流れる星の落つところ



 キングサイズのベッドで悟の胸板に擦り寄りながら、極光の去った夜空を名前はぼんやりと眺めていた。

 日本とは違う空だ。
 情事の余韻が顕著に残る意識で、激動の今日を思い返す。


「ねえ先輩」
「悟」
「……ねえ悟」


 なあに、と瞼に満足そうなキス。
 擽ったさに肩を竦めてから、名前は視線だけを悟に移した。


「五条悟がどこぞの馬の骨ともわからない女と一緒になるって、大丈夫? 陰謀渦巻く呪術界に激震が走るどころじゃないよ。わたしの元に世界中のアサシン集ったりしない?」
「ああ、うん、へーきへーき」
「わあ軽い」
「だって外野が何を言ったって、結局僕が最強なんだよ。この意味わかる?」
「あは、わかんない」


 わかっちゃいけないやつでしょ、それ、と笑ってみせた名前の髪を梳く。名前は束の間、心地よさそうに目を閉じた。


「そういえばさ、先輩の「悟」
「……悟のご両親へのご挨拶ってどうしたら……何持っていけばいいの? 庶民出だから超不安」
「なに、そんな心配してんの? んなのムーミ○でも渡しときゃいーよ。喜ぶよ。たぶん」
「今ちっちゃくたぶんって聞こえた」
「それよかさ、新婚旅行のこととか考えよーよ。まぁきっと当てつけで途中に任務とか挟められるんだろうけど」
「待って、名家の扱いってそんなんでいいの? それ合ってる?」


 悟は名前の頭を撫でながら愉快そうに肩を揺らした。


「当事者にはこんなもんだよ。ちなみに名前のご両親のお墓には事前に報告しといたから」
「え」
「でも今度一緒に行こうね」
「それは、うん、行く」
「婚姻届も、あとは名前が自分の名前書くだけ」
「え?」
「あと部屋の用意もしといたよ。名前と僕が暮らす部屋」
「え??」
「今ごろオマエの荷物も全部移動されてんじゃないかなぁ」
「え???」


 名前の知らぬところでどんどん進められていたらしき事由に、そろそろついていけない。名前はややしばらく口を噤んだ。

 ひとつひとつを理解してから、ようやくぽつりと絞り出す。


「それって……不法侵入じゃない? まあいつものことだけど」


 上目遣いに見上げた名前を、愛おしそうに悟が見つめる。


 もう、戻ることはできない。
 幼かったあの日々にも。一方的で歪な愛をひたすら願い続けた日々にも。

 愛が通う幸福と、不思議と共存する切なさを。知ってしまった。もう、戻ることなど。離れることなど。

 二度とできない。


「さて、名前」
「うん?」
「僕たちは今、最高に幸せなわけだ」
「うん」
「つまり、」
「つまり?」
「もっかいしよ」
「はい?」


 名前の喉から半分裏返ったような頓狂な声が出た。あんなに抱き潰しておいて。もう一回? 色々と底なしにも程がある。知っていたけど。

 
「ね、いいでしょ」
「語尾のハートが、うわ、すごい飛んでくる……わ、きゃ、んんっ」
「ハハッ、名前、その拗ねた顔可愛いよ」


 縫いとめられた手に、ダイヤモンドが光る。

 悟がいれば。
 名前がいれば。

 生きていける。
 
 たとえこの世界の先が、どんな地獄だったとしても。













 【流れる星の落つところ】終

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