紅葉畑の紅梟
*
「こーたろー」
出会ったあの日と同じ。空気に溶けゆく淡い声で、のんびりと俺を呼ぶ。
しかし俺を見る彼女の目は、涙を浮かべたその目の縁は、紅葉のように紅く染まっていて。冬の気配が連れてきた寒さに、頬も鼻先も紅く染まっている。
「んー?」
つられて俺ものんびりと返事をして、導かれるまま。濡れた頬にキスをする。
少し俯いて、微かに首を傾げて。
瞼を閉じた彼女が、そっと問う。
「ほら、聞こえる?」
──世界が呼吸する、音がする。
出会ったあの日に、彼女が大気に放った言葉だ。その意味を問うことを、ずっと躊躇っていた。黎明の言葉。こころにひっかかった言葉。
その意味が、分かった気がした。
つむじ風吹き抜ける公園。
ざあと紅葉が舞い上がる。
「ね、ね、みてー! ふかふか紅葉!」
俺の腕を抜けて、駆けまわる紅葉絨毯。彼女のシャッター音が心地よい。
注ぐ木漏れ日の下。
寝転がり、空に向ってカメラを構える彼女の横。並んで、俺も見上げてみる。
「お、見て名前ちゃん! 紅葉落っこってきた!」
「撮るから取って! キャッチ! がんば!」
「とるからとる……? え、なにどういうこ」
「あー! ほらよそ見してるから!」
額に降ってきた紅葉。それを俺ごと写した彼女の手首を引いて、そのまま胸に抱きしめる。
もふもふのマフラーにくるまれて、紅葉色に染めた頬で。胸に擡げるあたたかい彼女。
「光太郎、ありがと」
「俺なんもしてねえもん」
「もー、だいすき!」
紅葉畑の紅梟 + 駈けずる兎の楓蜜
終