青色の夕闇
緑間君と別れてから一人、私は雨の中を歩いていた。
ダンッダンッ
通りがかったストバスコートで、ボールを突いてる音がする。
雨降っているのに誰だろう…?
覗いてみたら、青峰君がいた。
『大輝君…?』
「よう、名前!」
シュートしたボールは鋭い音を立ててリングに吸い込まれた。
『………?』
一見いつもと変わらない様に見えるけど、彼の様子に違和感がある。
うーん…これは荒れてると言うより…
「何だよ?」
『大輝君…落ち込んでる?』
「…っ!!」
『何よー…そんなに睨まなくてもいいじゃん?…それより、そのままだと身体冷やすよ』
私は、彼をコートの片隅にある、屋根付きのベンチに引っ張った。
水族館のショップで、お土産に買ったタオルで頭を拭いてやる。
彼は柄にもなく、大人しくベンチに座り、されるがままになっている。
私は、彼の横に腰を下ろした。
「………」
『………』
雨の音が辺りを支配する。
青峰君がぼそりと口火を切った。
「…さつきと喧嘩した」
『どうして?』
よくいつも言い合いしているが、今回は恐らくそんなレベルではないのだろう。
「海常とやった時に肘を少し痛めたら、さつきのヤツ、それに気が付いて監督に言いつけやがって…俺はスタメンから外された」
『…それで言い合いになったの?』
「…ああ。赤司とやるのを楽しみにしてたのによ。俺もカッとなって…「余計なお世話だ、もう二度と顔を見せんなブス!!」って」
『おい…』
女の子相手にブスはないだろ。
「さつきのヤツ、泣きながら出て行って…学校の中を探したけど、居やがらねえ」
『桃ちゃんは大輝君の事、心配したんでしょ』
「あんなん…怪我のうちにも入んねーよ」
青峰君は弱々しく呟いた。
彼も、言い過ぎたと後悔しているのかもしれない。
今の青峰君は、頼りない子供の様に見えた。
桃井さんが「放っておけない」と言ってる意味が分かる様な気がした。
所謂"バスケ馬鹿"な青峰君は、放っておくと暴走して転びかねない危うさがあるのだろう。
私は俯いている青峰君の頭を、タオル越しにわしゃわしゃと撫でた。
それにしても、この話は覚えがある。
確か桃井さんは…
『大輝君…桃ちゃんが心配?』
「んなことじゃねーよ…ただ、雨降っているのに傘と鞄が置きっ放しで、どこに行ったのかと思っているだけだ」
『…素直じゃないなー』
「あん!?」
話しているうちに、雨が止んでいた。
『雨…止んで来たね』
「ああ…」
幼馴染か…何か…いいなぁ…そう言うの。
私は、青峰君の背中を軽く叩いた。
『迎えに行って来なよ!』
「さつき、携帯も教室に置きっ放しなんだぜ?…どこに行ったか、分かんねーよ」
『桃ちゃんなら、誠凛高校の最寄り駅に行けば会えるんじゃない?…行き違いにさえならなければ』
「はぁ!?何故そんな事がお前に分かんだよ!!??」
『えーと…それは……女の勘なのだよ!』
「その言い方やめろ!」
青峰君は、私をじっと見ている。
『どうしたの…?』
「名前…お前さ…何か雰囲気が変わったな」
『雰囲気?』
「…上手く言えねーんだけど、女っぽくなったと言うか…可愛くなったと言うか」
『ええっっ!?』
「…もしかして、緑間と何かあったか?」
恐るべし、野生の勘…!!
私は顔が熱くなった。
「お前、顔が赤えぞ?…まさか…」
『…真太郎君と、お付き合いを始めました…』
言いながら、恥ずかしさに目を逸らした。
「マジかよ…?あの堅物が…!?信じらんねー」
青峰君は呆然としている。
『…ごめんね』
「……いいけどよ、お前、緑間とどこまで行ったんだ?」
どこまで?って…
私はきょとんとした。
『…寺と水族館…?』
「はぁ!??」
青峰君は脱力している。
「…なんでそこだけ天然でボケかますんだよ!?そーゆーこっちゃねーよ!」
私は素でボケた直後に、青峰君の質問の意味に気付いた。
更に顔が赤くなる。
「はぁ〜…」
青峰君は、私の顔を一瞥して溜息を吐いてから、立ち上がった。
「女の勘ってヤツは、案外当たるからな。さつきを迎えに行くわ…名前、話を聞いてくれてありがとな」
彼は照れ臭そうにお礼を言った。
私は嬉しくなって、微笑んだ。
『うん…女の子には優しくしなきゃダメだよ?』
青峰君は、私の頭をぐりぐりと撫でた。
「…は!お前こそ、緑間がイヤになったら、いつでも俺の所に来いよ!!?
緑間に、WC楽しみにしてるって伝えておけ。油断したら、いつでも俺がお前を奪いに行くって事もな!」
青峰君は、片手を上げて不敵な笑みを見せると、悠然とした足取りでコートを後にした。
私は青峰君の後ろ姿を見送った。
夕闇のひんやりとした風が、私の頬を撫でて行った。
→後書き