光と影との出会い-1-
私は、青峰君のバスケを知りたくて、良君から借りたDVDを観た。
それに映っていた青峰君のプレイは驚異的の一言に尽きた。
あのとんでもない動き…変幻自在のスーパープレー。
まさに「キセキ」のエースの力に相応しい、そんなプレーに魅了された。
こんな凄いプレーが出来るのに…何でバスケを見ると、あんなに寂しそうな顔をするんだろう。
桃井さんが言っていた事を思い出す。
……だとしたら、彼を救う事が出来るのは、私なんかでは無い。
青峰君と同格か、それ以上のバスケ選手しかいない。
私はパットを連れて散歩しながら、先日の青峰君の事を思い出していた。
きっとあの時…私の目が潤んでいたから、彼は目にゴミが入ったと勘違いをしたんだろう。
それなのに誤解してしまって…恥ずかしい。
私…あんなにドキドキするなんて…青峰君の事、好きになってしまったんだ。
私は目を閉じた。
パットと戯れていた青峰君が脳裏に浮かぶ。
そう…きっと、あの時から。
※※※
私は、パットの散歩中に図書館に立ち寄り、バスケに関連した本を探していた。
私は、ストバスでプレイしている少年達を見ていた、青峰君の表情が気になっていた。
…あれは、まだきっとバスケが大好きで…でも、手が届かないものを見ている様だった。
私は少しでも青峰君の事を知りたい、と思った。
その為に、まずはバスケの事を知らないと。
バスケは、頭で理解するより、練習した方が良いに決まってる。
でも、私は運動は苦手な方なので、少しでも自分に合った、分かり易い方法でアプローチ出来ればと思った。
一通り、自分でも分かりそうな本を探して、何冊が抱え込んだ。
それから、他に読みたい文芸本もあったので、それの置いてある書棚に向かった。
あ、あった!
私は、その本に手を伸ばした。
と、同時にその本に触れた人がいた。
『きゃあ!!』
「あっ!?…すみません」
びっくりした。…人がいるとは思わなかった。
全然気配とか無くて…まるで突然、湧き出たみたいだ。
私と同じ本を取ろうとした人は、同じ年位の少年だった。
水色の髪が印象的な、儚げな雰囲気…澄んだ瞳をしているな、と思わず見入ってしまった。
「あ…あの?」
躊躇いがちにかけられた声に、私ははっとした。
『あっ…!すみません!!この本…!?』
私が慌てて渡そうとしたら、その少年はふわりと微笑んだ。
「ああ、その本は、貴女が先に取ろうとしてましたから、お先にどうぞ」
『えっ…でも…』
…どうしよう。…何だか悪いな…
「気にしないで、先に読んでください。…それよりも、その本…」
『えっ!?』
「バスケに興味があるのですか?」
私が抱えていた本は、バスケの初心者向けの本ばかりだ。
外見的にも、とても運動が得意そうに見えない私が持っていたので、興味をそそられたのだろうか?
『…ええ。まぁ。授業でやった位で全然分からないから、少し読んでみようと思って』
「そうですか。バスケは、やったら面白いですよ」
彼は優しく微笑んだ。
彼もバスケが好きなんだろうか?
…正直、とてもバスケをしそうにない風にしか見えない。
どちらかと言うと、線の細い文学好きな少年と言った雰囲気だ。
背もそんなに高くないし。
青峰君や桐皇の人達とは全く違う。
本を借りて、何となく彼と一緒に図書館を出た。
私は、パットを繋いでいた場所を見て………絶句した。
また逃げられた…!!!
柵を前に立ち竦んだ私を見て、不思議そうに彼は尋ねた。
「あの…どうかしたのですか?」
『犬…がここに繋いでいたのに…いなくなってて…!』
「…犬、ですか?」
その時、少し離れた所辺りから悲鳴が響き渡った。
「ぎゃーーーーーーっっっっっっ!!!!!!!!」
水色の彼は、目を瞠った。
「火神君!?」
私はすぅーっと血の気が引いて行った。
……まさか!?また、このパターンか!!!?
私は慌てて、声のした方へ駆け出した。
案の定、パットは、大柄な赤い髪の少年を追い駆け回していた。
水色の髪の少年は叫んだ。「火神君っ!?」
…彼は火神君と言うのか。
いや…それよりも、今はこの状態を何とかしないと!!
よく見ると、火神君はパット以外にも、もう一匹の小さい犬に追いかけられてる???
……それにしても、楽しそうだな、パット…
私は、追いかけっこしている犬達に駆け寄った。
『パット!!!止めなさいっ!!!』
火神君は、小さい犬に回り込まれて行く手を塞がれた。
彼はその犬に怒鳴る。
「おい、二号っっ!!!どけよ!!!」
と言いつつ、腰が引けている…
…もしかして…見かけに寄らず、犬が苦手なのかな?
そして彼の後ろには、パットが迫っていた。
「ウォンッ!!」
パットは一声吠えた。
「うわっっ!!!」
火神君は、頭を抱えてしゃがみ込む。
パットは、火神君の頭を飛び越えて、前に回り込む。
火神君は、前から吠えられて、腰が抜けた様に尻餅を付いた。
『止めなさーーーいっっ!!!!』
私は、パットの前に回り込んで、火神君を庇う様に立ち塞がった。
パットは一声吼えて、そのまま私に飛び掛かって来た。
『きゃあっ!!』
私はそのまま勢い余って倒された。…火神君の上に。
「うぉっ!?」
『あっ!?すみません!!』
私は、火神君に後ろから抱き抱えられる状態で座り込んでいた。
小さい方の犬は、私の膝横で尻尾を振っている。
その時。
「おいで」
優しい声と共に、小さい犬は水色の少年に抱き上げられていた。
そして、その少年は首を傾げる。
「あの…その犬は、貴女のですか?」
『そう…です!…苦しっ…!!パット、どきなさい!』
火神君は、わーぎゃー叫び、後ろから私をギュウギュウ締め付けた。
パットは私の命令にも関わらず、私の上に乗って尻尾を振っている。
私は、赤色の髪の少年とパットに挟まれて潰されそうだ。
「…困りましたね。大き過ぎて、僕に退ける力は無いですし」
少年は、そんな私達を見て思案している。
少年は、腕に抱えている小さい犬を、パットの鼻先に近付けた。
パットはクンクンと匂いを嗅いでいる。
「ほら、おいで」
少年は、巧みにパットの鼻先から徐々に小さな犬を遠ざけた。
パットは、それに気を取られて私の上から退いた。
そして、彼は小さな犬を下した。
その犬とパットは、周りでじゃれ出した。
私はパットを何とか捕まえて、首輪にリードを着け直し、水色の少年に礼を言う。
『…ありがとう。助かりました』
私が深々と頭を下げると、水色の少年は、ふわりと微笑んだ。
「いいえ。貴女こそ火神君を助けてくれて、ありがとうございます」
水色の少年は黒子テツヤと名乗った。
私も自己紹介をする。
彼等は誠凛高校。私と同い年らしい。
そして、私は火神君に向き直った。
『あの。…火神さん、ですよね?先程は、家の犬がご迷惑をかけて、すみませんでした』
再び私は深々と頭を下げる。
「えっ…!?いや、別に良いけどよ。…俺も悪かったな。しがみ付いちまって」
彼は、頭を掻きながらそっぽを向いた。…顔が赤くなっている。
そんなに怖かったのかな?…やっぱり、大きなセントバーナードに向って来られたなら、誰だって怖いよね。