高尾和成


不器用なlove-2-




…そろそろかな。
私は、図書室で時間を潰していた。
読んでいた本を所定の位置に戻して、屋上に向かう。

屋上は誰もいなかった。
空はどんよりとしていて、日没して暗くなっていた。
…今の私の心の様に。

ぽつっ

私の頬に、雫が落ちた。
『やだ…!…雨!?』

雨粒は次第に多くなり、本格的に降り出した。
私は慌てて階段室の軒先に避難する。

まだ、屋上にいないって事は、階段室の中で待っていた方がいいかな。
私は、ドアのノブを回した。

ガチャッ

『えっ!?』

ガチャガチャガチャ!

『やだ!?鍵閉められちゃってる!!?』
私はドアを叩いた。
でも、ドアはビクともしなかった。

私は絶望して、ドア側の壁に寄りかかった。
『…どうしよう。閉め出された…!』

上に庇はあるけど、雨は風を伴い、私の全身を叩いて濡らす。
私は全身の力が抜けて、座り込んだ。

ぼうっと座っているうちに、全身が冷え、次第に眠くなって来た。
私は組んだ腕に、顔を伏せて目を閉じた。


………

いつまでそうしていたろうか。
私は、ドアを開ける音で目を覚ました。

「名前!!!」
『…あ…和…成?…来て、くれたんだ…?』
私はぼんやりと返事をした。

「大丈夫か?苗字?」
和成だけじゃなくて、緑間もいる。
これじゃ、告白出来ないじゃない、和成のバカ!

そう言えば、メールには「話したい事があるから屋上で待ってる」とは書いたけど、「一人で来て」とは書かなかった。
今更自分の迂闊さに気が付いた。…本当、私ってバカ…

やっと和成が来てくれたと言うのに、私は怠くて寒くて身体を動かす事が出来なかった。

「馬鹿め。部活が終わる時間になったら、屋上は施錠してしまうのだよ!苗字、身体が冷えてるぞ」
緑間は、私にタオルを被せて濡れた髪を拭いてくれた。

「おまっ!?顔真っ赤だぞ!!?」
和成は、私の額に手を当てた。
「…やっべ!熱あるじゃん!!この雨降ってんのに、ずっと屋上にいたのかよ!?」

和成は私を抱えると、姫抱っこして保健室へ連れて行った。
私は温かい腕に安心して、意識を優しい闇に委ねた。

※※※

-高尾side-

真ちゃんは保健室のドアを開けた。
俺は、名前を抱えたまま部屋に入る。
彼女は、ぐったりして気を失っている様だった。

「さすがに保険医は、帰っちゃってるかな? まだ開いているけど」
「俺は自転車とリヤカーを持って来るのだよ。高尾、苗字を頼むぞ」
「…ああ」
真ちゃんは、俺の目を暫くじっと見ていたが、小さな声で一言呟いた。
「高尾…苗字を泣かすなよ?」
「真ちゃん…」

俺は何となく分かっていた。
真ちゃんも…名前が好きだって言う事。
俺は何をやっているんだ?…フラれる事を恐れて…好きなヤツがいるって聞いて、動揺して避けちゃって。

「はは。…俺って、かっこわりー…」

俺は、名前を保健室のベッドに寝かせた。
彼女の乱れた前髪をそっと整えた。

※※※

-名前side-

意識がゆっくりと覚醒に近付いて行く。
ふわふわしていて気持ちが良い。

優しい手が、私の頭を撫でている。
その手がゆっくりと耳から頬を撫で下ろす。

その温かさが気持ち良くて、私はそのまま目を瞑っていた。

「名前、来るのが遅くなってごめん。…俺に何言うつもりだったのかは分からないけど…
…ダメだな、俺は。好きな子をこんな目に遭わせてさ…」

……え?

好きな子???

目を開けるに開けられなくて、眠ったふりをした。
だって、こんな時はどうしたら良いのか分からないから。

ベッドの端がギシッと微かに揺れる。
額に柔らかい感触がした。

これは…唇の感触?

私は、ドキドキした心臓を誤魔化す様に寝返りを打った。そして寝言の振りして、伝えたかった言葉を紡ぐ。

『…ん。和成…好き』


『………?』

暫く何も聞こえないので薄目を開けると、和成は顔を真っ赤にして、口を片手で押さえていた。

その様子が、あまりにも可愛く思えて、私はふっと微笑んだ。
和成と目が合った。切れ長の目が大きく見開く。

「おまっ…!!今の聞いて…!?」
『…ごめんね。でも、私も和成が大好き…』

「!!!!」
バサッ『!?』

和成は、私の両手首を掴んでベッドの上で覆い被さっていた。
顔が近い。息がかかる距離に、私の心臓は跳ねた。

『か…和成?』
「名前…俺、お前に好きなヤツがいるって聞いて…苦しくて…
でも、どうしても諦められなくて…!」
『うん』
「メールに気が付いた時は雨降って来たから、屋上にはもういないかと思った。
お前の本音が聞くのが怖くて…でも倒れたお前を見たら、本当に後悔した。…辛い思いさせてごめんな?」

『ううん。大丈夫だよ』
「…お前は、いつも言葉が少ないから、俺は表情や仕草でお前の気持ちを測ろうとしていた。
でも、いつの頃からか…それが怖くなった。俺が思ってる様に、お前が思ってくれてるのか…知るのが。
もし、そうじゃなかったら、俺は立ち直れねーし」

『私の気持ち…ちゃんと言葉で伝えないとって。色々誤解させたみたいだし』

「名前…好きだ」
『和成…』

和成の顔がゆっくりと近付いてくる。
私はそのまま目を閉じた。


唇に触れる、優しい感触。
私はうっとりと目を瞑っている。

和成は、私の首元に唇を当てた。その瞬間、微かに痛みが走る。
『っ…!?』
目を開けたら、愛おし気な表情の和成と目が合った。


その時、保健室のドアがノックされ、「入るぞ」と緑間の声がした。
和成は私を解放して、ベッドから降りた。

「高尾、リヤカーを出して置いたから、苗字を乗せるのだよ」
「あんがとー真ちゃん!」

私は、和成に支えられて身体を起こした。
心配そうに私を見ていた緑間の瞳が、驚愕に見開かれる。

「高尾っ!!お前は苗字に何をやったのだよ!!?病人に破廉恥な事をするな!!!」
「わりぃ、どーしても我慢出来なくてっ!!」
「全くお前は…っ動物か!!?」

え……?

私は、緑間が何をそんなに怒っているのか分からない。
ポカンとしていると、緑間は戸棚の中から絆創膏を取り出した。
そして一枚出して、私の喉元に貼り付ける。
「これで良し」
「あっ!?真ちゃん!!酷っでーよ!!折角付けたのにー!!」

『………?』
私は、絆創膏を貼り付けられた箇所に手を当てる。
そこは、さっき和成に吸われた場所で…って。
まさか!?

私は慌てて鏡の前で確かめようとしたら、緑間に剥すなと怒られた。

って事はやっぱり…!!
私は真っ赤になった。
熱があるのに、更に上がってしまいそうだ。

外に出たら、雨が止んでいた。

そして、和成が運転している自転車の後ろのリヤカーの中で、一緒に乗った緑間に延々と説教されてしまう破目になった。




page / index / main

|

ALICE+