キヲク、
*
(……?)
京治くんが不意に、背後に訝しげな視線を向けるものだから。わたしもそれを追いかける。恐らく彼が入ってきた側の入り口。の、脇の街灯。の、支柱のあたり。
(え、……っと?)
暮れゆく時刻。はっきりとは見えないけれど、なんとなく人型っぽいシルエットが見える。うん、間違いない。五つ、六つほど折り重なった人影だ。
隠れているつもりなのか、なんなのか。
いや、これで隠れているつもりなら、なんとまあ自分たちの体格をまったく把握していない、ということになるのだけれど。
揃いも揃って、皆一様に大柄なのだ。
全員、見事に支柱からはみ出ている。
あれ何かな? と問おうとして、しかしそこに、彼の姿は既になかった。
「京治くん?」
思わず声を出すと、いつの間にか人型に向かっていた彼から、「名前は絶対そこにいて」と、何かを噛み潰したような声が返ってきた。
ズンズン! ズンズンズンズン!
足音すら聞こえるようだ。それくらい強く地面を踏みしめながら、彼は見たことのない顔で、人型に近づいていく。
わけもわからず、とりあえず大人しく成り行きを見守っていると、ぎゃいぎゃいと賑やかな声が聞こえてきた。
「ちょっと先輩たち何してんスかマジで」
「ちょ、誤解! 誤解だって! たまたま通ったの!」
「へえ」
「そうだぞ、断じて赤葦のあとをつけてきたとか、そんなんじゃない!」
「へえ、そうですか」
見つめる彼の背中。が、只ならぬなにかを放っている。初めて見るそれが可笑しくて、つい腰を浮かせ、かけた瞬間だった。
なにをどう察知したのか振り返った京治くんが、鋭く目線で制してくる。
名前は、そこ、動かない!
はい、とこくり頷いて。
手持無沙汰にぶらんこを揺らしながら、繰り広げられる攻防をのんびり見守る。
「だってお前、夏休みの勉強会の時も、なんも教えてくれなかったじゃんよ! 気になるの!」
「木兎さんたちがからかうのが悪いんです。またサソリ固めしますよ」
「う、げ、それは勘弁! いやマジで!」
(……サソリ固め?)
一体全体、夏休み中に何があったというのだろう。サソリ固めってどんなだったかな、と考える一方で、わたしは別の単語に反応していた。
(……ボクト、さん)
その名を反芻してみる。
彼がことあるごとに、口にする名だ。
木兎、と書くのだと教えてもらった。
(京治くんの、大切なひと)
ぶらんこに合わせ、見上げた空に馳せてみる。
この世界を繋ぎ、繋ぎゆく糸に想いを馳せ、そして未来と過去を想う。
みんな、こうして繋がって。
そうして【生】を紡いできた。
お母さんと、お父さんも。おばあちゃんと、おじいちゃんも。会ったことはないけれど、ひいおばあちゃんと、ひいおじいちゃんも。
ずっとずっとその前の、遠く古の人々も。
みんな、こうして紡いできた。
「……京治くん」
ひとり、揺られて呟いてみる。
ねえ、京治くん。
わたしたちは、いつまで、どの世代まで。誰の記憶まで、残っていられるのかな。
一番星が、かすかに見える。
いつかのように小指を翳す。
「……京治、くん」
「なに?」
「っ?!」
ひとり言、のつもりだった。
襲い来た寂寞に抗うための。
予想外の返事に驚き、身体を揺らす。掴むチェーンががちゃんと鳴った。