キヲク、


「なっ、もう、今日の京治くんは心臓に悪い! 寿命が!」
「うん、ごめん」


 さらり、いつもの調子で。つい今し方の攻防などなかったとでも言いたげな顔で、彼はぶらんこエリアを囲うポールに腰をかけた。


「先輩たちは?」
「丁重にお帰りいただいた」
「あははっ、丁重?」


 そう、丁重、と京治くんが笑う。
 その笑顔は、非常に楽しそうだ。


「でもいつか、わたしも話してみたい、な」


 彼の仲間と。あまり多くを語らぬ彼が、語ってくれる仲間と。言葉を交えてみたい。

 少しだけでいい。

 たった数年、数ヶ月、数日だけでも繋がったそれを、ひとは縁とでも呼ぶのだろう。

 
「……大丈夫? 騒がしい人たちだよ」
「ふふ、じゃあちょっとだけ、で」


 答えながら、わたしはやっと、彼の真意を知る。あれだけ頑なに拒んでいたのは、わたしを案じてくれていたからだったのだ。

 嬉しさに任せ、ぽん、ぶらんこから飛び降りる。彼のもとに近づく。

 そろそろ行こっか、といいかけた矢先。
 おもむろに伸びてきた手に腕を掴まれ、ぽふんと彼の胸に仕舞われた。


「わ、っと、ここではだめって」
「……名前、どうした?」


 耳元で囁かれた、思わぬ不意打ちに。抗議も忘れて彼を見上げる。「……なにが?」と出かかって、やはり意味がないと悟る。

 京治くんには、わかってしまうのだ。
 こういうことがあると、決まって彼は、「はんぶんこだから」と言う。

 そして結局、素直に吐露してしまうのだ。


「……ちょっとだけ、寂しくなっちゃって」
「うん」

 
 後頭部を優しく撫でてくれる。その心地よさに目を閉じ、彼の首元に甘えてみる。

 京治くんの腕の中は、ひどく安心する。
 あまり感情を表に出さない彼は、些細な動きにそれを乗せてくれるのだ。

 今だって、彼の肩に添えた指を、小指を。
 抱きしめながらそっと握ってくれている。


「どこ寂しくなった?」


 問われて、痛んだ胸を想う。
 限りあるひとの記憶を想う。


 ねえ、京治くん。
 わたしたちは、どこまで。誰の記憶までで、一緒に生きていられるのかな。

 この糸は、いつまで繋がってるのかな。


 すっかり沈んだ太陽。浮かぶ月。
 夜風がわたしたちを越えていく。


 彼の腕の中で、ぎゅうと目を瞑る。直後、「大丈夫」と、彼の吐息が耳朶を撫でた。


「俺と、こいつはずっと憶えてる」


 こいつ?
 
 顔を上げたわたしを見つめ、それから彼は視線を落とす。これまでも、これからも。変わらずにあり続けるものを、その目に映す。


 悠久、果てなく。

 蓄積される記憶。


 くい、と顎が持ち上げられる。覗きあった瞳の奥にも、悠久の慈がまみえている。

 秋の気配の漂う公園。
 月色に光る巻雲の下。

 唇が、そっと重なった。















 キヲク、 + チキュウノ

 終

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