水族館にて
真太郎と、一通り回って遊んで。
新しく出来た近くの水族館にも行った。
青い光のアクアリウムがとても綺麗。
色とりどりの珊瑚、悠然と泳ぐ大小の魚達、ゆらゆらと舞っている海月達…
眺めているだけでも癒される。
生物が得意な真太郎と周ると、色々教えてくれるので、まるで講義受けてる気分になる。面白いけど。
『以前から謎なんだけど、[ホヤ]って、どんな生き物(?)なの? 水族館で実物見ても、さっぱり分からないんだよねー』
「あれは脊索動物に分類されるのだよ。脊椎動物よりは原始的な部類になるな。幼生はオタマジャクシに似た外見なのだよ」
『く、詳しいね。イソギンチャクに似てるけど、分類は全く違うのね?』
聞いても、結局よく分からないのだが…?
「ホヤの方が人に近いのだよ。ホヤは脊索動物のT遺伝子の研究で使われているのだよ」
アレが人に近いって言われても…w
ずっと歩いて行くと、イルカショーのプールがあった。
丁度始まる時間みたいなので、観て行く事にする。
でも真太郎は「…俺はあまり気が進まないのだよ。大体、客寄せの為の子供騙しなのだよ」と、渋っている。
『そーかな?イルカ、可愛いじゃん? 客寄せでもいいよ、面白ければ』
それでも、私の言葉に渋々付いて来てくれる。
席に着いて暫くすると、トレーナーが出て来てイルカの紹介を始めた。
そして、ジャンプ、輪潜り、宙返り、トレーナーを乗せて鼻先で放るなど、一通りの芸をしていく。
トレーナーは客席に向かって、
「それでは、お客様の内どなたかイルカ達に指示をしていただけますか?したい人、手を上げてください!」とアナウンスした。
そしてそのトレーナーは、こちらを向いて、にっこりして言った。
「それでは、その緑の髪の方、どうぞ!!」
…は!??
私は驚いて隣を見ると、真太郎が颯爽と手を上げていた。
『ええーっ!?さっきの文句は何だったの!?』
私の突っ込みに、真太郎は涼しい顔で答えた。
「何でもチャレンジしてみるのだよ」
彼はプールの縁に入ると、トレーナーのレクチャーを「それでは面白くないのだよ」と、一蹴した。
「お…お客様?」トレーナーは狼狽えた。当然だ。
私はトレーナーに密かに同情した。人選を誤った事を悔いても、もう遅い。
「俺はやるからには、何事でも人事を尽くす」と、唖然としたトレーナーと観客に向かって堂々と宣言して、テーピングを外した。
どうやら本気らしい。
マイペースにも程がある…w
私は、こめかみを押さえた。
本来なら、尾びれで泳がせたりとか、逆さに泳がせたりとか、鰭で握手するとか、そんな簡単なコミュニケートをさせるコーナーの筈なのだが、
そんな事は意に介せず、真太郎はトレーナーにボールを持って来させた。
…心なしか、イルカ達も戸惑っている様に思える。
訓練にないことされりゃ、無理もないわな。…イルカも災難な話だ。
真太郎は、係の者に輪を高く掲げさせ、イルカの頭を撫でて一言二言何か言ってから、徐に離れた。
そして狙いを定めると、正確にボールを放った。
イルカは、ジャンプして輪を潜り、鼻先で見事にボールを弾き、二頭目もジャンプして更に弾いた。
そのボールは放物線を描いて、真太郎の手の中に落ちた。
難易度の高い技が成功して、客席は大いに沸いたが、トレーナーは呆然としている。
「…あんな技、練習してないぞ…?」
そんなトレーナーの呟きが聞こえる様だ。
『マジ真太郎って何者…???』さすが。伊達にキセキと言われてないな…w
トレーナーはよろよろと中央まで歩くと、「…み、見事な芸でしたね!…それでは皆様、拍手をどうぞ!!!」
と、何とか最後を締めた。
緑間君は、ドヤ顔で眼鏡のブリッジを上げている。
彼の前左右には、イルカが上半身を出し、やったぜ感満載で鰭をひらひら動かしている。
会場は割れんばかりの拍手に包まれた。
真太郎は観客の視線を浴びながら、私の隣に戻って来た。
『…お…お疲れ様…凄かったねw』
「俺がやるからには当然だ。イルカも中々面白かったのだよ」
『イルカに何言ってたの?』
「どうせやるなら人事を尽くせ、と言って来たのだよ」
………。
そもそも「人」じゃねーし。
つか、どこから突っ込んでいいんだ?これ……???
一通り巡って、彼はショップで、嬉々としてペンギングッズとミナミアメリカオットセイの縫いぐるみを購入していた。
…真太郎の部屋って、ラッキーグッズ候補でカオスに溢れかえっているんじゃなかろーか…?
ちょっと見てみたいなぁ。
※※※
外に出たら、雨が降っていた。
「フッ。この俺に抜かりはないのだよ」
真太郎は、折り畳み傘を出して、差しかけてくれた。
二人で肩を寄せ合って歩く。
「名前、もっとこっちへ来るのだよ。濡れるぞ」
真太郎は、私の肩を抱いた。
真太郎を見上げると、彼の顔は真っ赤になっていた。
「見るな!」
『いや、だって…真太郎、顔真っ赤…』
「それ以上余計な事を言うと、お前の口を塞ぐぞ!」
意味を悟った私の顔も真っ赤になる。
「名前…お前も人の事言えないのだよ。真っ赤になってるぞ?」
『誰のせいだと…んっ!?』
真太郎の傘は、周りからの視線を遮っている。
私の唇は真太郎のそれで塞がれていた。
『〜〜〜!!!』
私は、彼の意外と大胆な不意討ちに固まった。
そんな私を見た彼は、勝ち誇った様に言う。
「フッ、赤い顔はお互い様なのだよ」
告り合って、お互いの関係は確かに変わった。
この様に濃密に触れ合うなんて、今までは考えられなかった事だ。
でも、私はいつまで経っても慣れそうにない。
心臓がいつまでもバクバクしている。
※※※
真太郎は、家族との用事があるので、途中の最寄り駅で別れる事になった。
「本当は家まで送りたかったのだよ。…すまない」
『ううん。まだ早いから大丈夫。今日はとっても楽しかった! また、デートしようね!』
「当然だ。リベンジするぞ!…今度は絶対二人で大吉を狙うのだよ!!」
『…えっ!?また、あそこで御神籤引くの!?』
変な所で負けず嫌いなんだな。
私は苦笑しながら手を振った。
『またね!…愛してるよ!!真太郎!!』
「んなっ!?」
リベンジもいいけど、大凶だって平気だよ。
真太郎と一緒にいれるのなら。ほら、こんなに幸せだもの。