下校デート




授業が終わって帰り支度をしていたら、青峰君が声をかけて来た。
「よう、名前。帰り、ちょっと付き合え!」
『……え?』

私はポカンとして見返した。
何だろう?…やはり追試の結果が上手く行かなかったから、また勉強しなきゃいけないのかな?
『…あの、今度は女子寮ですか?』
私の質問に、彼は思いっきり顔を顰めた。
「…お前…そんなに俺に女装させたいのか?」
一転して低音の機嫌悪い声になる。

『…そ、そんな意味で言ったんじゃ…あ、あの…追試は?』
「追試は全部合格点取った。俺様にかかればちょろいもんだぜ!」
『……大輝君、努力したもんね』
私は微笑んだ。

「まぁ…その、名前の協力もあったからなんだけどよ。サンキューな」
青峰君は、私の頭をわしわしとかき回した。
ああ…髪がぐちゃぐちゃになってしまったじゃん。
私は膨れて手串で直した。

最初は、周りが青峰君と私の絡みに驚いたりしていたけど、今ではもう慣れてしまったのか…日常の一コマと化している。
そんな私達を見た良君が呟く。
「…それじゃ、僕達は徹夜でプリント解く必要は無かったんじゃ…って、スミマセン!!」

※※※

そんな訳で。
私は、青峰君に半ば引き摺られる様に一緒に下校した。
本当に何なの?

『あの、大輝君?どこに行くの?』
「あ?…どこにすっか考えてないわ」
おいコラ。
人を連れ出しておいてそれって。

『…そう言えば、今朝のおは朝で、おとめ座のラッキースポットはゲーセンとか言ってたよ?』
「何だお前は。緑間か?…それに、何で俺の星座とか知ってんだ?」
『さつきちゃんに聞いた』
「あー…そうかよ。なら、誕生日は期待してて良いんだな?」
ニヤリと笑った青峰君に覗き込まれる。
いきなり近付いた顔にドキリとする。
やっぱりカッコいいな。

気が付いたら、繁華街の中にある、ゲームセンターにいた。
『…ゲーセン?』
私は、正直入った事はない。
珍し気にキョロキョロと辺りを見回す。
「何だよ、お前が勧めたんじゃねーか?」

まぁそうですけど。…それにしても、辺りの電子音が煩いなぁ。
こんな機会でも無ければ、入る事はないだろうな…きっと。

ふと、手前にあるアクリルの箱を覗き込む。
何か…可愛い縫いぐるみとか沢山入ってる。

『あ…!』
懐かしい。昔好きだったキャラクターが入ってる。
「何か欲しい物があんのか?」
『…うん。…あの、犬の…』
「やるか?」

私は、指定のコインを入れた。
軽快な音楽が鳴り、私はボタンを押して操作した。
それは取り易そうな位置にあったが、アームは何も掴むことが出来なかった。
『あ〜〜』

私はがっくりと肩を落とした。
そんな私を見て青峰君が笑う。
「何だよ、名前、それが欲しいのか?」

青峰君は、コインを投入した。
「それは…こう、するんだよ!っと」
微妙にアームを引っ掛けて穴の縁にずらして、頭から落とし込んだ。
私は歓声を上げた。
『わー!凄いっ!!』

取り出した縫いぐるみを私に手渡す。
「ほらよ」
『えっ…?いいの??』
「ベンキョー教えて貰った礼だ。やるよ」
『ありがとう!!』
「…おー…」
ちょっとそっぽを向いた青峰君…黒いけど、少し赤味がかかっている様な気がする。

青峰君は、私を引っ張って、別の機械の前に連れて行った。
「おー、これこれ!最近新台が入ったんで、気になってたんだ」

それは格闘ゲームだった。
「お前…やってみるか?」
『…いいえ。遠慮しておきます』画面を覗き込んだが、とても私がやれる様な気はしない。
私は青峰君の後ろに陣取った。見学だけさせてもらおう。

青峰君は画面でキャラクターを選ぶ。
…気のせいか?選んだ女の子が巨乳なのは…?
一人戦なので、対戦キャラも選ぶ。対戦相手は、金髪で短髪のごつい男キャラだった。
私はそれを見て小首を傾げた。
…何か…それに似た雰囲気の人を、最近見た記憶がある…?

ゴングが鳴り響き、格闘が始まった。
青峰君操るローブを着た巨乳美少女は、巧みに男キャラの攻撃を避けて、懐をかい潜り、拳と蹴りを繰り出している。
その度に画面に数字が浮かび、上端のバーが減って行く。
装備している杖を振りかざすと、光の球が現れて火の玉となって男に襲い掛かって行く。

…青峰君、技繰り出す度に「若松!くたばれっ!!」って言っている様な気がするのは…きっと私の聞き違いだよね…?
うん、バスケ部の平和の為に、そう言う事にしておこう…

見事に、女の子キャラが勝利した。
画面にWINの文字が光りながら浮かび上がる。
「やったぜ!!!ザマミロ!!!!」
誰に言ってるのかは怖くて聞けない…


次はレースゲーム。
実際の運転席みたいにボックスタイプになっている。
「名前、見てるだけじゃ面白くないだろ?座れよ」
『えっ…私、ゲームなんてした事ないし!?』
「いいから!」

強引に青峰君の前に座らされた。
流石に一緒に座るとかなり狭い。
つか、この体勢何なの?
周りの人達も凄く見られている!恥ずかしい。

「おいこら、動くな。画面見辛えだろ」
そう言いながら、青峰君はハンドルを掴んでいる。

私は、その腕の中に閉じ込められた。
『だって…』
これじゃ、抱きしめられてるみたいじゃない!人目もあるし。
「画面見てろよ」

画面…?
言われて、私は画面に目をやった。

『わぁ…!』

画面いっぱいに映し出された夜の高速道路は、時々障害物が出たりしながらも、
臨場感たっぷりに飛ばした景観となって迫ってくる。
と、いきなり
『わあ!ぶつかるっっ!!』
並走する車が突如現れる。

「ばーかwぶつかんねーよ!」
青峰君が軽くハンドルを捻る。
軽くその車を追い越して行った。

緩くカーブする光の道路を滑る様に疾走する。
私はその画面に見惚れた。

…大人になったら、彼と一緒にドライブとか出来たらいいなぁ…
私は後ろに感じる熱を意識した。自然と顔が熱くなる。

気が付いたら、あと少しの距離と出ていた。
次から次へと障害物としての車や工事中の規制が出て来る。
その障害を、青峰君は巧みにすり抜けて行く。

見事にゴール!
「よっしゃ!」
青峰君は私を抱えながらガッツポーズを取った。
背後では拍手しているギャラリーまでいる。


そして今度は
『これは…プリクラ?』
「お前、撮った事あるのか?」
『ないよ。だって、ゲームセンターにも初めて入ったもの』
そんな私を、彼は呆れた様に見やった。

「…名前お前さー、ベンキョー以外の暇な時は何してんの?」
『…えっと…本を読んでいるかな。あと散歩。お菓子も偶に作るよ』
「たく…かてー女だな。あんまり本ばかり読んでると、頭にカビが生えるぞw」

『何それ失礼!勉強しない方が、使わなくなって脳みそがカビるんだから!!!大輝君、あまり勉強をさぼると、頭にキノコが生えるよ!」
「てめー…いくら俺でも、頭にキノコなんか生えない事は知ってんぞ!?」
『生き物に生えるキノコなら存在するよ。冬虫夏草って虫にだけど』
「俺は虫じゃねえ!!!」

そんな軽い口喧嘩を叩き合いしながらも、私はプリクラの装置の中に連れ込まれた。
彼がコインを投入すると、軽快な電子音と共に説明の画面が流れる。

…それにしても、狭いなぁ…

こんな小さな画面に一緒に写るのなら、かなり身体を寄せなければならない。
私は縫いぐるみを抱き締めた。

その時、ふと青峰君が動いた。
後ろに熱を感じて、腕を前に回された事を悟った。同時に視界がぼやける。

振り返ろうとししたが、「写すぞ!前を向いてろ」と耳元で囁かれて慌てて画面を見る。

シャッター音が鳴った。

私は自分がどんな表情で写っているのか分からない。
かなり緊張していたので、固い表情をしていたに違いない。

「もう一度!」
青峰君が、今度は私の横に移動する。
「名前、ちゃんと画面を見てろよ!!」
ニヤリと私を見下ろした青峰君の顔には、私の眼鏡がかかっていた。

彼は、私の横に顔を寄せると、肩を抱いて引き寄せた。
そして再びシャッター音と共に、今度は頬に柔らかい感触を感じた。

私が戸惑いながら、その頬に手を当てる。
心臓がバクバクして暫くは静まりそうになかった。

そして視界がクリアになる。
私に眼鏡を戻した青峰君は、プリントされたプリクラを取り出した。
そして私に見せる。
『うっ!?』私は固まった。何これ恥ずかしい!!

一枚目は、してやったり感で眼鏡をかけた青峰君と、抱えられて吃驚目をした私、二枚目は私の頬に頬を摺り寄せている青峰君が写っていた。

『これって…』

まるで恋人同士みたい。それにしても私の表情が固い。…固まるよ。こんな事されたら…
でも、眼鏡かけた青峰君は、悔しいけどカッコいい。
青峰君は「おー、中々よく写ってんなー」とか言いながら、一枚目を写メしている。
『…?何でわざわざ写メしてるの?』

私の質問への回答は、彼の携帯にあった。
『やだ!待ち受けになんてしないで!!』
「光栄に思えよwマイちゃんとNBA選手以外での待ち受けは、これが初めてなんだからな!!そうだ、お前も待ち受けはこれにしろよ!」
『しません!!!』
「なら、お前の携帯に貼るぞ!?」
私は慌てて携帯を隠した。
今の私の待ち受けはパットだ。
そのプリクラは恥ずかしいけど…あとでこっそり写メして、携帯のフォルダに入れておこう。…いつでも見られるように。

「何だよ、つまんねーな!」と拗ねている彼には内緒だけどね。




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