それから


夏休みの夢の後


話題…ねぇ。
『そー言えば、結構話すよね?』
「そうだな。…バスケ以外の話もするな。…例えば音楽の話とか」
笠松さんは、身を乗り出した。
「音楽なら、俺も好きだが…」
音楽が好きなら、話題になるかも…?
笠松さんなら、ハードロックとか似合いそう。…いや、意外と熱血兄貴系アニソンとか…いっそ、演歌とか…?

私が笠松さんを見ながら、そんな事をつらつらと考えていると、笠松さんは私の視線に気が付いて、真っ赤になってしまった。
と、隣から真太郎が、私に囁いた。
「名前、あまり他の男を見るな。そんなに見つめるのなら、俺にするのだよ」

『真太郎…』私は、真太郎に視線を移した。
真太郎の綺麗な瞳に私が映っている。…吸い込まれそう。私は、彼の瞳に魅入ってしまった。
真太郎も真直ぐに私を見つめる。
「名前………」
次第に胸が熱く高鳴っていく…

「ストーーーップ!!!」突然、黄瀬君が叫んだ。
『…えっ!?』
「何なのだよ、一体…」
「彼女無しの男子高生には、刺激が強過ぎっス!いちゃつくのは、家に帰ってからにしてくださいっス!!!」
「なっ…!?いちゃついてなどいないのだよ!!」
「二人で世界を作っていたっス!!俺達は空気だったっス!!」

「いいなぁ…彼女欲しい…!」
「森山先輩、しっかりしてくださいっス!」
海常高校の面々が落ち着くまで、暫し混乱する。


※※※

そして、再び話題の話に戻る。

「そう、音楽の話だったな。クラシックの話をしたのだよ」
「ク、クラシック???」
笠松さんは、面食らった様な表情をした。

『両方ともピアノを弾くからね。クラシック好きだし♪』
「この前は、スカルラッティのカークパトリック版とロンゴ版とペスカッリ版の分類番号の違いについて盛り上がったな」

「何を言っているのか…さっぱりっス」
「その呪文を唱えれば、女子と話が出来るのか!?」と、森山さん。

真太郎は考え込みながら、更に続ける。
「あとは、イタリア16世紀のカンブレー同盟戦争が、サッコ・ディ・ローマ(ローマ略奪)に及ぼした影響とか…」
『ヴェネツィアを弱体化させたからね。教皇ユリウス二世が』

「は…?サッコ…デ…???」
「最近の流行りは分からん…」と、小堀さんと笠松さんが唸る。
黄瀬君がサラッと突っ込んだ。
「それ…多分流行りのものではないっス…」

『他にはウミウシの和名とか』
「ああ。あれは面白かったな」と、真太郎も同意する。

「ウミウシって!?…あのカラフルで変な生き物のか?」
笠松さんは訝しげに尋ねる。

『はい。イチゴジャムウミウシとか、イチゴミルクウミウシとか、シンデレラウミウシとか、オトメウミウシとか、面白い名前のがあるってw」

「シンデレラ…?乙女…?君は、ウミウシの様に美しい…とか?」
「森山…それだから、お前は残念だと言われるんだよ!誰がウミウシみたいと言われて喜ぶんだ?」と、小堀さんは呆れているw

「どっちにしても、この二人は特殊っス。…とても一般女子が付いて行ける話題ではないっスよ!」
「でも、その特殊な話題が合う相手が、たまたま同じクラスで近くの席にいたのは、運が良いとしか…俺達はとても…」
笠松さんは項垂れた。

「それは、"たまたま運良く"ではないのだよ。…俺は人事を尽くしている。その成果が出たに過ぎん」
「どう言う事だ?」

「それは…これなのだよ!!」
真太郎は、ヤカンをドンとテーブルに置いた。

「…それは???…ヤカン…か!?」
「ヤカンなのだよ」
「…ゴメン、俺、意味が分からん…これでは彼女作るなんて…とても…無理だっ…!」
「ちょっ…!?小堀先輩!? 緑間っち、俺達にも分かる様に説明して欲しいっス!!」

「お前達は"おは朝"を観ているか?」
「いや…?」
「…まさか…緑間っち…?」

「これは、今日の蟹座のラッキーアイテムなのだよ。俺は、毎日ラッキーアイテムを欠かさず持ち歩いている。
いいか、恋愛は、それこそ運とタイミングがかなりの成否の要素を占める。…恋愛脳の女子達が占いが好きなのも、それ故なのだよ」

「成程な…運命の相手を知るには、先ず占いから…か」
森山さんが首肯する。

「師匠と呼ばせてくださいっす!!」
「構わないのだよ」
真太郎は、鷹揚に早川さんに頷いている。
…こんなに偉そうで…いいのだろうか?…相手は他校とは言え、先輩なのに。

「おは朝を観てラッキーアイテムを持ち歩けば、気の合う理想の女子に出会えて、恋人同士になれるのだな!?…よしっ!!」
「笠松先輩は、先ず女の子と目を合わせて普通に話す所からっス!」
「…そ、それは至難だな…!」
「おは朝のラッキーアイテムを毎日用意する事に比べれば、何てことないっス!」

「俺は10月2日生まれだが…?」
「天秤座だな。…確か…天秤座の今日のラッキーアイテムは…ピンクのリボンだ」
「よし…!帰りに買って行こう」
「大きい方が効き目があるのだよ」

「小堀先輩まで…!?緑間っち、海常バスケ部を変な宗教で洗脳するのは止めて欲しいっス!!!」
「変な宗教とは失礼なのだよ!!…これだから、黄瀬は彼女が出来ないのだよ!!!」
「緑間っちには言われたくないっス!!!!綽名っちも止めてくださいっス〜〜〜!!」
『いや…あの…えっとー…?』

…私にどーしろと言うのだ?
ああ、でも。

『そうだ。(涼太君以外は)女子達と共通の話題が無くて困っているんだよね?』
「そうっス」
『なら、おは朝を観るのはどうかな?』
「綽名っちまでもっスか!?」
『いや…女子って、占い好きが多いからさ。ラッキーアイテムを持つまでやらなくても、星座占いとか多少分かれば、共通の話題にもなるかと』

「それに、ラッキーアイテムを持っていれば、何故か女子に話しかけられる率が高くなるのだよ」
と、真太郎は畳みかける。
「…そー言えば、緑間っちって、帝光の時も、縫いぐるみや変わった小物とか持っていて…それが結構女子達にウケていたっスよね…」

その言葉を聞いた、海常の面々は色めき立った。
「その手があったか…!!」

真太郎がラッキーアイテムを持っていて、それが女子に話しかけられる切っ掛けになっているのは間違いがない。
しかし、それは固くて不愛想で真面目そうで…そのくせ端正な外見を持つ、真太郎のキャラとのギャップがあってこそなのだが…
しかも、それが必ずしも好意を得るとは限らない。変人の烙印を押されたり、引かれる事も多いのだけど。

海常の人達は…大丈夫なのだろうか?

…それよりも、そんなにバスケ話が好きなら、女子バスケ部とかスポーツ系クラブでの出会いをセッティングした方が良いと思うのだけど。


合コンの失敗から立ち直り、希望が見えた彼等からお礼を言われ、和やかに別れの挨拶をしながらも、私は一抹の不安が心を過った。

※※※

-後日-

「なーなー、真ちゃんと名前ちゃん。知ってっか?」
「何がなのだよ?高尾」
『和成君、どーしたの?』
高尾君はぷっと吹き出しながらも教えてくれた。

「海常高校バスケ部のスタメンがさー…黄瀬を除いた連中だけれども、
 ラッキーアイテムと称して、妙な小物を持ち歩いて女子達からドン引きされているらしいぜ?」

「………」
真太郎は、黙って眼鏡のブリッジを上げた。

「一体、誰の影響なんだろうな?」
高尾君は探るような視線を寄越している。

私は、いたたまれなくなって目を逸らした。
そして、内心で彼等の健闘を祈った。

→後書き


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