それから


overheat


今日は茹だる様に暑い日だった。

秀徳高校は、まだ夏休み中だが、WC予選に向けてバスケ部の練習は厳しさを増していた。
私は臨時でマネージャーを引き受けたが、夏休みのほとんどをバスケ部と共に過ごしていた。

それでも私は、毎日が楽しかった。
何故なら、彼氏である秀徳のエース…緑間真太郎と同じ時間を過ごせるのだから。

体育館は熱気に溢れていた。
窓は開け放っていたけど、風は無く、湿度が高い。
冷房なんて、望むべくも無かった。

あ…暑い…!
私は、運動している選手程動いてはいなかったけど、全身から汗が滴り落ちていた。

それでもドリンクを作ったり、色々と動き回ってはいたけど。

何となしに体調が悪い気がする…
私はふらついた。
何か…眩暈がする。

「名前っ!?」
一瞬ブラックアウトを起こして倒れかけた私を、誰かの腕が支えてくれる。
この声は…真太郎…?

彼の手が私の額に触れた。
冷たくて気持ちいい…
でも、聞こえた彼の声は切羽詰まっていた。
「名前…!!身体が熱いのだよ!」

口に温かく柔らかいものが押し当てられ、液体が流れ込む。
私は無意識に嚥下した。
微かに甘い…これは…スポーツドリンク…?

「うわっ!?真ちゃん、口移し…!?大胆!!」
高尾君の声だ。
じゃあ、これを飲ませてくれたのは真太郎……?
少しだけ身体が楽になった。

先輩達の心配した声も聞こえて来る。
「緑間!!苗字は、どうした!?」
「…多分、熱中症ではないかと。保健室に連れて行きます!」

※※※

保健室まで、彼は私を姫抱っこして連れて行った。
『…ご、ごめんね。練習してる途中なのに…』
今は大切な時なのに、私が足を引っ張ってどうするんだ。

私は自分が情けなくて涙が出て来るのを止められなかった。
でも、泣いている場合じゃないのに。余計に心配をかけてしまう。

「名前…大丈夫だから…泣かないのだよ」
真太郎は私を抱えながら、唇で優しく涙を拭ってくれた。

保健室には、先生は不在だった。
真太郎は私をベッドに寝かすと、エアコンを入れ、タオルを濡らして、ベッド脇のカーテンを閉めた。
首筋に冷たいタオルが当てがわれる。

「恥ずかしい思いをさせてすまない…が、少しだけ我慢するのだよ」
彼は、私のTシャツを捲り上げ、ボトムスを下げて、慎重な手つきで、両腋と足の付け根にも濡れタオルを当てた。

下着が見られてしまってる…恥ずかしい…けど、私は朦朧としていて、反応が出来なかった。
真太郎が傍で扇いでくれてるらしく、涼風が肌を撫でていく。
一気に身体の熱が下がって行くのを感じた。
ふと風が止まった。
『……?』

目を微かに開けると、真太郎が私に覆い被さっていた。

彼はドリンクを手に取ると、口に含んで私の唇に押し当てた。
僅かに開いた私の口から、ドリンクが流れ込んでくる。
私は微かに甘いその液体を飲み下した。

彼の指が、口の端から零れた雫を拭う。

私は一連の手当に少しずつ、身体が冷やされ潤っていくのを感じていた。
『ありがとう…真太郎』
私の微かな声に、彼は微笑んだ。
「どうだ?少しは楽になったか?」
『うん。…練習を止めさせちゃってごめんね?』
「気にするな。…他の奴等に、こんな事はさせられないのだよ。名前のこんな姿を見ていいのは、俺だけなのだよ」

真太郎に、甘く耳元で囁かれて、体温が一気に上昇していく。
今までのとは違う熱に侵されそうだ。
いっ今は、クールダウンしなきゃならないのに!!

真太郎は、私の顔を覗き込んだ。
「…大丈夫か?名前…何だか顔が赤いようだが…」
『だっ…誰のせいだと…!?』
真っ赤になった私は、思わず言い返してしまった。

真太郎は、ふっと笑みを零すと、私の頭を撫でた。
「それだけ元気になったら大丈夫だな。ドリンクはここに置いておくから、もう少し休んでいるのだよ」
彼は身体を起こすと、カーテンを開けて出て行こうとした。

私は、それを無意識に掴んだ。
『…あ…』
真太郎のTシャツの裾を。

しかし、私はすぐに離した。
「…名前?」
『…ご、ごめん。私は大丈夫だから…』
いけないな。…倒れて少しだけ気が弱くなっちゃってる。
これ以上、足を引っ張る訳にはいかない。

彼は戻って来てベッドの脇に座り、私の手を両手で包み込んだ。
「眠るまで…」
『え?』
「名前が眠るまでここにいるから、安心するのだよ」
『真太郎……ありがとう…大好き…』
私は安心して、そのまま意識を優しい闇に委ねた。

熱い吐息と、柔らかい感触を唇に感じながら…

「こっちは理性が限界なのだよ…名前…」
意識が闇に沈む直前、そんな囁きが聞こえた様な気がした。


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