それから


夏祭りはトラブルの嵐


今日は、近くの大きな神社の夏祭りの日。
部活もお休み。
そして、真太郎と浴衣でデートする約束をしている。

おは朝によると、今日の蟹座の恋愛運は好調!
ラッキーアイテムは[黒胡椒]…
「予期しない危険な事があるかも?」ってご神託が少々気にかかるけど、順位はそう悪くも無い。

とても楽しみ♪
さて、着付けもして貰って準備万端!

丁度時間きっかりに真太郎が迎えに来た。
『わー…』
私は感嘆の声を上げた。
「名前、何なのだよ?」
『真太郎…男らしくて恰好良いよ!』
「なっ!?」
真太郎は真っ赤になった。

そして、俯くと小声で何かを呟いた。
「名前…お前も…なのだよ…」
『…ん?』
私が聞き取れなくて、小首を傾げて真太郎を見上げると、彼は口を押えて顔を背けながら、
「お前も…その…桜色に撫子の柄がよく似合って…綺麗なのだよっ!!」と言い切った。
その…褒めてくれるのは嬉しいんだけど、そこまで照れられたら、こっちまで恥ずかしくなってしまう。
『あ…ありがとう…』
返した私も真っ赤になる。

「では、行くぞ」
真太郎と手を繋いだ。

キスまでした仲なのに、手を繋ぐだけでドキドキする。
…やはり、お互いにいつもと違う姿だからかな?

※※※

結構大きなお祭りなので、神社は賑わっていた。
お祭り見ると、何故だかワクワクする。
隣に真太郎がいるからかもしれないけど。

真太郎は、何かを探している様だった。
『…何を探しているの?』
「ラッキーアイテムになりそうな物を探しているのだよ。…あそこだな」
呟くと、私の手を引いて歩いて行く。

『…射的?』
「あそこの玩具やパズルを当てたいのだよ」
『へー…真太郎、射的得意なの?』
「…正直に言うと、あまり得意ではないのだよ…投げてぶつけるものなら、百発百中なのだが」
『…百発百中って…的屋の人、泣いちゃうよ?』

私は暫く真太郎の横で見ていた。
自分で言っていた通り…中々当たらない。真太郎の機嫌が目に見えて悪くなって来た。…うわぁ…

そんな時。

「彼ー女?可愛いねぇ。射的に夢中な彼氏なんか放ってさ、俺と一緒に遊びに行かね?」
いきなり見知らぬ若い男から声をかけられた。

私は無視した。
隣に彼氏がいるのが分かっているのに、ナンパするってどんな神経してるんだ?

「ねー、無視なんてツレない事しないでさー…」
ああもう、しつこい!!
撃退してやろうか、と横を向いて口を開きかけた時、突如、真太郎が銃をナンパ男に向けた。
「こいつに手を出すのは俺が許さん」

「なっ…!?」
的屋の親爺も慌てて止めに入る。
「お客さん、銃を人に向けちゃダメですよ!!」

『貸して、真太郎』
私はナンパ男を睨み据えながら、真太郎から銃を奪った。

そうしたら、何故かナンパ男は逃げて行った。ふん、ビビりがw
「名前、何をするつもりなのだよ?」
『真太郎、お目当ての物は何?』
「あの…怪獣の貯金箱なのだよ」
『中々個性的な景品だね…怪獣が小判を抱えてらw』
「招き怪獣なのだよ」

私は構えると、意識を集中させて引き金を引いた。
見事命中して、招き怪獣は棚から落ちた。
『やった!当たった!!』
私は銃を縦に構えてガッツポーズを取った。
これで、真太郎の機嫌も直ればいいんだけど。

「…名前、浴衣姿の女性がそんなポーズを取るものではないのだよ」
そこ、突っ込む所か?
周りでは、「姐さん、カッコいい〜!」とか、声援が飛んでいたりする。
周りの声援に応えて、調子に乗って、銃を構えてポーズを取っていたら、真太郎に取り上げられてしまった。

そして、彼は、私の耳に口を寄せて囁いた。
「目立ち過ぎだ。お前の…その…可憐な浴衣姿が、沢山の男達の目を引くのは我慢ならんのだよ!」
『…え?』

あの…もし?…可憐て言いました?
……可憐な女は、銃構えたりしないと思うんだけどなぁ。

そんな事を考えたけど…それは、私の照れ隠しなのかもしれない。
その証拠に、心拍数が上がってる。
さらっと殺し文句を言ってのけるくせに、自覚の無い所が恐ろしい。天然タラシはこれだから…

そして、真太郎は、私の腕を引いて、さっさと歩き出した。
「今度は輪投げだ!」とか言いながら。

※※※

輪投げも真太郎は、かなり苦戦した。
けど、苦心惨憺した挙句、やっと希望の物をゲット出来た。

真太郎はドヤ顔で、眼鏡のブリッジをくいっと上げる。
「…こんな事もあろうかと、輪投げは普段から練習を怠らなかったのだよ」
『えっ!?…練習してたの!?…輪投げを!?』
「中学2年の時からずっとな。…人事を尽くした甲斐があったのだよ」
この為に…?
私はこめかみを押さえた。

『…ラッキーアイテムをゲットするって…奥が深いんだね』
真太郎は頷いた。
「中学の時は上手く行かずに、紫原にやってもらったが…俺も精進したのだよ。まだまだだがな」

輪投げの精進か…ここは突っ込む所なんだろうか…?
マジで真太郎と一緒にいると飽きないわ。…その内きっと、彼は輪投げのスペシャリストになってしまうに違いないw

※※※

私は歩いている内に、足の異変に気が付いた。
少しだけど、鼻緒が擦れて痛い。
歩けない事はないけど、少し足を引き摺ってしまう。
彼に無用に心配をかけたくないけど、どうしようか…?

「そこの休憩所で、少し休んで行くのだよ」

真太郎は、テントを張ってベンチを並べただけの簡易休憩所に、私を座らせると、
「飲み物を買って来るから、そこで待っていろ」とだけ言って、一旦離れた。

…足、痛めているのを気付かれちゃった?
だから、わざわざ自分だけで買いに出たのかな。

私は、真太郎の優しい気遣いに感謝していた。

※※※

「あれ、綽名っちじゃないスか?」
聞き覚えのある声に、私は振り向いた。

『その声は、涼太君?』
「綽名っちの浴衣姿、とても可愛いっス。可憐で色気もあって…ぐっと来るっスね!」

しかし、そこに立っていたのは、私の想像した姿とはかけ離れていた。

いや…黄瀬君ではあるのだが…水色を基調とした浴衣姿はいいとして、問題はその…頭部にあった。
私は目を丸くした。
『涼太君…何で般若面付けているの?』背が高いのにその面は怖いって…w

「いや〜俺、顔見せていると、沢山の女の子に囲まれてしまって歩けないんスよ」
イケメンモデルならではの悩みか。…モテない男が聞いたら憤死しそうだなw

『それで般若…?でも、何故に般若?…他にも色々なお面があるじゃない?』
「アニメのお面は、子供達に纏わり付かれてしまって、結局正体がバレたりしてしまうんス。
般若なら、大抵の人は怖がって寄って来ないっスからね。…それに、般若面には、ちょっとした思い出があるんスよ」

思い出…?…まさかね。
私は頭を走った自分に都合のいい考えを振り払った。

『でも、祭りの中、一人参加は寂しくない?』
「一人じゃないっスよ。…でも、綽名っちと一緒なら、それも楽しそうっスね」

黄瀬君は、般若面を外し、人懐こい微笑みで私を見やる。
これは…私を誘っているんだろうか?
…でも、今の私は、このお誘いを受ける訳にはいかない。
私は、お断りの事情を言おうと、口を開きかけた。

「お。涼太、そろそろ時間だぞ?」
「あ、タケさん!」
角刈りの体格の良い壮年男性が歩いて来た。

私が首を傾げると、黄瀬君は満面の笑みで私に説明した。
「この人はタケさんと言って、俺んちの近所に住んでる人っス。…今日は頼まれて、祭りの雑用を手伝いに来たんス」
「お、彼女は、涼太のコレか?」と、タケさんは小指を立ててみせた。
「違うっスよ!…友達っス!!」

じゃあ、と手を振って黄瀬君は面を付けて、タケさんと去って行った。


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