さよならの指先

*

 ぐっと押しこまれた膝に、ついでとばかりに秘部を刺激される。キスはしたままだ。彼の口内に、くぐもった嬌声が吸い込まれる。太腿をくすぐっていた指先が、つつとクロッチの縁をなぞる。

 触れそうで、でも触れない。

 何度も往復するその感触に、堪らず彼の頭をかき抱く。男の子にしては柔らかい、ピンクベージュの髪触りが心地よい。そのまま後頭部を撫でていると、彼は唇を離し、顔を上げた。


「名前はさ、髪、撫でんのも撫でられんのも好きな」
「うん、貴大の髪、柔くってきもちい」
「……ここは?」
「ここ、って、……ひゃあっ!」


 クロッチがずらされて、濡れた秘部に直接指が触れる。その濡れ具合に、彼は満足げな笑みを見せた。

 愛液を纏わせながら閉じた部分を上下していた指が、すっと上にずれ、小さく膨れた花芽に触れる。


「っあ、んん!」


 優しく表面を撫でるだけだったり。時に強く押され、ころがされたり。執拗ともいえるほど与えられる甘美な刺激に、絶頂が駆けあがってくる。


「っだめ、これ以上してもらったら、」
「俺はきもちくなってもらいてーの」
「だ、って──…っ!」


 乳首を甘噛されたのとほぼ同時。
 びりびりと、快感が突き抜ける。


「ふ、……っあ、あ」
 

 彼に耳たぶを食まれる。未だ燻る余韻に身体を震わせながら、おおきな背中にしがみつく。

 目を閉じ、彼の身体を抱きしめて息を整えていると、ぐ、と一瞬腰が浮く。その僅かな時間にショーツが下げられた。

 ──カチャ、ベルトの音がする。

 散々なかを解されて、どこまでがわたしで、どこからが彼の指なのか、もうわからなくなった頃。喘ぎ声すら出せず、深く、しかし切れ切れな吐息しか吐けなくなった頃だ。

 彼はやっと指を抜いてくれた。

 半ば放心したまま、目線だけをのろのろ動かす。屹立に避妊具が被せられているところだった。ぼーっと見ていると、「そんな見るとこじゃねえから」と苦笑される。でもそれにすら、軽口を返せない。


「……名前?」
「………、」
「……こっからが本番だけど、平気か?」

 
 ぐずぐずに溶けた頭の中に、彼の労わる声がする。きもちいだけだから大丈夫なの、と、頷いてみせたけれど。果たして伝わっただろうか。

 目尻に柔らかい感触がする。それが唇だと気づいたときには、眦を伝い落ちる涙が舐めとられていた。


「あ……れ?」

(泣い、てる……?)

「泣いていーよ。我慢しなくていい」


 ぎし、ベッドが軋む。僅かに身体が浮いて、背中の下に彼の腕が入りこんだ。

 やさしく抱きしめられて、開かれたシャツから露出していた胸が、彼のシャツに擦れる。その刺激にすら痛い程の快感が伴う。

 もう、感情の制御ができない。
  

「……貴大」
「うん」
「……っ、寂しい、の」
「……うん」


 頬に彼の頬が重なる。ふにふにとやわらかい。そのやわらかさが、どうにも愛おしくて。わたしは彼の腕の中で、誤魔化しきれない涙を流した。



 くぷ、と音を立てて、熱い陰茎が花弁を割る。ゆっくりと、時間をかけて。奥へと押し進みながら、その途中にある弱い部分をいじわるに刺激される。


「あ、……ぁっ」
「っ名前スゲ、今日、超締まる」


 互いの存在を求めあうような律動に揺さぶられる。喉の奥からかろうじて漏れる声は、もう掠れてしまっている。

 いよいよ彼の首に回していた腕に力が入らなくなって、ぽすんとベッドに落ちる。すると彼は上体を起こし、わたしの腰を軽く持ち上げた。


「──…っ!」

 
 子宮口に彼の先端があたる。
 そのまま動かず、押しあてる強さと角度だけが変えられる。ぐりぐりと最奥を抉られて、自分でもわかるほどに膣壁が彼を締め付ける。
 

「……っ締め、すぎ」
「……ぁっ、なか、たかひろで、いっぱい」


 膣内で小刻みに動く彼を感じながら、ふやけた思考が朦朧と巡る。それはなんとも情けないものだった。

 大学生になっても、貴大はわたしを見ていてくれるだろうか。わたしは彼の隣で、彼に必要な存在であれるのだろうか。

 大きな家にひとり残る母は、どんな日々を送るのだろう。

『もう朝起こさなくても、お弁当も作らなくていいのね! 楽ちんだわ!』

 と、笑ってくれるだろうか。


「……名前」
「たか、っひろ」


 再度始まった律動は、今度は互いを昂ぶらせるものだった。手を重ね、唇を重ね、そうして速まる抽挿。荒くなる息。

 彼が最たる快楽に息を詰めるその瞬間を、本日いちばんの深いキスで塞いだ。しっかりと、しっかりと。

 ──今日が零れてしまわないように。





 はだけた胸元のボタンをかけてくれている彼が、何事でもないかのようにさらりと告げる。


「夏休みになったらさ」
「うん」
「帰ってきて、名前ママのご飯一緒に食おうぜ」
「……っ、うん」


 あと数日で、わたしと貴大はこの街を出る。

 でも、また帰って来ればいい。大切なものは全部、抱えたから。両腕から溢れてしまったものも、貴大が拾ってくれたから。

 これからもこうして、貴大と。別れの先にこそ待っている日々を、ともに過ごせたら。

 そう願って彼を見る。
 名残惜しそうに首元のリボンをいじっている彼の指先に自分の指先を重ねると、「お、その気になった?」と楽しげな声がした。


「制服エッチ、悪くないべ?」
「……その時は貴大も、制服着てくれる?」
「お前もなかなかだよな」















 さよならの指先 ✽ さよならの此先 終

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