最悪の運勢
次の日、私は、登校途中で派手に転んだ。
最初は歩けたし、痛みもそんなではなくて、大した事はないとたかをくくっていた。
でも、途中からズキズキと痛みが強くなってきて…流石にマズいと思った時は、既に校門の近く。
病院まで引き返すのも辛いので、取りあえずそのまま校門を入る。
どうしようか?
保健室…先生、いるかな?
職員室で報告した方がいいかな…
途中、足を引きずりながら、体育館の前を通りがかった。
バスケ部が朝練をしているらしい。
扉が開いていた。
一瞬の事だった。
開いた扉から、バスケットボールが勢い良く飛んで来た。
ぶつかる!!!
避けたくても、足が痛くて動かなくて。
次に来る衝撃を覚悟した、その瞬間
「何をやっているのだよ!?」
衝撃は来なかった。
『緑間君…!?』
私は茫然と座り込んで、大きな背中を見上げていた。
緑間君が私の前で、ボールを叩き落としていた。
そして手を貸してくれて、私を立たせてくれた。
「…苗字、足をどうしたのだよ?」
『登校途中で転んだ』
「バカめ。蟹座は最悪の運勢なのに、ラッキーアイテムを持って来ないからだ。本当に、おは朝は良く当たるのだよ」
そんな緑間君は、昨日のピンクのウーパールーパーをしっかり抱えていた。
緑間君は、体育館の中に入って、監督と先輩達に何か言っている。
宮地さんが出て来て、「ドア開けっ放しで悪かったな」と謝って来た。
「保健室に行くのだよ」
緑間君は、私をウーパールーパー枕と一緒に、背中と膝裏に手を入れて、抱え上げて保健室に向かった。
これって、所謂「姫抱っこ」!?
顔が近いよ!! 身体は密着してるし、心臓が爆発しそう。
私はパニック寸前で固まってる。
周りの生徒達は驚いてガン見するし。
保健室には先生はいなかった。
緑間君は「苗字、足を出すのだよ」と言ってきた。
私は恐る恐るぶつけた膝を出す。
他意はないと分かっているのに、何だか恥ずかしい。
緑間君は、私の膝をゆっくり撫でながら確かめていた。
そんな風に触られると緊張するな。
それにしても、綺麗な指だな。
なんか、ドキドキして来た。。
「骨は大丈夫みたいだな。痛いか?」
『…うん』回すと抜けるような脱力感を伴った痛みを感じる。
「多分捻挫だとは思うが…ちゃんと医者に診てもらうのだよ。今日は帰りは送って行く」
『えっっ!? 緑間君は部活あるんだからいいよ』
「………お前は一点もののラッキーアイテムを、運勢最悪の時に俺に譲ってくれた。言わば、俺の身代わりに怪我したようなものなのだよ」
参ったな…
要らないから押し付けただけなのに。
罪悪感でいたたまれなくなっちゃうよ。
まあ、でも…緑間君、バスケ部レギュラーなんだし、
『怪我したのが私の方で良かったよ。私なら運動関係ないから、しばらく動かなくても何とかなるし』
やっぱり最悪を回避するラッキーアイテムは、緑間君が持っていて正解なんだな、うん。
緑間君はへらっと笑った私を、やや呆れた様子で見ていた。
彼の「お姫様抱っこ」は、高尾君が私達をからかうのに格好のネタとなった。