さよならの指先


 少し瞼を伏せて、彼女が微笑む。何かを諦めたような笑み。自分の中で落とし所を見つけたような笑みだ。


(……いや、違えかな)

 まだ見つけようとしてる途中、か?


 難儀なものだと思う。
 名前が、俺がいなくなったあともこの街は、ちっとも変わらないというのに。去る俺たちのほうが、こんなにも名残惜しんでいる。

 本当に、難儀な生き物だ。


「疲れちゃったね」
「そりゃ名前が運動不足過ぎ」
「もう、違くって」
「……ん、分かってる」


 頬を撫で、そのままこめかみから髪に手を差しこむと、彼女は心地よさそうに目を閉じた。

 校内を歩きまわって身体が疲れたのではない。身の内が疲れたのだ。あまりにも多くの思い出に揉まれ、翻弄され、摩耗した。


「名前の制服もこれで最後かー、好きだったのに」
「ほんと? わたしも貴大の制服すきだった! んん、でも、ユニフォームも格好よかったなあ」


 へへ、と目を閉じたままはにかんでいる。
 名前は、そうだな。ジャージよりも制服が可愛かったな。


「大学生なってもたまに着てな」
「え、コスプレ! やだ!」
「そんで、こやってエッチしよ」
「……え?」


 目を開け、きょとんと見上げてくる彼女。その頭を膝から下ろし、覆いかぶさりながら首元のリボンを指で掬う。

 いや、やっぱリボンはつけたままにしよう。そう思い、セーターだけをたくしあげる。袖口から少しだけ出ていた指先が、慌てたように俺の前腕を抑える。


「わ、わ、いきなり」
「いっつも大体いきなしだべよ」
「そ、だけど」


 捲くり上げたセーターで彼女の腕を頭上に纏め、ワイシャツの胸元だけボタンをはずす。

 開いたシャツから覗くブラジャー。溢れた乳房の上側に、唇を落とす。息を呑んで揺れた身体を抱きしめて、ブラジャーの上からそっと指を沈ませる。


「っ、貴大」
「おう」


 ──言葉が、足りないのだ。

 互いに感じているのであろうこの気持ちを。寂しくて、でも仕方がなくて。それでも隙間を埋めてほしいと、埋めてあげたいと望む、この気持ちを。

 上手く言葉にできない。

 だから、抱きたい。

 性欲を満たすためではなく。若く未熟で、しかし恐らくこの時のものでしかない行き場のない気持ちを、互いの存在を以ってして受け止めるために。

 この方法しか、知らないのだ。


「……今日は、めいっぱい気持ちよくしちゃる」


 普段は散々焦らして、限界まで焦らして。潤んだ瞳で訴える名前の顔が、望んだ快楽に蕩けるのを見るのが好きだったけど。

 今日はたっぷり可愛がりたい。

 ブラジャーを下にずらし、焦らしもせずに右の乳首に吸いつく。舌で先端を潰しながら、左の乳首を軽く摘む。


「っんん!」


 びくりと動いた両足の間に膝を入れ、閉じられないようにする。そのまましばらく胸を愛撫していると、彼女はもどかしそうに身を捩った。


「は、あ……貴大、これ取って、ほしい」
「はいよ」


 頭上で絡まっていたセーターを腕から抜いてやると、ねだるように彼女の腕が背中に回った。

 誘われるままに唇を重ねる。

 ついばむようなキスをしながら、脇腹、太腿を滑らせて、スカートの中に手を入れる。反射的に閉じようとした足の間に、さらに深く膝を入れた。

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