高尾和成


不器用なlove-1-




秀徳高校・教室にて

「名前、おっはよー!!」
今日も、いつもの如く、和成が挨拶してくれる。
『…おはよ。和成』
私もいつもの様に、言葉少なに返す。

「…あれ?名前、今日は機嫌が良いんじゃね!?」
和成の言葉に、私は無表情に頷く。
その横では、和成の相棒の緑間が小声で呟いている。
「…毎度の事ながら、良く分かるのだよ…」
「えっ、分かるっしょ?だって、嬉しそうじゃん?」
「…俺には全然分からん」

私は、いつも他人と言葉をやり取りするのが、とても苦手だ。
クラスでは、無口な人とされている。
表情も乏しい…らしい。
何か話そうとしても、上手く纏まらないし…頭が一杯になってしまう。
なので、その中の一言を言うのがやっと。
だから、結果的に無口で無愛想になる。

その中でも、高尾和成と緑間真太郎は、私と仲が良い方だ。
和成は、いつも私が言わんとしている事を大体理解してくれるし、緑間は、女子にしては煩くなくて良いのだよ、と言ってくれてる。
私は、ただ口下手で不器用なだけなのだと思っているけど。

優しくて寛容な二人に感謝してる。
二人の傍にいるのは、とても居心地が良い。

ただ…最近、私は秘かに悩んでいる事がある。
…最近、和成が異性として気になり出しているのだ。

和成は、大抵の人とすぐに仲良くなれるし、一緒にいて楽しいヤツだし、加えて中々のイケメンだ。
どちらかと言うと、愛嬌が優っているけど結構顔立ちは整っている方だし、一年にして強豪バスケ部のスタメンで、
女の子達にも、緑間と同じ位には人気がある。
偶々近くにいる私の事まで、良く見てくれているだけって言うのも分かっている。
和成は、誰にでも優しいから…

私の気持ちが分かるのも、彼の卓抜したコミュニケーション能力によるものだから、別に私が特別ではないのだ。

そんな事をぼーっと考えながら、彼が他の子と楽しそうに喋っているのを眺めている。
と、いきなり和成が、近寄って来て私の顔を覗き込んだ。
「どったの?名前??」
『えっ!?』
急に近くなった和成の顔に、私はドキッとする。
「いやさ、何か…ぼーっとしているからさ。…どこか具合でも悪いとか?」
『いや…大丈夫』
「ふーん?…でも、顔赤くね?」

和成は、いきなり顔を近付けて来た。
私は驚いて仰け反ろうとしたのだが、和成の両手が私の肩を押さえていて動かせない。
私が内心でパニックを起こしていると、額がコツリと当たった。

「うーん…熱は無いみたいだけどなぁ」
ちょっと!!!何してるの、この人!?

私は至近距離が恥ずかしくて、頭がどうにかなってしまいそうだった。
何とかして、この状態から逃れようと身体を動かす。

ドン!

気が付いたら、私は和成を渾身の力で突き飛ばしていた。
反動で、自分の座っている椅子がグラリと後ろに傾く。
「あっ!?おいっ!!!」
和成が伸ばした手が空を切った。

けたたましい音と衝撃に、私の意識は一瞬混濁する。
『い…痛っ!!』
目から火花が出たかと思った。

「…全く。お前は何をしているのだよ」
緑間が私を抱き起こす。
「苗字、どこか痛い所はあるか?」
『…背中を打っただけだから』
「…付いて行ってやるから、保健室に行くのだよ」
『…うん』

私は、緑間に付き添われながら教室を出た。
一瞬、和成の方を見たが、和成は俯いていて顔が見えなかった。

「お前等は一体、何をやっているのだよ?」
『………』
緑間に歩きながら小言を言われてしまったが、今回ばかりは同感だ。

私が突き飛ばした瞬間見えた和成の顔は、何が起こっているのか分からない、と言った表情をしていた。
心配してくれただけの和成を突き飛ばすなんて。
自分の自意識過剰が嫌になる。
和成に悪い事…しちゃったな。

幸いに、背中の打ち身は大した事無かった。
保険の先生に湿布を貼って貰った。
緑間は先に戻ったから、私も続けて保健室を出て、教室に向かって歩き出す。

『あ…和成…』

行く先の廊下に、こっちを向いて和成が立っていた。
私は、何となく気まずくて、横をすり抜けようとする。
「待てよ」
和成に腕を掴まれて、私はびくりと肩を揺らす。

和成…怒ってる?
私は、小声で彼に『…ごめん』とだけ言って歩き出そうとした。
だって、それ以外にどうしていいか分からなかったから。

でも、和成は腕を離さなかった。
『和成…』
「…名前、お前…背中はどうだったの?」
『大丈夫。打ち身だけ』
「………」

和成は、珍しく無言だった。
らしくない和成に、私は首を傾げた。
『…何?』
「……なんでもねぇよ。さっきは悪かったな。じゃあな!」
とだけ言って、和成は私の腕を離した。

それからの和成は、私が話しかければ普通に返すものの、彼からは絡んで来なくなった。
元から私もそう話す方ではない。
何となく、彼との距離が疎遠になった様な気がした。

※※※

そんな日が何日も続いた。
私は自分の中のモヤモヤした気持ちが、次第に大きくなって来ている事に気が付いた。

ある日、珍しく和成が傍にいない緑間を捕まえて話しかけた。
『あの…緑間』
「苗字か。どうかしたのか?」
『和成が…私の事を何か言ってた?』
「別に何も聞いていないのだよ」
『そう…か』

「…高尾と喧嘩でもしたのか?」
『…なんで?』
「高尾が…最近元気なくなっているのだよ。いつも煩い位なのだが…あんまりヤツが大人しいと、こっちまで調子狂うのだよ」
『…それは多分、私は関係ないと思う』
緑間は、私の目をじっと見ながら呟いた。
「お前は…もっと自分の影響力を考えるべきなのだよ。高尾の調子が出ないと、こっちまで迷惑を被るのだよ」

緑間の言っている意味が分からない。影響力って?

ふと、視線を感じて教室の入り口の方を見たら、和成が私達の事をじっと見ていた。
心臓が跳ねた。

私が席に戻った時に、彼等の話し声が聞こえて来た。
「真ちゃん、名前と何を話していたの?」
「……別に何でもないのだよ」
「ふーん、俺には言えないって事?」
「……今度の数学のテストの範囲を教えていただけなのだよ」

……緑間は、私と会話したのが和成関係だと言うのは黙っていてくれるらしい。
私は安堵の溜息を吐いた。


私は、いつも彼が私の気持ちを汲んでくれる様に、私が彼を好きだと言う気持ちも伝わってしまうものだと思っていた。
でも、こればかりは全然伝わっていない。
…伝わる気配すらない。

こればかりは、自分で伝えなければダメなのかもしれない。
でも、私みたいに感情表現が下手なのは、どう伝えればいいのか想像もつかなかった。

※※※

放課後、私はある男の子に呼び出された。
人気のない校舎裏に連れて来られる。
「俺さ…以前から苗字さんが好きなんだけど…付き合ってくれね?」
『ええっ!?』

こんな地味で口下手な私が好きと言ってくれる人がいるとは思わなかった。
私はびっくりして言葉が出て来ない。
でも…良い人そうだけど…私はこの人と付き合える様な気がしない。
『ご、ごめんなさい…私、好きな人がいるの』

自分でも驚く位、はっきりとした拒絶の言葉が出て来た。

がさり

彼が立ち去った後、反対側から枯葉を踏みつけた様な音がした。
私が振り向くと和成が立っていた。
『和成…?』
もしかして…今の聞こえただろうか?
私は顔が熱くなってきた。

「あ…!わりぃ…今の聞くつもりじゃなかったんだけどよ」
『……聞いて?』
「名前は…その、好きなヤツがいるんだな?」
私は赤い顔してこくんと頷いた。
「そ、そうか。…それって、真ちゃん?」
私は驚いて顔を上げた。
『えっ!?』
「や、いつも仲良いし?」
『私は…!』

私は勇気を出して、伝えようとしたが、大きな声に中断された。
「高尾!もう部活始まるぞ!!何してやがる!?遅れたら轢くぞ!!!」
「げっ…!!宮地さん!?」
「遅刻したら、グランド5周追加だぞ!」
「すまっせん!すぐ行きますーー!!!」

じゃな!と、体育館の方に走って行く和成を、私は呆然と見送った。


気持ちが伝わらない処じゃない。
完全に誤解されてる!?

私は、和成に告ろうと決心を固めた。

しかし、いざ告ろうと決心はしたものの、具体的にどうすればいいのか分からない。
…でも、そうか。
私がされた様に、直接呼び出せばいいのか。

でも、和成のそばに行って話そうとしても、緊張して声が出て来ない。
そんな私を和成は不思議そうに見やる。
「…どったの?名前ちゃん?」
『あっ…あのっ………!』

そんな事を繰り返している間に、授業開始のチャイムが鳴り響いた。
『ご、ごめんね!』
それだけをやっと言って私は席に戻った。
私は自分の不器用さを恨んだ。
これでは、どんなに頑張っても、告白出来る気がしない。
告白出来なきゃ、失恋すらも出来ない。

声が出せなきゃ、メールで呼び出せばいいんだ!
私は和成にメールで、部活終わってから屋上に来てくれる様に頼んだ。




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