に食べようと思ったんだけど…。」
「いやいやいや、そうじゃねぇだろお!なんだ
うどんソフトって!」
「食べてみればわかるよ。すみません、やっぱりふたつで!」
「…いや、俺はいい。」
「お兄さん!食べていきなよ、結構人気あるんだよ!ふたつでいいね?」
「はい!」
「う"お"ぉおい!だから俺の話を聞けえ!」
「それじゃ、出来たら呼ぶからちょっと待ってね。」
「はーい!」
「…俺は知らねぇぞお。」

テーブルにつき、にこにこと笑っているなまえに悪寒を覚える。

「楽しみだねぇ。」
「…俺は嫌な予感しかしねえ。」
「えー?」

本当に楽しみなのか、足をゆらゆらさせながら俺の手をにぎにぎしてくる。
可愛い。可愛いが、騙されねえぞお。
なんだ伊勢うどんソフトって。
聞いたことねえぞ…。
戦々恐々としながら、出来上がりを待つ。
しっかりしろ、俺。もしかしたら、俺の想像とは違ってまともなもんが出てくるかもしれねえだろ。
そんな事を悶々と考えていたら出来上がったようでなまえ が「ちょっと待っててね」と、席を立ち両手にふたつの容器を持ってきた。
目の前に出されたそれは想像通り…というか、想像以上だった。
…何だこれ、食えんのか…。
うどんの上にソフトクリームが乗っかっていて、かまぼこ、ネギがトッピングされている。
正直に言うと別々にして欲しかった。

「美味しそう!いただきまーす!」
「う"お"ぉおい!ちょっと待てえ!本気で食うのか?!」
「何言ってるの?そのために来たんでしょ?」
「俺はこんなゲテモノ食いに来たなんて聞いてねえぞお!!」
「もう、スクアーロ!失礼だよ!それになんか斬新で美味しそうじゃん。」

そう言いつつ、目の前の伊勢うどんソフトとやらを頬張って、にこにこと笑っている。
信じられねえ…。
自分の分をちらりと見るが食う気がしない。

「スクアーロ、ほら、あーん!」
「いや、おい「口あけて!こぼれちゃう!」…。」

口の中に広がる甘みと麺つゆの味になんとも言えない顔になる…見た目通りマズい…。
しかし、笑って食べているなまえの前でマズいなんて言えねえ。

「スクアーロのとけちゃうよ?」

トドメを刺された気分だった。
もうやけくそになって、スプーンを手に取り口の中に突っ込む。

「…マズい…。」
「え?なんか言った?」
「!いや、何でもねえ!」

つい思ったことが口をついて出ちまった。
焦ってもうひと口頬張るが、どうやったって終わりが見えない。

「へぇ!」

いきなり声を発したなまえの目線の先を見てみると、看板がありそこには「唐辛子をかけてもグッド!」の文字。
更に嫌な予感しかしねえ。

「これはかけるしかないね!」
「お前は怖いもんなしかあ!!」

早速備え付けの唐辛子を手に取りソフトクリームにかけるなまえ。
頼むから俺のにまでかけるのはやめてくれ…いや、純粋な好意なんだろうが。
ひとくち食べてみると、先ほどのソフトクリームが少しピリ辛になったくらいだ。
なまえはどんどん食べ進めていき、もう少ししか残っていない。

「…俺のも食うかあ?」

一縷の望みをかけて聞いてみたが、「大丈夫、満足したから!」の一言で粉砕した。
どうにかこうにか食べ進めていきソフトクリームまみれのうどんが残った。
やっとここまで来たか…と冷たいうどんを咀嚼する。
…次になまえが何か思い立った時はどこに何をしに行くのかしっかり聞かなければ、と俺は心に誓って最後のひとくちを口の中に放り込んだ。


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