12月の妖精-2-
-赤司side-
俺は、基本一人で外出する事はあまりしない。
今回は、珍しくも紫原からの提案で、ケーキバイキングに誘われたので一緒にいた。
ある意味、紫原に付き合っているのは面白い。
俺は、次々と紫原の胃に消えて行くケーキを、感心しながら見ていた。
「赤ちんは食べないの〜?」
「…俺はサンドイッチと紅茶で十分だよ。…それにしても良く食べるな」
「育ち盛りだからねー…ここ、チーズケーキが美味しいんだよー?」
一通り、時間枠いっぱいまで粘った後、紫原と俺とはクリスマス気分に浮かれているショッピングモールに足を踏み入れた。
…そう言えば…俺の誕生日も近いな。
「…ん〜?」
紫原は足を止めた。どうしたのか、と問う前に、俺は言葉を飲み込んだ。
紫原の視線の先には……
「おや、黒子じゃないか。…デートかな?」と言いつつ、一緒にいる女子には見覚えがある気がして、記憶を総動員させる。
……ああ。あの、三軍の時に一緒に練習してたマネか…
思い出し、ふと横に居る紫原を見やると、紫原はギリ、と唇を噛み締めて視線で射殺さんばかりに黒子を睨んでいた。
………これは。
俺は、面白いものを見付けた、と興味深く紫原と黒子と一緒にいる女子を交互に見比べる。
紫原の気持ちは明らかだった。
ふらふらと紫原は黒子達をつけて行く。俺は紫原をいざとなれば掣肘出来る様に、注意しながら歩いていた。
彼等は、メンズのセレクトショップに入って行った。楽し気に商品を選んでいる様だ。
紫原は気付いていない様だが、彼等の手にしているTシャツは、どう考えても彼等には大き過ぎる物だった。
俺は、これ以上は、つけない方が良いだろうと判断し、紫原を促して店の外に出た。
「……綽名ちん、今日は予定がある、って言ってた。黒ちんとデートだったなんて…!」
紫原は悔しそうに呟いた。驚いた事に、目には薄らと涙が浮かんでいた。
……そんなに、あの娘が好きだったのか…
「紫原。あまり気を落とすな。…あの子は、別に黒子と付き合っている訳ではないのだろう?」
「……幼馴染って言ってたけど…」
「なら、一緒に買い物する事もあるのかもしれない。青峰と桃井の様に」
そうかな、と呟いた紫原はまるで子供の様だった。
俺は、ヤツを宥める為に、「今度はチョコレートフォンデュなんてどうだ?と提案してみたら、
ヤツは目を擦りながらゆっくりと頷いた。
※※※
-名前side-
「苗字、これを一軍に返して措いてくれ」
私は、三軍のコーチから頼まれて、借りていた作戦盤を返しに第一体育館に向かった。
「ちょっと〜黒ちん、パスミスしないでよー? 唯一の取り柄でしょー?」
「すみません」
紫原君は、周りが制止するのに耳を貸さず、テツヤに突っかかっていた。
何だか、間が悪い時に来ちゃったな。
私は、彼等を刺激しない様に、そっと返却し、そのまま外に出ようとした。
しかし、その時、運悪く汗で濡れた床を踏んでしまった。
ズルッと滑って、大きな音を立てて尻餅を付く。
「おいっ!大丈夫か?」虹村先輩から声をかけられた。
「…名前さん?」テツヤが私に手を差し伸べるが、その手は紫原君に払われていた。
「……紫原君」
「黒ちん、邪魔〜」
紫原君は、私の腕を掴んで立たせた。
『…あ、ありがとう』
「別にー…いつまでもそこに居られたら迷惑だし〜?」
彼は私から顔を背けた。……迷惑、かぁ。確かに…
嫌われちゃったのかな…? そう思うと酷く心が痛んだ。
『…ご免ね? すぐに行くから…』
私は、泣きそうな気持ちを押し隠し、逃げる様に体育館を後にした。
※※※
『…はぁ…』
明日はクリスマスイブ。
私は、申し分なく出来たオレンジケーキを前に、溜息を吐いていた。
結局、あれから紫原君とは話せず仕舞い。
テレビからは引切り無しに、クリスマス色に染まった世界が映し出されていた。
私の、このどんよりとした気持ちも、あの腹立たしい位のキラキラに塗り潰されてしまえばいいのに。
紫原君…怒っていた…?
テツヤにあの顛末を聞いたものの、大丈夫です、と言うだけで、私には詳しい事は教えて貰えなかった。
ただ…「クリスマスプレゼント、紫原君には忘れず渡してあげてくださいね」と言われただけ。
私は、ぼんやりと冷ましたケーキをラッピングする。
あれから紆余曲折して、結局彼にと選んだのはマフラーだった。
『喜んで…ううん、受け取って…くれるかな…?』
クリスマス気分の世間を恨めしく思いながらも、そのクリスマスに仲直りの望みをかけている…なんて。
我ながら虫の良い…そんな自分に自嘲の笑みが零れる。
可愛くラッピングした、サンタの柄入りの透明の袋には、私の不安気な表情が映り込んでいた。
※※※
明日はクリスマスで二学期の終業式だ。
私は今日のイブに渡そうと決めていた。
テツヤと青峰君には、休み時間にケーキを渡せたが、紫原君は間が悪くて、放課後まで捕まえる事が出来なかった。
部活が終わり、私は早々に着替えた。
プレゼントを持って、一軍の更衣室へ向かう。
練習が終わった一軍選手がぞろぞろと体育館から出て来た。
『紫原君!』私はそっと彼を呼ぶ。
紫原君は、私の顔を認めると顔を顰め、列から外れて通路の脇に移動した。
彼の反応に、私は心が挫けそうになるが、萎みそうになる気持ちを叱咤する。
『あの…っ!これ…っ』
「……黒ちんと付き合っているなら、黒ちんにあげれば〜?」
えっ…?
私は彼の言ってる意味が分からなくて茫然と彼を見上げる。
『わ、私…別にテッちゃんと付き合ってる訳じゃ…!』
「この前デートしてたじゃん! …俺が聞いた時は予定あるって言ってたくせに!!」
『あ、あれは……その、買い物に付き合って貰っただけで…』
「こんなもの…要らないっ!!」
紫原君は、私の差し出したプレゼントを叩き落とした。
私は呆然と立ち竦む。
私は震える手で落とされたプレゼントを拾う。
『…ご、ごめんなさい。迷惑だったよね』
私は俯いて小声で謝罪すると、足早にそこから立ち去った。
-紫原side-
俺は、綽名ちんが去って行った後をボーっと見詰めていた。
彼女の顔を見る度に、黒ちんとの光景が思い出されて胸を焼いた。
苛々する気持ちが抑えきれず、綽名ちんを怒鳴ってしまった。
……なのに、何で俺の方が泣きたい気持ちになっているんだろう?
「紫原君」
今、一番聞きたくない声が聞こえた。
俺は、声の方に振り向きもせずに返事した。「何? 黒ちん」
「あの日…見ていたのですね? でも言っておきますけど、あれはデートなんかじゃないです。
あの日は元々…紫原君への…その、プレゼントを購入する予定で…僕は相談されて、それに付き合っただけです。
名前さんは、君にクリスマスプレゼント渡したいって、それは楽しそうにしていましたから」
「…………」
「確かにケーキは僕達も貰いました。…青峰君も。でも、僕達はあくまでオマケです。…意味、分かりますか?」
「…黒ちん…」
「僕の大事な幼馴染を…泣かさないでください。……お願い、します」
「……綽名ちん…泣いてた…?」
そんなつもりは無かった。
俺は、自分の気持ちばかりいっぱいいっぱいで、彼女を傷つけた。
心臓がキリキリと締め付けられる様に苦しい。
俺はふらりと当ても無く歩き出す。
「どこへ行くつもりですか?」
「…分からない。……綽名ちんがいる所…」
「……紫原君、名前さんを…お願いします」
黒ちんは、綽名ちんが落ち込んだ時に、いつも行く場所を教えてくれた。
※※※
-名前side-
私は、近所の公園に足を向けた。
いつも辛い時には、ここに来てしまう。
気候が良ければ、緑の木々や草、色とりどりの花々に慰められる。
だが、今は冬。
木々の葉は枯れ落ち、咲いている花も無く、無彩色の世界では木枯らしだけが吹いている。
気持ちを落ち着かせる為にここに来たけど、その前に凍えてしまいそうだった。
『……っ』
私は、抜け殻みたいに、もう用の無くなったプレゼントを抱えていた。
受け取る人のいないプレゼントは、行き場の無くなった私の気持ちそのもの。
抱えていても辛いだけだった。
捨ててしまえれば楽になれるのかな…?
私の目からはポロポロと涙が零れ落ちた。
彼にとって、私は"要らない"子だったんだ。
私はベンチで蹲る様に、組んだ腕の中に顔を伏せて座っていた。
カサッ
不意に近くで、枯葉を踏み付ける様な音が聞こえ、顔を上げた。
誰かが私の前に立っている。
私は、その人の顔まで視線を上げた。
『…!? 紫原君!??』
「……それ、どーするの?」
紫原君は、私の持っているプレゼントを指さした。
『……?』
「ねぇ。俺には…クリスマスプレゼントはくれないの?」
『貰って…くれるの?…あ! でも…さっき落としたので、ケーキは崩れてしまっているかもしれない』
「良いから! くれるんでしょ〜?」
私は恐る恐るプレゼントを差し出す。
紫原君は私の隣に座り、中を確かめて満足気な表情を浮かべる。
「ケーキ、大丈夫みたい〜」
私はホッとして強張った表情を緩めた。
彼は袋からマフラーを取り出し、首にかけると私を抱き寄せた。
『……!?』
突然の事に、私は心臓が跳ねた。
そして彼は屈んで、マフラーを私の首と一緒に巻き付ける。
紫原君の身長に合わせて、長めのマフラーにしておいたから、ギリギリで二人分の長さは足りた。
「……ゴメン…俺…」
呟かれた声は小さくて、頼りなかった。
私は返事の代わりに、彼の背中に手を回し、キュッと抱き締めた。
『…ううん。良いの…紫原君、受け取ってくれて…ありがとう』
「……綽名ちん、顔冷たいー」
『私は温かいよ。紫原君のおかげで』
「なら、綽名ちんが寒くなくなるまで、こーしてるー」
彼の温もりに、気持ちがゆっくりと安らいで行く。
『紫原…敦君』
「何〜?」
『メリークリスマス!』
まだイブじゃん、とか言いながら、彼も私の耳に口を寄せる。
「メリークリスマス! …お菓子、一緒に食べよー綽名ちん」
END
※※※
光様
楽しんでいただけたでしょうか?
「紫原落ち・黒子幼馴染・紫原が黒子に嫉妬」とのお題をいただきました。
紫原の話は単発ギャグで書いた事はありますが、ちゃんとした紫原落ちは初めて書きました。
ちょっとシリアス展開になりましたが、いかがでしょうか?
まだ告白未満ではありますが…それでも紫原落ちと言う事で。
原作の時間軸に沿って書いてみました。
紫原らしく出来ていれば良いのですが…
余談ですが、まいう棒のモデルのお菓子の秋田限定「いぶりがっこ味」は捏造ですw (漬物…どんな味だよ)
ちなみにきりたんぽ味は実在します。普通に美味しそうですw
秋田にしたのは、勿論後の陽泉絡みです。
素敵なリクエストを、ありがとうございました!