エピローグ




-桃井side-

昼休み、私はいつもの様に仲の良いクラスメイト達と一緒にご飯を食べていた。
生徒会の短い報告が校内放送で流れる。

「…あ、名前ちゃんの声だ」

一昨日事故に遭って、少しだけ入院した時にお見舞いに行った時は、思ったよりも元気そうで安心した。

放送は一回切れて軽快な音楽が流れていたが、不意にそれが途切れたかと思うと、今度は大音量で青峰君の声が流れた。
《おめー、先に話せ》

「…えっ?何?」「どーしたの?」「…何か、青峰君の声っぽくない?」
皆も不思議がってザワザワしている。

続けて聞こえて来た声は名前ちゃんの声。
《えっ!?何を!? …あの、すみません、苗字です。…青峰君が皆に話があるそうです》

……? 大ちゃん?? …一体、何を言うつもりなんだろう?

その後の衝撃の告白は、校内全体を蜂の巣をつついた様な騒ぎに落とし込んだ。

《苗字名前は、俺…青峰大輝のもんだからな!!
名前に手ぇ出すヤツは、全員俺がぶっ殺してやる!!! 分かったな!!!?》


「何これ!? どー言う事っ!?」「二人はやっぱり付き合っているの?」
私の友人達も私に詰め寄るけど、私だって知らないよ!

《ちょっ大輝く…!?むぐっ……んんっ!!?》
名前ちゃんの不明瞭な声が聞こえるけど、これはどうやってもそれにしか聞こえない。
大ちゃん、いくら何でもやり過ぎ!!!
私は頭を抱えた。

「ちょっと…うわっ、これって…もしかして……?」「やってるね…」「マジかよ?」

向こうでは、男子達が「うぉぉぉぉ〜!! 俺、苗字さん狙ってたのにー!!」とか、
嘆く声も多々聞こえた。罪作りなカップルだなぁ…と、つくづく思うよ。

そして更に駄目押しが来て、騒ぎは最高潮に達する。

《……大輝君、愛してる!》
《名前、おめーは俺のもんだ…もう、離さねー》

恥ずかし過ぎる愛の告白が全校に響き、各教室で悲鳴が聞こえた。

…でも、私もテンションが上がっちゃう!
私は自分でもテツ君と……と、ちょっとだけ想像してしまうけど、恥ずかし過ぎて、それ以上は思考が停止してしまった。
いいなぁ…大ちゃんと名前ちゃん……おめでとう! 幸せになってね。

私は、手のかかる幼馴染と友人になった名前ちゃんに、心からのエールを贈った。

※※※

私は、いつもバスケ部が昼食を摂っている体育館に行ってみた。
舞台の端っこで可愛いキャラ弁を抱えながら、暗く縦線背負ってる桜井君を見付けた。

「桃井、さっきの放送聞きおったん?」
今吉先輩が、私を見付けて声をかけて来た。

「…ええ。吃驚しました」
「…ほんでこっちも大騒ぎや。…特に桜井と若松がなー…」
「あれ? でも、若松先輩は?」
若松先輩が見当たらない。
「若松はの……」

今吉先輩の声をかき消す勢いで、体育館の裏手から、雄叫びが聞こえた。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉ〜〜〜っっ!!! 青峰ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ〜〜〜っっっ!!!!!」

今吉先輩が困った様に眉を寄せる。

「…この通りや。全く喧しゅうて敵わんわ」
「……若松先輩、大丈夫でしょうか?」
「まぁ、アイツも馬鹿やおまへん。ああまでされたら諦めるしかあらへんやろな」
「……そうですね」

彼等は、やっぱりこっちでも罪作りだった。

今吉先輩は、人の悪い笑顔を浮かべた。
「…まぁ、青峰のヤツも、苗字さんみたいな真面目女子と恋愛するとなりゃ、
ちっとは手綱を握り易くなるかもしれへんで。是非、彼女にも協力してもらわな」

一連のやり取りを聞いていた諏佐先輩は、呆れた様に溜息を吐き、肩を竦めた。

教室に戻って来た二人を、私はお祝いの言葉と共に迎えた。
名前ちゃんは大ちゃんに手を引かれ、恥ずかしそうにしている。
勿論彼等は教室中の注目の的だ。

二人に、放送後の大騒ぎの顛末を伝えるが、大ちゃんは耳穿って「そーかよ」と興味無さげだ。

そこで私は名前ちゃんに耳打ちする。
「あれでも、大ちゃんはしてやったりって思っているよ、きっと」
『……そうなのかな?』
彼女は不安気に首を傾げる。私は親指を立てた。
「ふふん♪ 間違いないよ、私が保障する!」

(…でも、桜井君はこれで完全に失恋しちゃったなぁ…)
私は、名前ちゃんに聞こえない様に、口の中でだけで呟いた。

※※※

-名前side-

私はあの後、原澤先生に呼び出され、青峰君の事でバスケ部に協力する様に求められた。
「うちではマネージャーの仕事は主にスカウティングで、それは桃井さんにやって貰っている訳ですが、
苗字さんは、必要な時だけでいいから、青峰君の世話をお願いしたいのです」

原澤先生の言によると、青峰君は練習しなくてもいい、試合に出て勝つ事を条件にスカウトされたと言う事だった。
そこは桃井さんに以前聞いた通りだ。

「それでも、彼は自由奔放で…時折、その試合にすら遅刻する有様で。
別にマネージャーとして参加しろと言う訳ではありませんが、そんな時に、彼を引っ張り出す手伝いをして貰いたいのです」

「…はぁ。勿論、私は協力する事にやぶさかではありません。でも、あの青峰君ですよ?
いくら付き合っていても、私の言う事なんて聞いてくれますかね?」

私が首を傾げて言うと、原澤先生は妖艶な笑みを浮かべた。
「……それは、貴女の器量と魅力に期待するとしましょう」

うわ…っ生徒に凄い事言うなぁ。
それでも、私はこう答えるしかなかった。
『…善処します』

女子力、もっと磨かなきゃ。

※※※

私は、バスケ部の練習見学に引っ張り込まれ、結局青峰君も練習をして、当然の様に一緒に校門を出た。

「青峰ーっち!」
明るい軽やかな声が聞こえ、フードを目深に被った人がひょいと現れ、フードを後ろに跳ね除けた。

「…黄瀬」
ちっ、と舌打ちの音が聞こえ、それに黄瀬君が半泣きで抗議する。
「舌打ちとか酷いっス! 折角神奈川から桐皇(ここ)まで来たのに!」
「んで、わざわざその神奈川から何で来たんだよ?」
「……忘れ物を届けに来たんスよ。これっス!」

黄瀬君は平たい包みを差し出した。
それを見た青峰君は目を瞠る。

「おめー…これって…!?」
「堀北マイのサイン会、一人途中で退席したっしょ?
青峰っちが係員に示したチケットが特別招待券だったから、俺の事務所に問い合わせがあったんスよ」

青峰君が取り出したのは、確かにマイちゃんの写真集で、表表紙の裏に大きくサインが書いてあった。
私が横からひょいと取り上げる。
「あっ、おい!?」
『……青峰大輝君へ、だって。良かったね!』

私はニコニコ微笑みながら、青峰君に写真集を返した。

実は、心秘かに気にかかっていたのだ。
自分のせいで、彼の楽しみを中断させてしまった。
それで私は助かったけれども。

青峰君は、私の頭をくしゃりと撫でた。
「あー…いーんだよ、おめーは気にすんな。名前が無事で何よりなんだからよ」

私達のやり取りを聞いた黄瀬君は、不思議そうに首を傾げた。
「名前っち…青峰っちと何があったんスか?」
『えっ…あの…』
私が言い淀んでいると、青峰君が割り込んでにべもなく言い放つ。

「あー? 黄瀬は関係ねーよ」
「ちょっ…!? 関係無いとか、水臭いっスよ!?」
「いいからもう帰れよ!」
「青峰っちは冷たいっス…!!名前っち、酷いと思わないっスか!?」

黄瀬君は、私の顔を至近距離で覗き込む。私は不意討ちに驚いて一歩下がった。
『あの…黄瀬さん』

その時、青峰君は私の肩を抱き寄せ、黄瀬君にしっしと追い払う様に手を振った。
「こら黄瀬てめぇ、どさくさに紛れて俺の名前に迫ってんじゃねーよ!!」
「俺の…!?」
「見た通りだ。名前に手ぇ出すなよ。こいつは俺のだ…!」

青峰君の更なる宣言は、闇の帳が降りた空を、切り裂く様に響き渡る。
そして後日、黄瀬君と桃井さんによって、彼等の中学時代の元同級生達にまで、忽ちの内に私達の仲が周知されてしまったのだった。


→後書き




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