それから


おは朝スペシャル☆大騒動


海常のメンバー達と別れた後、真太郎と駅前広場を歩いていた。
もうネオンが灯り、街のあちこちが星空のように煌めいている。
風は湿度を伴っているが、秋の予兆を孕んで少しだけ涼しくなっていた。

『もう、夏休みも終わりだね…』
「そうだな。次は新学期…教室で会う事になるのだよ」

私は、夏の出来事を振り返った。
…今までにない位、濃い夏休みを過ごした様な気がする。
この夏休みの合宿で、片想いと思っていた真太郎と相思相愛になって…
何だか…とても不思議な気分だ。

帝光で彼の存在を知った時から、こんな仲になるなんて、想像も出来なかった。

私達は手を繋いで、ゆっくりと歩いていた。

ふと、広場の一角に人だかりがしているのに気が付いた。
『何やってんだろうねー?』
「ふむ…」
真太郎は眼鏡を上げつつ、その人集りを凝視した。

『…真太郎?』
真太郎が立ち止って動かないのを不思議に思って声をかける。
真太郎は、真剣な目をそれに向けていた。
何なんだろう…??

突然、真太郎の目がくわっと見開かれた。
「おは朝スペシャルの収録だと…!?」
えっ!?
私は慌てて視線を戻し、その集団をよく見る。

毎朝お馴染みのおは朝アナウンサーが、にこやかにリポートしている。
「おは朝スペシャル特別番組!今は、横浜の港駅前広場に来ています〜!!夜景がとても綺麗ですねー」

"おは朝"なのに、夜までやるんだ…放送するのは朝なんだろうけど。

「名前、行くぞ!!」
私は、真太郎に手を繋がれたまま、その人だかりに引っ張って行かれる。
『えっ!?ちょっと!!?』
「夏の特別企画で、おは朝の出張番組があるのだよ!
これに出て好成績を出すと、賞品として一週間分の入手困難なラッキーアイテムが貰えるのだよ!!」

これに出て…って、テレビの中継に出るって事か!?
『なら、真太郎が一人で出ればいいじゃん!何で私を引っ張るの!?』
真太郎は振り向いて私を意味あり気に見た。
私は、その熱を帯びた視線に怯んだ。

「これは、一人で出るものではないのだよ。恋人同士の、相性診断の心理テストをするものなのだよ」

ちょ、相性診断って!!??

私は頭が真っ白になった。
二人で恋人としてテレビに出るって、恥ずかし過ぎる!!何その羞恥プレイ!?

真太郎は、本来ならこんな浮ついた番組に興味など示す男ではないが、おは朝企画でラッキーアイテムが賞品なら話は別だ。
今更私が抵抗しても無駄でしかない。私は諦めて、大人しく引っ張って行かせるに任せた。

※※※

「はーい!では次の挑戦者は…」
「俺達なのだよ!」

真太郎は、今日のラッキーアイテムであるヤカンを抱えて、私の手を引っ張りながらアナウンサーの前に立つ。
テレビカメラが私達に一斉に向けられた。

「あら!?素敵な彼氏に可愛い彼女ね!!…そのヤカン…君はひょっとして蟹座かな?」
さすがおは朝アナウンサー、動じないどころか今日のラッキーアイテムを把握済みらしい。
「そうだ。俺は毎日欠かさずラッキーアイテムを持っているのだよ」
真太郎はドヤ顔で言い放つ。

アナウンサーは、更ににこやかになった。
「って事は、君はおは朝を毎日観てくれてるのね!嬉しいわ」
「当然なのだよ」

「…で、彼女は?」
『うぇっ!?』いきなり話を振られて、変な声が出てしまった。
『私も蟹座ですけど…すみません。ヤカンは持っていません』

心なしか、アナウンサーの目が少し冷たくなった気がする。…何これ?
私、普通だよね?街を歩くのに、ヤカンは普通持たないよね!?

真太郎は、溜め息を吐いた。
「ラッキーアイテムを持っていないというのは…人事を尽くしているとは言えないのだよ」
「彼氏と一緒にラッキーアイテムを持てば、恋愛運が上がって、きっともっと彼と仲良くなれるわよ?」
真太郎と一緒にヤカン持って街を歩けとな。それって、ただの変なバカップルじゃん。

『…あの、私も毎朝おは朝は観ているんですけど…』
と、一応視聴者である事を控え目に主張してみる。だが。

ヤカン持つのが当然な空気になっている…?ンなアホな。マジ宗教勧誘かよ。…もう、帰ろうかな…

私は一歩、後退った。
でも、真太郎は手を離してくれないどころか、更に強く握って来る。
「名前、どこに行く気なのだよ?俺から離れる事は許さん」

台詞そのものは、ときめいてしまいそうになる程甘いのだけど…こんなシチュエーションでさえなければ。


「君達は高校生?付き合ってどれ位になるの?」
「一か月に満たないな」
「じゃあ、今とても熱いラブラブな時だね!」
「ラ…!?」
真太郎は絶句した。
改めて、他人の口から言われるのは、とても恥ずかしい。
私は真っ赤になって、俯いた。

アナウンサーは陽気な声で収録の始まりを告げた。
「初々しい高校生カップルです!君達名前は?」
「緑間真太郎なのだよ」
『苗字名前です…』

「では、早速質問です。あなたの前に道があります。…進むのはどっち?」
アナウンサーがフリップボードを示しながら訊いてくる。
私達は同時に答えを言った。
『左』「右なのだよ」

………。

私達は顔を見合わせた。

「名前、左を選ぶとは浅はかなのだよ」
『浅はかって何っ!?』
相性心理テストで、何故ここまで言われなければならないのか?

「フン、人間の習性として、左に曲がる事は自然なのだよ」
『素直なだけなのに、何か問題があるの?人間として、ごく当たり前の選択をしただけじゃない』
「だから、お前は浅はかだと言ったのだよ。そこで敢えて裏をかいて右に曲がる方が、追手を撒ける可能性が高いのだよ」
…は!?

『何の追手っ!?真太郎の頭の中では、それ、どんな設定になってんの!?』
「…そ、それは…」
言いながら、何でそこで狼狽えて赤面しているのか、本気で訳分からないのですけど?
『それは…?』

「か…駆け落ちなのだよ!」

どんな禁断の恋愛なストーリーなんだ?それは。
私は目が点になった。
…マジで真太郎の頭の中が分からんわ。


「それでは第二問!」
スタッフが別のフリップを出す。
それには、海と島が単純な絵で描かれていた。
「この絵に、太陽を描き込んでください」

私は、真ん中にでかでかと描いた。
おまけとばかりに顔も描きこんでいる。
そして、真太郎のを見ると…

太陽が3つ、等分に並べて描いてあった。

なんでだよ。

『何で3つ!?奇をてらい過ぎだよ!』
真太郎はフッと笑って、眼鏡のブリッジを上げた。
「…これは、"幻日"と言う太陽光学現象なのだよ。現実に存在する以上、描いても差し支えなかろう。
それよりも、名前、お前こそ何なのだよ!?太陽には顔は付いてないのだよ!」

そこかよ。

『知っとるわ!そんなもん。顔を描いたのは、漫画的表現なだけじゃん』
「現実には存在しないのだよ」
この男には、擬人化ファンタジーな観点は存在しないのか。

『なら、黒点だと思えばいいじゃん!ほら、位置によっては顔っぽくなるでしょ?』
私は半ば自棄くそになって、いい加減なこじつけを言ってみた。
「パレイドリアか。黒点なら納得するのだよ」
……それで納得するんか。大きさとか放射線には、突っ込み入れないのか?

しかし、スタッフは困惑している。
「あのー…太陽は一つにしてもらえませんか?」
真太郎は憮然と言い返す。
「3つ描いてはいけないとは聞いていないが?」
「そうですけど…」
普通、複数描くヤツがいるとは思わなかったんだろうな…
真太郎の変人っぷりをヤカンの時点で察知出来なくて、出したのが敗因だな。

私は、溜め息を吐いた。


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