過去との邂逅




ゲームセンターを出て、街を歩く。
「初めてのゲーセンはどうだ?」
『音は凄かったけど、刺激的で楽しかった!』
「そーかよ。…お前でも、そんな顔するんだなー」
え…?

『そんな顔って?』
「あー…鏡でも見てみるんだな」
どんな顔してるって?
私は、通りすがりのショーウインドーに映る自分の姿を確認した。

あ…

縫いぐるみを抱えた私は、興奮して顔が赤く上気していた。
目がキラキラして、少し潤んでいる。

私は青峰君を見上げた。彼の青い瞳とかち合った。「…んだよ?」
『あ…いや。こんな…燥いじゃって、まるで子供みたいね、私』
「いーんじゃねーのか?それだけ楽しかったんだろ?お前」
『うん!…ありがとう!』

私は嬉しくなって、満面の笑みで返した。
本当に、こんなに楽しいのって、久しぶり!
「おー…」
青峰君は口に手を当て、顔を背けた。…心なしか耳が赤くなっている様な気がする。

でも犬の散歩以外で、こうやって街を一緒に歩くのって…まるでデートみたいだな。
何だか少し気恥ずかしい。

※※※

ふと、青峰君が足を止めた。
『…?どうしたの?』
私もつられて足を止める。

青峰君が立ち止ったのは、ストバスコート。
脇の金網から、コートの中が見える。

そこでは小学生くらいの男の子達が、楽しそうにバスケをしている。

私は青峰君を見上げた。
その男の子達を見ている青峰君の表情に、私ははっとした。

それは、憧憬、と言っても良いだろうか。
かつて失われたもの、今は手に入らないものに対する餓えた人の表情だった。

かつて桃井さんが言っていたのを思い出す。
(馬鹿が付く位バスケ大好きな癖に、強過ぎて…相手もいなくなって…楽しくなくなった…って)

大好きなものが楽しくなくなるって…どんな気持ちなんだろう?
私にも、確かに大好きなものはある。
だけど…楽しくなくなってしまったものはない。

彼のその表情は、いつもの不敵さは影を潜め、切なく瞳が揺れている様に見えた。
いつもは圧倒的な存在感を放っているのに、今の彼はそのまま消えてしまいそうだった。

そのまま放って措けない、と言った桃井さんの気持ちが分かる様な気がした。

私はそっと、彼の手に指を絡めた。

それにびくりと反応する青峰君。「名前、何だ…?」
『吃驚させてごめんね…そのまま…手を繋いでて良いかな…?』
私の消え入る様な声は、それでも確かに青峰君には届いていた。

「…いいぜ。ほらよ」
青峰君は、私の手をギュッと握った。
強く握られた手は少し痛かったけど、その痛みは青峰君が縋り付いてくる証しの様に思えて、私は胸が痞えた。


ずっと見ていたら、子供達は遊び終わって解散する様だった。
青峰君は、そのまま黙って私の手を離さないまま、踵を返した。


私達は無言で、何となく一緒に手を繋いで街を歩いていた。

(名前、1on1しろよ!!)
…もし、私が少しでもバスケが出来たら、あの彼のキラキラした笑顔を見ていられただろうか?

でも…私は運動は、あんまり出来る方じゃないし…多少練習しても、相手なんかになるわけないよね…?
どうしたら、あのキラキラな青峰君を取り戻せるの…?

※※※

繁華街を歩いていたら、不自然な程の人混みを見付けた。
その人だかりは主に女性だった。
「キャー!キセリョーー!!こっち向いてーーー!!!」
黄色い歓声が上がっている。

私は小さい声で呟いた。『キセリョ…?』
何だっけ?…聞いた事はあるんだけど…
『…何だか、撮影をしているみたいね』

しかし、歓声を聞いた青峰君は「ゲッ!」と声を漏らした。
そして私の手を引いて、人混みからどんどんと離れて行く。
その動きに疑問を感じた私は『大輝君?どうしたの?』と尋ねた。
それに青峰君は人差し指を唇に当てた。「しー!名前、静かにしろ!」

そして小声で私に耳打ちする。
「あれに関わると面倒だからな!気付かれない内にずらかるぞ!!」

しかし、些か遅かったみたいだ。

その華やかな輪の中心にいる人物が、私達の方を見て大きく手を振った。
「あーーっ!!青峰っちじゃないっすかー!久しぶりっス!」

中心にいたのは、キラキラオーラの金髪の綺麗な男の子。歳は同じ位だろうか?
やはり、どこかで見た事がある顔だ。撮影しているんだからテレビでかな?
タレントだろうか?
彼の声によって、彼だけではなく、その周りにいた人達もこっちを見ている。

青峰君は舌打ちをした。
「ちっ!やっぱり面倒な事になりやがった!!」
と吐き捨てるなり、私の腕を引いて全速力で駆け出した。
『えっ!?あっ、ちょっと待って!!』私は慌てた。
そのまま全速力で駆ける青峰君に付いて行ける訳がない。私は足を縺れさせた。

転びそうになって、小さく悲鳴を上げる。
『きゃっ…!!』
「名前!もっと急いで走れ!!」
『無理だよー!!』

そんな私達に、後ろから声が追いすがる。
「あっ!青峰っち!酷いっス!!何で逃げるんっスかーー!?」

ええーーーーっっ!!???追いかけて来たーーーーーーっっっっ!!!???

つか、あの人、青峰君とどんな関係なの!?
あの金髪の人も足が速い。
『…凄い。見かけだけじゃないんだ…?』

一人で走っている金髪少年と、鈍足の私がお荷物になっている青峰君では、全速力を出しても青峰君の方が不利だ。
青峰君もそれを悟って舌打ちすると、私を軽々と肩に担ぎ上げた。
『キャー!』
「黙ってろ!!」
青峰君は私の口を片手で塞ぐと、速力を上げた。

ちょっとー!この恰好で街中なんて走ったら、まるで私が拉致られているみたいじゃん!
やたらと目立って恥ずかしいし!!?

しかも何!?あの金髪の人!!!
彼の後ろからは、テレビカメラを持った人達も追いかけて来ている!!!?
どこかで、そんな逃げ切ると賞金が貰える番組とかあったな、とか頭の隅でどうでもいい事を考えていた。

私の視線を下ろすと、流れる地面と走る青峰君の足しか見えない。
後ろを振り返ると、何だか追っかけている人達が増えている様な気がする。
…あれって、自転車に乗ったお巡りさんまで加わってないか?

『…大輝君、あれ…警官まで追いかけて来ているけど…?』
私の言葉に青峰君もようやく後ろを振り返る。

「マジかよ…!?なんで黄瀬だけじゃなくて、あんなに大勢追いかけて来ているんだよ!!?」
『私に聞かないでー!!』

只今、街中を逃走中!
事態は、ますます混迷を深めていった。




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