08


紗良は校舎裏で体育座りをして膝に顔をうずめていた。
後を追ってきたカルマが紗良の正面にしゃがむ。

「紗良」

「……」

カルマが声をかけるが、紗良は何も答えず顔をあげようとしない。
カルマは紗良の頭を優しく撫でる。

「……すごく、怖かった。カルマ君が、死んじゃったかもって、思って……」

紗良は、ひっく、ひっくとすすり上げるように泣きがらそう言った。

「……ごめん、心配かけたね」

「もう二度と、あんな無茶しないで……」

「分かった、絶対しないよ。約束する」

「うん……」

「だからさ。ほら、顔上げて?」

紗良がゆっくりと顔を上げると、カルマが指で涙を拭ってくれた。

「あーあ。俺、紗良のこと泣かせてばっかだね」

「……?」

今まで泣かされたことなんてあったっけ、と紗良は思い返してみて、そういえばE組行きが決まった時に泣いてしまったことを思い出した。

(カルマ君は、あの日からずっと……)

紗良はカルマに手を引かれて立ち上がる。

「じゃあ戻ろっか。殺せんせーと渚君も心配してるだろうし」

そう言って歩き出すカルマのカーディガンの裾を紗良が引っ張る。

「カルマ君……」

「どうしたの?」

「渚君から、聞いたの。私がE組に落ちたこと、ずっと気にしてるって」

「あー……。言うなって言ったのに」

カルマは少しバツの悪そうな表情を浮かべる。

「カルマ君が責任を感じる事は何もないよ。E組行きを取り消してもらうことだって出来たけど……それをしなかったのは、私だから」

「……けど、きっかけになったのは、俺のせいでしょ」

「それでも私ね、E組に来れて良かったなって思ってる。本校舎にいたときよりも、毎日とても楽しいの。それに、カルマ君が居てくれたら、これからもっと楽しくなると思う」

そう言って紗良はカルマににっこりと微笑んだ。
カルマは一瞬呆気にとられた様子だったが、その後照れたようにふいと視線を逸らす。

「……あーもう、ずるいな紗良は」

そう言うとカルマは紗良の頭をグシャグシャと乱暴に撫でる。

「わ、ちょっと……!」

「あは、髪ぼさぼさ〜」

「もうっ!」

紗良は乱された髪を整えながら、カルマをじとりと睨む。

「……ありがとね、紗良」

思いがけず返ってきたお礼の言葉に、紗良は少し目を丸くする。
カルマの表情はどこかすっきりとしていて、紗良はそのことがとても嬉しくて、思わず頬を緩めた。





「紗良、渚君。帰り飯食ってこーよ」

そう言うカルマの手には、茶色のがま口財布が握られていた。

「ちょッ!それ先生の財布!? か、返しなさい!!」

カルマは「いいよー」と言ってぽいっと殺せんせーに財布を投げ渡した。

「な、中身抜かれてますけど!?」

「はした金だったから、募金しちゃった」

そういってイタズラっぽく笑うカルマは、もうすっかりいつもの調子だ。

「にゅやーッ! この、不良偽善者ー!!」

カルマと殺せんせーのやり取りを見て、紗良と渚は顔を見合わせてクスリと笑い合ったのだった。



カルマの時間 end

2015.09.11

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