夢みたいな話をしよう。
あの人と過ごしたかけがえのない日々。宝石みたいにきらきらと目映くて、蜃気楼のように朧気で。些細な瞬間ばかりがいつまでも色褪せない。
意地悪で、口も悪ければ態度も悪くて、ぶっきらぼうで、振り撒く愛想のひとつもない。そのくせ優しくて、友達想いで、その実愛に飢え愛に深い。
癖のついた髪も、煙草の匂いも、白煙をくゆらせる器用な手も、少年のような笑顔も、一人で夜空を見上げるその瞳も。
すべてを愛していた。
だから、夢みたいな話をしよう。
夢のような話をしようか。
誰かを心の底から愛することを覚えず、傍若無人に生きてきた。それで良いと思っていたし、その生き方はずっと変わることはないと思っていた。
そんな自分に、愛される歓び、そして愛する幸福を教えてくれた人。しっかりしてるんだか抜けてるんだか分からなくて、周囲をやわらかく笑顔にする、そうだ、まるで春の日向のような。
何よりも愛おしくて、その生涯を誰よりも守りたかった。
すべてを愛していた。
だから、夢のような話をしようか。