地球との恋の紡ぎかた
どう表現したらいいんだろう。
ぽう、ぽう。
ぽわ、ぽわ。
そんな音が聞こえそうな優しい光が、彼女を包んでいる。不思議な感覚だ。目を擦っても、何度瞬きをしても変わらない。
(……俺、疲れてる?)
何がどうなってるのか、ちっとも分からない。でもこれが、彼女に見えている世界なのだとしたら。
なんて、なんて、──美しい。
まあ、見守っていればひとまず安心かな、なんて言い訳をして。しばらく彼女を、見つめていた。
そうしてるうちに、不意に視線を巡らせた彼女が俺に気付く。
「あれっ? 徹だ。起きたの? よくここってわかったね」
あまりにあっけらかんとしていて、ずっこけそうになった。つい大声が出る。
「起きたの? じゃない! こんな時間に女の子ひとりで、ダメでしょ!」
「ありゃ、パパ」
「パパ?!」
「んあ、ごめん。ごめんなさい。もうすぐ夜も明けるし、なんだか無性に来たくなっちゃったの」
「んもう、起こしてくれれば一緒に来たのに」
むしろ起こしてほしかった。寂しい。アイツには餌あげて、ブランケットまで掛けて、なのに俺には──
「あのね、十回くらいほっぺにちゅーしたんだよ? でも全然起きないんだもん」
「えッ?!」
そんな、そんな、そんなイベントが発生してたなんて! なんたる不覚! さっきから悔しいことばっか!
「唇にしてくれないのが悪いもんね!」
「あっ、逆ギレ! そういうのを逆ギレっていいます!」
ぴしっ! と向けられた人差し指を握る。賑やかに言い合ってる場合じゃなかった。ここはビシッ! と言わないと。
「あのね、いい?」
海外の夜が怖いのなんて知ってるでしょ、いや日本でもだけど。もうダメだかんね。名前さんほんとに可愛いんだから、気を付けるんだよ。
「笑ってるけど、ほんとに分かった?」
「わかったよ、パパ」
「またそうやって!」
「あははっ」
ぶつくさ零してから、楽しそうにしている彼女の肩を抱く。彼女がしていたように教会に視線を向け、問うてみた。
「ねえ、名前さんはさ、この場所のどんなとこが好きなの?」
「……ひずみをね、見てたいの」
そう、彼女はつぶやく。
美しく連なった景色だけでなく。美しく織られた人情だけでなく。世界のひずみから、目を逸らしたくない。そのなかに光ったものを、描いていたい。
「ここはね、その気持ちを突きつけてくれるんだ」
──せかいのひずみ。
もう一度、教会に目を遣る。
やっぱり彼女の言葉の、全ては理解できない。
けど、それでいい。
「もう冬だね、名前さん」
「……冬だよ、徹」
煌めく街角。
プレセピオ。
こんな綺麗な教会の前で、たったふたり。世界中に俺たちだけみたいな。微かに白み始めた空の下。寄りそって、あっためあって。そうやってどこまでも。
「わたしね、きっと、人間に生まれかわれてるうちは絵を描くの」
「うん」
「それでね、また徹に恋するんだ」
徹となら、何度だって恋をして、世界のどこにいたって。
「……俺たちの恋、はさ」
地球とおんなじ寿命なんだね。
「ふふっ」
見上げてくる双眸を見つめ返して、誓う。
「名前さんのそばに、ずっと、一緒に」
これは願い。祈りだ。
もう二度と、彼女の瞳から俺の姿がなくなりませんように。
ずっと。ずっと。
いつかふたりの命が終わる、その時まで。
どうか、最期のその日まで。
世界が終わる、その日まで。
──俺を、その目に映してて。
地球との恋の紡ぎかた ✽ 爆発する、その日まで 終