流れる星の落つところ


「──…よくできました」


 ぼとぼとと涙を落とす名前が窓に反射する。美しく頬を滑り落ちるひと粒ひと粒までが見える。溢れる嗚咽さえ愛おしくて、悟は名前の顔を振り向かせた。


「ハハ、顔ぐっちゃぐちゃ」
「っ、先輩の馬鹿、自分だけそんな余裕そうな顔して」
「んなわけないだろ。これが余裕に見えんの?」


 カチャリとちいさな音とともにサングラスが外れ、碧の瞳が名前を映す。「……え、めちゃくちゃ余裕に見える」と憎たらしく答える唇を、悟の唇が塞いだ。


 ──初めてだった。

 これほど深く、求めるような口づけは。

 一度目は出張に向かう前。
 二度目は額に。
 三度目は眠れるお姫様に。

 軽く唇が触れた。


「ふ、……ん、んん」


 容赦なく口内を愛される。
 はじめて触れる悟の舌は、驚くほどやわらかく、そして熱かった。

 絡む舌はそのままに、悟の手が服の内に滑り込む。胸を覆う下着の上からぴたりと突起を探り当てられ、そこを爪先がゆるく引っ掻く。

 その刺激に身体が反応してしまって、名前は唇を離し、支えを求めるように窓に両手をついた。

 追うように首筋に落ちるキス。駆け上がる快楽に背が反る。それに伴い強調されたヒップラインを、悟の手のひらがやわやわと覆った。そのまま器用に下着ごと下ろされる。

 性急な行為に、名前の身体を心持ち緊張が伝う。それを気取ったのか、項に口づけを繰り返しながら悟が呟く。


「ごめん名前、いまマジで無理、待てない」
「──っ、」


 知らぬ男の声だった。
 知らぬ男の、乱れた吐息だった。

 熱ぼったい碧眼が窓越しに名前を捉えて離さない。

 
「どんだけ、焦がれたと思う」
「や、っ」
「僕がどんだけ、オマエのこと」
「わたし、こそ……っん」


 この短時間ですでに溢れるほど潤っている秘部に、悟の硬い欲が擦れる。
 腹部に腕が回った。腰を持ち上げるようにされ、蜜口が悟を迎え入れやすいように顕になる。

 
「先輩、待っ……ぁ、んん、!」


 咄嗟に出てしまった制止も意味をなさず、淫らな音とともに陰茎が名前のなかに一息に埋まった。


「ぁ……っ、──っ」
「は、……濡れすぎ」


 欲情をたっぷり孕んだ掠れた声に、ぞくぞくと身体が痺れる。止められない。堕ちる。堕ちていく。

 激しい抽挿に嬌声さえ出せず、どうにか呼吸だけを不規則に繰り返す。

 視界に火花が散る、そんな錯覚。ちかちかと散らばる光を無意識に追って、窓の中の自身の姿が目に入る。
 自分には不釣り合いなほど麗美に光るダイヤモンド。肌蹴た胸元。半端にこぼれる双丘。片手で腰を支え、もう片手で窓に肘をつき名前に覆い被さる悟。

 その酷く恥辱的な光景に、刹那、未知の感覚が全身を支配する。悟がぺろ、と自身の唇をなぞった。


「名前」
 ぐぐ、と最も深いところを刺激しながら、耳元で悟が囁く。

「名前、呼んで」
 語尾を上げるその言い方は、名前の鼓膜を甘く犯した。

らがいた、あの頃みたく」


 ──あの頃。

 悟がいて、硝子がいて、傑がいた、あの日々。思い出すだけで胸がちりりと痛む。随分と大人になってしまった。随分と、遠回りをしてしまった。

 手を伸ばせばまだ、掴めるだろうか。


「っん……っさと、る」
「……名前」
「──悟、」


 弱い箇所を一際ひときわ執拗に陰茎が突く。まったくもって容赦がない。明らかに名前を絶頂へ導くための行いだった。

 最たる快楽に堕ちる直前。
 耳朶に悟の唇が触れる。



「名前、──…愛してる」



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