光と影との出会い-2-
「…これ、あんたの犬か?……でけぇな」
火神君は怖々とパットを眺める。
「火神君は、犬が苦手なんです」
「くっ、黒子おまっ!?このでかい犬は苦手とか、そんな問題で片付くもんじゃないだろー!!??こんなん、怪獣だ、怪獣!!」
その言葉に私は恐縮する。
『…すみません。…でかくて…怪獣で』…うう…否定出来ない…
「あ…いやっ…そんなつもりで言ったんじゃねーよ!」
そう言いながら、私から距離を取る火神君。
…そんなに離れなくても。10m位離れた電柱の影から、こっちを見ている。
そんな彼に、黒子君は嘆息した。
「この二号も、最初はあんな感じだったんです。…それでも、最近は随分慣れてくれたのですが」
「このっ…!黒子、バラしてんじゃねーよ!!!」
「ホラ、パット!」
黒子君は、パットを火神君に向けた。
火神君は、見事な身ごなしで跳び退りながら毒づいた。
「黒子テメェ、覚えてろよ!!!」
私は目が点になった。
このパットは大きさに驚く人が多いから分かるけど…この小さな犬にもそんなだったなんて。
あの大きな一見怖そうな人が…何だかちょっと可愛い。
私はクスクス笑った。
火神君は、真っ赤になっている。「わっ、笑うんじゃねー!!!」
※※※
私達は、そのままの成り行きで一緒に散歩していた。
火神君とは離れ過ぎていて、とても話とかは出来ないが、黒子君とは本の話が弾んだ。
自然と私の借りた本に話題が移る。
黒子君は、公園のストバスコートに差し掛かった時に足を止めた。
そして私に提案する。
「苗字さん、ここでバスケをして行きませんか?」
『バスケ…ですか?』
私は気が付かなかったが、火神君がバスケットボールを抱えていた。
指先でクルクル回していた。
…二人ともバスケやるんだ…?
黒子君は、にこりと微笑んだ。
「火神君と僕はバスケ部員です。苗字さんにも、少しは教えてあげる事が出来ると思います。…やりませんか?」
『私は、運動が苦手なんだけど…それでも出来るの?』
「激しい運動ではありますが、ドリブルやレイアップの基本からなら。最も火神君のプレーは、体格的にも出来る人が限られますが」
習うより慣れろ、ですよ。との言葉に背中を押された私は、二人に教えて貰う事にした。
火神君の為に、パットはちゃんと繋がないとね。
黒子君の教え方は丁寧だった。
彼は、パスカットが得意で、シュートやドリブルは苦手と言っていたが、それでもド素人の私とは比べものにならない。
でも、鍛えていない私は、少しの練習で音を上げた。
こんな事をいとも簡単に出来てしまう青峰君って…やっぱり凄いんだ。
1on1についても教えて貰った。
…意味を知って改めて考えると、青峰君って…相当な無茶を私に要求して来たんだな、と思った。
……こんな私と1on1をやろうとするなんて。
そこまでバスケに飢えていたのかな?
上手な人なんて、それこそ桐皇には沢山いるのに…
「はっ!!」
ガシャッ!!!
火神君が、ボールを持ってゴールに叩き付けた。
…凄い!……ジャンプが高い!!!
火神君の生き生きした表情や動きには、少し既視感があった。
…そう。彼のプレーには、青峰君を彷彿とさせるものがあった。
『…大輝君』
私の微かな呟きに黒子君は反応した。
「苗字さんは、青峰君をご存じですか?」
私は頷いた。
「桐皇学園、でしたね」
『同じクラスで…最初は苦手だったけど、最近は仲良くしている…と思う』
「…そうですか」黒子君は優しく微笑んだ。
仲良く…?
私は、先日の出来事を思い出したら頬が熱くなった。
私はそっと、傷の残っている指先に唇を付けた。
「苗字さん?」
黒子君の声に、私は現実に引き戻された。
彼は、私の顔を覗き込んでいた。
『黒子君…』
「どうしました?…顔が赤いです」
やだ…思い出したらドキドキしてきた。
「黒子、苗字はどうしたんだ?」
火神君までやって来た。
私の頭を乱暴にクシャクシャと撫でる。
『わっ!?』
「苗字さんは、青峰君のクラスメイトなんだそうです」
その言葉に、火神君は激しく反応した。
「何っ!?青峰だと!?…で、どんなヤツなんだ!?」
火神君の言葉に、私は首を傾げた。
どんな…って。
『そうですね…授業はよく抜けたり寝てたり。勉強は苦手ですね』
「そこは火神君と同じですね」
「俺は抜けたりしねーよ!黒子だって寝てるだろ!?」
『胸の大きい娘が好みで…学校にグラドル雑誌を持って来て…バスケ部の子に、グラドルのキャラ弁を作れと強要したり…』
「サイテーだな、おい」
「…変わってませんね…」
黒子君は遠い目をした。
「変わってねーのかよ!??」
『練習すると、強くなり過ぎてしまうって、バスケ部もサボっています』
その言葉を聞くと、黒子君は溜息を吐いた。
「…そうですか」
火神君は、瞳に怒気を宿した。
「…ふざけやがって…!!強くなり過ぎるのがイヤだと!?……上等だ。なら、俺がぶっ潰してやる!!!」
私は、火神君の剣幕に恐れを抱いて身を引いた。
黒子君は、そんな火神君を窘めた。
「火神君。青峰君には、それを言うだけの力はあります。…それよりも、苗字さんが怖がってますよ」
「あっ…!悪りぃ」
火神君は頭をかきながら私に謝罪した。
単純だが、根は良い人みたい。
私はふふっと笑った。
火神君はアメリカ帰りの帰国子女。
黒子君は、青峰君と同じ帝光中学で、バスケをやっていたらしい。
元チームメイトか…
元チームメイトと言えば、黄瀬さんもそうだったな。
緑間さんも。
最近、青峰君関連の人に良く出会うな。
…それにしても、個性的な人達だ。…どんなチームだったんだろう?
私は、黒子君と火神君の連絡先を交換した。
黒子君は私をじっと見つめた。
そして、囁く様な小声で「青峰君を…よろしくお願いします」と言った。
「黒子、お前、何を言っているんだよ!?」と火神君に小突かれながら。
…青峰君を心配しているのかな?
バスケをやらない私に何が出来るのか…まだ見当もつかない。
でも離れながらも、彼を気にかけてくれている人の存在に、私の心が温かくなった。
私は頷きながら彼等に約束した。
『私が出来る事があるかは分からないけど…でも、私も頑張ってみる』
青峰君が笑ってバスケ出来る手助けが、少しでも出来る様に…
私の言葉に、黒子君は微笑んだ。
「青峰君は…幸せ者ですね。こんな優しい人と友達になれたなんて」
『黒子君、別に私は優しくないよ』
私は首を振った。
そう。私は自分の望みを叶えたいだけ。
その時、バウッ!と太い吠え声がして、火神君は倒された。
いつの間にか、パットがまたリードを外して、彼の上に乗って尻尾を振っている。
火神君は悲鳴を上げた。
「おっ、おまっ!?いつの間に!?」
『パット!!??ちょっ…また…!?』
それを見て、黒子君が冷静に論評する。
「火神君。青峰君をぶっ潰す前に、犬に潰されそうです」
「黒子っ!?てめー、助けろよ!!!」
『パットは、青峰君も気に入ってたけど、火神君も気に入ったみたいね♪』
「火神君は、パットに慣れたなら、二号も当然大丈夫ですよね?」
黒子君は、二号を持って、火神君の顔に乗せる。
「ぶっ…!!お前等…!鬼かーーーっ!!?」
夕闇迫る空に、火神君の悲鳴が響き渡って行った。