心の欠片が嵌るまで
最近私は、毎朝、良く当たると評判の「おは朝」の占いコーナーを観る事が習慣化している。
同じクラスの緑間君が、毎日おは朝占い通りのラッキーアイテムを持って来ているのは、さすがに皆引き気味にしてるけど。
彼と同じ蟹座の私としては、何だかなぁ…と遠巻きにして見ている。
周りに何言われても、自分の信念を変えないのは純粋に凄いと思うけど、私にはとても無理。
「今日の蟹座のラッキーアイテムは、ジグソーパズル!思わぬ人と近付けるかも?」
…ジグソーパズルなら、丁度昨日に完成したてのがあるじゃないか。
物は試しだ。持って行ってみようかな?
緑間君みたいにわざわざ購入してまでとは思わないけど、持っているのを持って行くだけなら、さして問題はない。
持って行っても、大き過ぎなければそんなに悪目立ちする物じゃないしね。
とか言って、のんびりと朝御飯食べていたら、些かのんびりし過ぎていたらしく、私は慌てて家を飛び出した。
私の手提げバックには、昨日完成したまま、糊で固めてないジグソーパズルがそのまま突っ込んである。
秀徳高校の校門には時間ギリギリセーフで通れたけど、私は今日は日直だった事を思い出す。
昨日、担任が「明日は日直は、前もって職員室に来る様に」と言っていたっけ。やばい!!
私は廊下を慌てて走っていたら、曲がり角で誰かにぶつかった。
『あいたっ!!』
勢い良くぶつかり、私は転んでしまった。
鞄が落ちて、手提げの中の物がぶちまけられる。
見たら、ぶつかった相手は緑間君。彼も尻餅をついていた。
周りには、ジグソーパズルの欠片が散乱していた。
「苗字!!廊下を走るのは危ないのだよ!」
『…ご…ごめん。急いでて…』
緑間君に怒られた。
確かに、遅刻しそうになって走ったのは私が悪い。
慌てて、散らばったパズルのピースをかき集めていたが、自分のパズル以上にピースが明らかに多い事に気付く。
『…あれ?』
……まさか…これは。
私は緑間君を凝視した。
彼も、私と同じに気付いたらしく、私をまじまじと見ている。
「…苗字、お前もジグソーパズルを持っていたのか…?」
周りに散乱したパズルは、私のと緑間君のが混ざってしまったらしい。
緑間君のは、買ったばかりで、封を開けてビニール袋に入れておいたのが、ぶつかった衝撃で口が開いた様だ。
呆然自失から何とか立ち直ると、私は『とにかく集めて、纏めてから教室で分けようよ!』と提案しつつ欠片をかき集めた。
緑間君も同意した。
「…そ、そうだな。とにかく集めるのだよ!一欠けらも残さずにな!」
※※※
-教室-
私は緑間君の席で、集めた欠片を分別する作業に追われていた。
緑間君の相棒の高尾君は、横でそんな私達に爆笑しながらも手伝ってくれた。
「ぎゃははは!!!www真ちゃんと名前ちゃんとなんて珍しい取り合わせだと思ったら!
ラッキーアイテムが混ざっちゃったって〜!?超ウケるわwwwww」
「…苗字も蟹座か…?おは朝を観てたとはな」
「真ちゃんは、同志が見付かって良かったなw」
…同志って。
ラッキーアイテム持って来たのは今日が初めてだっつーのに。
『ラッキーアイテムは偶々あったから持って来たけど、こんな事になるなんて…』
ふと、目に付いた一欠けらを取ろうとしたら、緑間君の手と触れた。
『…あ』
長くて綺麗な指に目が吸い寄せられて、心臓が大きく鼓動を打った。
「…俺の手がどうかしたか?」
彼の問う訝しげな声に意識を引き戻されて、私は慌てて頭を振った。
『…いや、そっちの方の手…何でテーピングしているのかな?って』
「…バスケの為だ。正確な3Pを打つ為なのだよ」
横で高尾君が補足する。
「真ちゃんの3Pシュートはマジ外さないぜ。鬼かよ!?ってぐらいにな!」
「当然なのだよ。俺は何事にも人事を尽くすのだよ。ラッキーアイテムもその一環だ」
彼にとって、ラッキーアイテムって、とても大切な物だったんだな…
『…緑間君』
「何なのだよ?」
『この欠片、放課後までに分けるの間に合わないから、緑間君がまだ分けてない分纏めて持って行って』
「…お前はどうするのだよ?」
『…私はいいから。明日以降返してくれれば』
「お前のラッキーアイテムまで奪うわけにはいかないのだよ…諦めるな!」
緑間君は、熱の入った瞳で私を真直ぐに見つめた。
『…あ、あの』
私はどぎまぎしながら戸惑う。
「今日の蟹座はあまり運が良くないのだよ。これで苗字に何かあったら、俺も寝覚めが良くないのだよ」
高尾君も、面白そうに緑間君に同意した。
「そーそー、今日のこれも運命なんだからさ、諦めて俺達と付き合ってよ」
そして、緑間君が更にたたみかける
「もし、間に合わなかったら放課後も付き合うのだよ」
マジっすか!?
いや…今日の放課後には、別に急ぎの用はないけどさ…
私は遠い目をして、今日の運命を受け入れる事にした。
※※※
-放課後-
私は、二人と一緒に体育館に行った。
事情を聞くと、バスケ部の先輩方は呆れた様だが、体育館の片隅で分別作業の許可を出してくれた。
彼等が練習をしているのを横目に、私は選別をしていた。
緑間君と高尾君は休憩時間になると、手伝ってくれた。
秀徳のバスケ部は強いらしい。
練習も、素人目に見てもとても激しいものだった。
特に、緑間君のシュートには驚かされた。
あの百発百中のシュートは尋常ではない。
でも、それ以上に彼のシュートの美しさに、私は魅了された。
あ、いけない!手元が疎かになってしまった。
私は意識を引き戻して、慌てて作業を開始する。
そして
「危ない!!!」
鋭い声が鼓膜を打ち、振り向くと目の前にボールが飛び込んで来た。
『わっ!?』
咄嗟の事で、私は避けられずに固まってしまった。
ボールを追いかけて来た緑間君は、ボールを弾き飛ばしたが、その勢いで体勢を崩して倒れ込んできた。
そして私も巻き込まれ、同時に倒れてしまった。
『ったー…』
「苗字!すまない、大丈夫か!?」
私は目を開けた。
緑間君の睫毛の長い秀麗な顔が、すぐ目の前にあった。
ち…近い!!
私は、顔に熱が集まってくるのを自覚した。
私が固まって返事が出来ないのを、彼は誤解したらしい。
「…どこか、怪我をしたのか?」
彼は覗き込みながら私の額に触れようとした。
『…いやあの。この体勢…』
「あ…!」
私は、緑間君に組み敷かれた状態で倒されている。
彼は弾かれる様に身を引くと、眼鏡を直しながら「…不可抗力なのだよ」と下を向いて呟いた。
私も身を起こす。
『うん。庇ってくれてありがとう』と礼を言う。
緑間君は真っ赤になった。
「べっ、別にお前を庇ったわけではないのだよ!!ラッキーアイテムが、そこにあるからなのだよ!」
私は、その「ラッキーアイテム」を見やった。
『………』
私達が倒れた衝撃で、せっかく分けたパズルのピースがぐちゃぐちゃになってしまった。
…またやり直しだ。
私は、また黙々と練習を横目に見ながら、分ける作業に没頭する。
…それにしても、冷えて来たな。
秋口の体育館には、当然暖房器具などはない。
選手達は、動いているから寒くはならないが、座り込んで作業している私には、フローリングの床は凍える様に冷たい。
『っくしゅっ!!』
私はぶるりと身を震わせた。
ぱさり。
何かが私の上から降って来た。
頭上を見ると、緑間君が私にジャージを被せていた。
大きい…彼のだろうか?
緑間君は、一言ぶっきらぼうに「寒いなら着ていろ」とだけ言って、またさっさと練習に戻って行った。
私は、彼の後ろ姿に『…ありがとう』と呟いて、ジャージの前をかき合せた。
腕を通すと、小柄な私にはぶかぶかだった。
ふわりと柔らかい香りに包まれる。
『……温かい…』
彼の優しい気遣いに、心まで温かくなる様な気がした。
結局、帰宅時間になるまで、選別作業は終わらなかった。
※※※
クラブが終わって、緑間君と高尾君と一緒に帰宅している。
彼等は、取りあえず私を家まで送ってくれるつもりらしい。
私は辞退したんだけど、緑間君は聞かなかった。
高尾君は陽気に慰めてくれた。
「まぁ、分けきらなかったからって、そんなに落ち込むことはないよ!ラッキーアイテムって、今日一日限定なんだしさ!」
『…そう言えばそうだね』
高尾君に同意しながら、私は別の意味で落胆していた。
そう…だよね。
これは、今日だけのラッキーアイテム。
明日になれば、緑間君と私が一緒にいる理由なんてなくなる。
でも…あれ?
私は何で落ち込んでいるんだろう???
そんな私に緑間君は声をかける。
「…苗字」
『はい?』
「明日の休日は用事あるか?」
『特には…』
「なら、俺の家に来るか?」
…はぁ!???
私は絶句した。
「一度ラッキーアイテムになったからと言って、二度とならないとは限らないのだよ。
また、蟹座のラッキーアイテムになった時に、使い物にならないのは困る」
「真ちゃん、積極的〜www」
「高尾、煩いのだよ!!!」
私は、隣を歩く緑間君を見上げた。
心なしか、彼の耳が赤くなっている。
「どうだ?来るか?」
『うん、…行く』
私は嬉しくなって頷いた。
この気持ちが今日だけで終わらないのなら。
最後の心の欠片(ピース)が見付かるまで、もう少し探せるだろうか…?
全ての欠片が嵌った時、その気持ちの形が見えるといいな。
こんな挨拶を交わせる事が、こんなに幸せなんて。
『送ってくれてありがとう!…じゃあ、また明日ね!!』
恋のラッキーアイテムの効用は、きっとまだ終わらない。