身体の向きを変えた一也くんに、腰を抱き寄せられる。彼の脚の間に膝立ちのわたしが収まっていて、彼を少し見下ろすかたちになる。
後頭部に手が周り、軽い力とともに引き寄せられる。吸い込まれるように唇が重なっていた。キスをしながら、服の裾から彼の手が侵入してくる。脇腹を撫で、背中を上り、かと思えば掻き抱くように抱きしめられる。
その何度目かに、ブラジャーに指が触れる。丁寧にストラップをなぞり、アンダーベルトの縁を掠めながら背中へ回った指先が、そこにあるはずの何かを求め彷徨う。しかし背中には何もなく、今度はお腹側へと回り、探る。
「⋯⋯ん、こっちか」
フロントホックを探りあてた彼は、物珍しいもの見たさといった感じで、服をデコルテまで引き上げた。突然目の前に下着姿を晒すことになり、頬が紅潮する。彼のふたつの瞳が下着にあしらわれた繊細なレースのひと編みさえ射抜いているような気がして、目眩がする。
「なんか脱がせんの勿体ねぇな」
「⋯⋯っ」
下着と素肌の境目を、彼の舌先がなぞる。あたたかく、そして擽ったいそれは鎖骨までゆっくりと上り、軽く歯を立てた。びくりと跳ねてしまった肩を見て、今度は首筋に甘く噛みつかれる。
「⋯⋯っ、一也く」
わたしのささやかな抵抗など歯牙にもかけず、首筋を伝い、耳朶、耳珠、耳輪を舐められる。
その間にお尻を弄っていた方の手が服の中に入り込み、下着の上から揉まれる。次いでクロッチの際をフェザータッチで上下され、下着に隠れた中心がずくりと溶けだすのを自覚する。
乾かしたての彼の髪を掻き抱き、額にキスを落とす。彼が見上げる。点いたままの部屋の照明が、眼鏡に映っている。
「⋯⋯っぁ、」
「もう濡れてる」
下着の上から触れられた箇所は、溢れた愛液で既に染みを作っていた。そのままクロッチの隙間から愛液を掬い、敏感に膨れた陰核に指が掛かる。
「ん⋯⋯っ」
この愉楽を、身体はすっかり覚えてしまった。より強い快楽へ向け、腰が勝手に動いてしまう。
与えられる刺激に身を委ねていると、胸元に埋まっていた彼の唇が、ブラジャーの端を食んだ。そのままくいっとずり下げられ、薄紅の乳頭がふるりと顔を出す。
明るい場所で見られてしまったことも、そのまま咥内で愛撫されていることも、何もかもに羞恥を煽られる。
「ん、や⋯⋯ぁ、」
反射的に反って逃げてしまう上体を、彼は力強く抱き締める。
両腿の間でつぷりとした感触。膣内を彼の指が蹂躙し始める。入口近くのザラつく窪みを指の腹で擦る、かと思えば目一杯に指を埋め込み子宮近くを刺激される。
身体の内側に与えられる快感に、身体が順応していく。気持ちのいい場所。気持ちのいい角度。気持ちのいい力加減。些細な反応を確と確認している彼は、わたしの身体に容易く適応していく。
「は、ぁ⋯⋯ん、っ」
「だいぶ解れたな、いーかんじ」
そう囁いて、そっと押し倒される。小さな絨毯の上。背中にもこもことした柔らかな毛触りを感じた直後には、服とショーツが纏めて脱がされようとしていた。
「きゃ、まっ、て⋯⋯! こんな明るいところで⋯⋯」
「なんで。だめ?」
「だめって言うか⋯⋯めちゃくちゃ恥ずかしい⋯⋯っ」
「恥ずかしがることなんてねぇよ。自覚ねぇのかもしんないけど、名前の身体、超いい身体だぜ。それに、ご希望とあらば俺も脱ぐけど」
「⋯⋯っ、そういう、ことじゃ」
ないのですけれど。と、尻すぼみに答える。
いや確かに一也くんの腹筋やら大胸筋やらを白日のもとで見たいけれど、それが下着の中となると話は別⋯⋯いや、別だろうか。どうだろう、わからない。全然別ではない気もしてくる。
そんなあられもないことを真剣に考えている隙に、服もショーツも取り払われてしまった。彼もシャツを脱ぎ、鍛え上げられた肉体が顕になっている。
しかし、悠長に見惚れてもいられない。
「きゃ、わ、やっぱりだめ⋯⋯!」
「もう遅いって、はい、観念観念」
「⋯⋯ま、って」
ぐっと開かれた内腿を、あたたかい彼の舌がねぶる。膝裏から大腿内側を伝い、脚の付け根に近付いたところでぴりりとした痛み。きつく吸い上げられている。もう感覚でわかる。これは確実に痕を付けにきている。
「白いし柔いから、ほんと綺麗に付くよな」
「そん、な⋯⋯っぁ」
「⋯⋯一生消えなきゃいいのにな」
ぼそりとした呟きが、幾多もの鬱血痕に吸い込まれていく。
⋯⋯消えないよ、一也くん。ずっと消えない。目に見えない痕が、ずっとわたしを蝕んで。そうして一也くんがいなければ生きていけなくなってしまう。一年後には卒業が待っているのに、そんなの、どうしたらいいんだろう。
そんな想いが、止めどない嬌声にかき消されていく。
そして何よりも恥ずかしい。閉じることを許されない脚の中心が、羞恥と悦楽でぐずぐずに溶けている。
堪らなくなり、際どい位置に吸い付く彼の髪へと手を伸ばす。──その次の瞬間だった。
「──ッ?! あ、や、だめ⋯⋯ひぁっ」
「だめ? 嫌か?」
「ん、違⋯⋯そんなところ⋯⋯っ」
「きもちくねぇか?」
「ひ⋯⋯っぅ、ぁ⋯⋯」
小さな陰核に口づけ。間髪入れずに舌でやわやわと押され、息つく間もなく硬く尖らせた舌尖で捏ねられる。甘く吸われ、離れたら熱く擽ったい吐息がかかる。もう頭の中はぐちゃぐちゃだった。
何も考えられなくなっていく。
そんなところ。一也くんの口で。ごめんなさい。恥ずかしい。でも、それなのに。信じられないくらい気持ちいい。
「──ぁっ、やだ、中まで⋯⋯っ」
愛おしい口で愛撫したまま、解れた膣内に再度指が入ってくる。きっと、二本。二本の圧迫感だ。それが弱いところだけを攻め立てる。
「ん、ぁあっ、だめ、もうきちゃう」
「いーよ。可愛い名前見せて」
「ん、ん⋯⋯っぁ、あん」
すぐそこに、迫っている。絶頂感。一也くんとでなければ手の届かぬその至福に、わたしは縋るように手を伸ばす。せり上がる。弾けそうだ。このまま、もう、すぐそこに。
「──ッ、──っ!!」
昇り詰めるその寸前、辛うじて彼が脱いだばかりのシャツを放ってくれた。おかげで口元を押さえることに成功し、大きな声は出ずに済む。
全身が包まれている。快楽の波と、彼の体温。身体のちいさな痙攣が収まらない。言うことを聞かない。意識がどこにあるのかわからない。頭の中にいつものようにいそうな気もするし、少し離れたところから情事を見ているような気にもなる。
「名前。俺のこと見て」
キスと一緒に囁きが降る。
「ふ⋯⋯んぅ」
「そう。ちゃんと、ここにいろ」
絨毯の上で力の入らぬ四肢を投げ出すわたしに覆い被さり、彼はわたしの瞳を覗き込む。時折、繋ぎ止めるように軽いキス。
そうしてわたしの呼吸が少し整った頃、彼は上体を起こした。避妊具に手が伸びるところを見て、まだ少し上ずった息遣いで告げる。
「ま、って、一也くん⋯⋯わたしも、したい」
「ん?」
「わたしも⋯⋯今度は、一也くんの番。⋯⋯だめ?」