Secret Itemを守れ!
朝起きて、いつもの習慣で私はテレビを点けた。
「…今日の蟹座は11位、運勢は不安定…でも、ラッキーアイテムのフリルの下着を身に着ければ、運勢は好転!特に恋愛運は爆上げ!!」
私は危うく朝食を吹き出しそうになり、慌てて飲み込んだ。
激しく咳き込み、オレンジジュースを飲んで、やっと呼吸を整える。
『フリルの下着って…!?男性用は考えてないだろ、おは朝っっ!!』
占い番組にツッコミしながら、私は同じ部の緑間君の事を思い出していた。
私は、帝光中学男子バスケ部の一軍のマネージャーをしている。
桃井さんの様に、情報に特化する様な能力はないけど、平凡なりに一生懸命にやっている。
スタメンの中でも、特に緑間君とはとても気が合う友人だ。
占い好きな共通点があるせいで、彼に仲間認定されている。
フリルの下着…
さすがに男性用ってのは有り得ないよなー…あったとしても、特殊性癖専用だろうなー…
確か彼には妹がいた筈だけど…兄に下着貸して、と言われて普通貸すだろうか?
…………。
私は、今朝の緑間家の騒動を想像して、頭を振った。
その時、携帯が鳴った。緑間君からだ。
《苗字か。……お願いが…ある…のだが》
何だか言い難そうに切り出した。
《今朝のおは朝は見たか?》
『あれ…どうするの?…家族から借りるの?』
《…妹には持ってないと断られた…母には…とても…言えないのだよ》
ですよねー…
《…で、苗字は、その…持っているだろうか?》
恥ずかしそうに訊いてくる。初心で真面目な男子中学生にはいたたまれないよね。
『あるよ。去年、友達から誕プレで貰った物が。まだ未使用だから貸してあげられるよ』
いくら何でも、使用済み(←勿論洗濯済み!w)を異性に貸すのは私だってイヤだ。
これは友達が冗談半分で、「勝負下着だよ!」とくれた物だから、私は箪笥の肥やしにしてしまっている。
何分、普段着けるには派手過ぎるんで。
でも、まさかこんな形で御目見えするとは思わなかった。
緑間君はほっとした様に、お礼を言って切った。
私は、そのライトオレンジと白のツートンカラーのブラとショーツ一組を取り出した。
ビニール袋に入れて封をしてから、下着と一見分からない様に、お洒落な洋菓子店の紙袋に入れる。
可愛いシールを取り出し、口を折り曲げてしっかりと貼り付ける。
『これで大丈夫!分からないよね!!』
いくらおは朝のラッキーアイテムと言っても、男子中学生が女性用の下着を持っているのは外聞が悪いからね。
私は、急いで登校の支度を始めた。
※※※
朝練時、私は体育館で緑間君を見つけた。
彼を呼び止めて、件の紙袋を渡す。『これ…ね』
中身が中身なだけに、ただ渡すだけなのに緊張してしまう。
友達だってのに、意識し過ぎかな…?
緑間君も真っ赤になって受け取った。
「す、すまないのだよ、苗字。…ありがとう。助かる」
その時、のんびりした声が聞こえた。
「あれー、綽名ちん、ミドチンにだけ何あげてるの〜?」
『あ、いや…これは…』
紫原君の追求に、しどろもどろになる私。
「これは、今日の蟹座のラッキーアイテムなのだよ!」
「差し入れじゃねーのか、緑間、何入ってんの?」
青峰君が手を伸ばしたのを、緑間君が振り払う。
「見せるくらい、いいじゃねーか!?ケチだなー」
「見せるとか、冗談じゃないのだよ!!!」
「えっ!?名前ちゃん、緑間君にだけ差し入れあげているの?…それって…!」
桃井さんが目をきらきらさせている。
いや、だから違うって。
黒子君まで、ぼそっと追い打ちをかける。
「…でも、緑間君、真っ赤になって受け取ってましたよね?ラッキーアイテムなだけとは、とても思えないのですが?
…苗字さんに告白して、OK貰ったんじゃないのですか?」
「キャー、みどりんやるぅ!!」
「してないのだよ!!勝手に話を作るな!!!」
「では、苗字さんからのアタックですか?」
『違うからっ!!』
「二人とも、そんなに真っ赤になって否定しても、説得力がないです」
「黒子〜〜っ!!!」
事情が事情だけに、説明出来ない。
誤解が独り歩きをしている。私と緑間君は揃って頭を抱えた。
「ちわーっス!」
「何をしている。始めるぞ」
黄瀬君と赤司君が続けて入って来た。
「あー赤ちん、ミドチンだけ綽名ちんから差し入れ貰ってんだけどー?」
「…それは、ラッキーアイテムなのだろう?そっとしておいてやれ、紫原」
さすが赤司君。…もしかして、蟹座のラッキーアイテムが何なのか知っているのかな?
そして彼等は、いつもの様に練習を始めた。
※※※
放課後の練習時
紫原君は激しい練習に一息吐いて、ベンチに腰掛けた。
その脇には、例の紙袋が置いてあった。
紫原君はそーっと手を伸ばした。
「だーって、この袋、お菓子屋のロゴ入ってんじゃん…ここ、美味しいんだよねー」
「お、紫原、開けちゃうのか?俺にも寄越せ」
ふと漏れ聞こえた会話に、私はぎょっとしてベンチに視線を向ける。
見ると、紫原君と灰崎君が袋を開けようとしている。
緑間君は、席を外して今はいない。やばっ!!
私は、彼等に突進した。
『駄目ーーーーっっ!!!!』
驚いている彼等を尻目に、紙袋を引っ手繰る。
『見ないでっっ!!!』
「いーじゃん?何隠してんだよ?隠すから、余計見たくなるんじゃねーか!アツシ、名前を捕まえろ!!」
「えー、休んでいるのに。めんどくさー」
「菓子、いらないのかよ!?」
「それはいるけどー。崎ちん、頑張ってね〜」
「ちっ、ふざけんな!!」
灰崎君は、私を追い回した。
私は紙袋を抱えて逃げた。しかし、すぐに追いつかれる。
灰崎君は、紙袋の端を掴んだ。でも私は離さない。
ビリッと紙が破れる音がした。
その時、「何をやっているのだよ!!」怒声が響いた。
私は、緑間君に腕を引かれ、庇う様に抱き込まれた。
そのすぐ後ろには赤司君と黄瀬君がいる。
赤司君が前に進み出た。
「灰崎、練習中に何をふざけている? 走り足りないのなら、お前はグランド10周追加だ」
「げっっ!!」
黄瀬君が小声で私に耳打ちした。
「綽名っち、その…破れて見えているっスよ?」
心なしか、黄瀬君の顔が赤い。
『えっ!?』
抱えた紙袋は半分くらい破れて、ビニール袋に入れておいた中身が一部見えてしまっている。
『やっ、やだ!どうしよう!?』
「これは…!困った事になったのだよ…」
緑間君は真っ赤になって、目を逸らした。
「ラッキーアイテムって、そー言う事だったんスね…」
黄瀬君は、何か考え込んでいたが、何か思い付いた様な表情で頷いた。
「そうだ、二人とも少し待つっス!良いもんがあるっスよ」
そして、黄瀬君が持って来たのは、某有名洋菓子店の箱だった。
「これなら、中身を外せば代わりになるっスよ!今日、ファンの子に貰ったんス」
「大きさも丁度いい。黄瀬にしては、上出来なのだよ」
「なんスかそれ!褒めてないっスよ!?」
『ありがとう、黄瀬君!助かるよ!』
「綽名っちにそう言って貰えると、助けた甲斐があるっス!緑間っちとは大違いっスね!」
黄瀬君は、私の頭をにこにこしながら撫でてくる。
そんな私達を、緑間君は顔を顰めて見ている。
…ラッキーアイテムを黄瀬君に見られた事が気に入らないのだろうか?
私は不思議に思って緑間君を見たら、顔を背けられた。…一体、何なんだろう?
とにかく、一件落着して私は安心した。
洗濯をする為にそこを離れる時、黄瀬君が何やら緑間君に耳打ちするのが目の端で見えた。
「借りが出来たな、黄瀬」
「そんな事はいいんスよ。…それよりも緑間っち、こんな話を知っているっスか?」
「何なのだよ?」
「俺のファンの女の子達に聞いたんスけど…
恋人に勝負下着を預かってもらい、…する前日に返して貰って、当日着けて行くと、その恋人達はhappyになるっつージンクスがある…
そんなお呪いが流行っているんだそうっス」
「……お前は中学生なのに、そんな話をしているのか? 破廉恥なのだよ!!!」
「俺じゃないっスよ!ファンの女の子が言ったんス!」
※※※
次の日
緑間君は私を見付けると、言い辛そうに切り出した。
「苗字、すまないのだが…下着は返せないのだよ」
『…は!?…何で???』
ラッキーアイテムとしては、もう用がない筈。どうしたんだろう?
真っ赤になって、俯いて中々先を切り出そうとしない緑間君を見て、もしかして…と頭に浮かんだ事を訊いてみる。
『…もしかして…気に入って身に着けてみて…破っちゃった、とか?』
「なっ!!!違うのだよ!!!!どーしてそんな発想になるのだよ!?うっかり落として汚してしまったのだよ!!!」
『…ビニール袋に入れておいたのに?』
「…それでも、密閉したわけじゃないから、隙間から泥水が入ってしまったのだよ」
『そうなんだ?気にしなくていいのにー』泥水なら、洗えば落ちそうだし。
「そうはいかないのだよ」
でも、友達からの誕プレなんだから、返って来ないのもな…どーせ、着けないだろうけど。
「それで…申し訳ないが、似たのを買って来た。サイズも同じだ」
『ぶっっ!!』
それが出来なかったから、私に頼んだんじゃないのか??
私が引いた目で彼を見たら、緑間君は慌てて釈明をした。
「妹に預けて、同じサイズのを買って来る様に頼んだのだよ!」
『…そうなの?…ああ〜びっくりしたー』
彼は、私に可愛くラッピングした袋を渡した。
「気に入るかは分からないが…受け取るのだよ」
『あ、ありがとう…』
異性から下着を貰うなんて、恋人同士でもないのに恥ずかし過ぎる。私は真っ赤になって受け取った。
しかし…これを兄に頼まれた時の、妹さんの反応が気になる…w
「あれっ!?みどりん、名前ちゃんにプレゼントあげてるー!?」
桃井さんがうきうきと私達を見ている。
「今度こそ、告白ですか?やりますね、緑間君」
『ち、違うよ!』
私は慌てて手を振って、黒子君に異議を唱えた。
「…でも、二人とも顔が真っ赤ですよ?」
「これにはその…他人には言えない訳があるのだよ!!!」
「二人だけの秘密なのねっ!?」
何か…言えば言うほど、ドツボに嵌って行く様な気がするな…
『…緑間君、今は言っても誤解は解けそうにないね』
私は諦めて苦笑した。
「…お前となら…誤解されても構わないのだよ」
…はぁ!?
『いっ、今、何て!??』
「…っ、何でも無いのだよ!!!…れ、練習に戻るぞ!」
「…あれは、二人がくっつく日も近いですね」
黒子君は私達を見て、そっと呟いた。