06
「こっちこっち」
数学を教えてあげると言われ、紗良がカルマに連れて来られたのは中庭だった。
紗良は勉強場所として図書室を提案したが、カルマに「みんなが必死に勉強してて息が詰まる」と言われ却下され、ここに連れて来られた。
この中庭は、カルマが授業をサボる時によく来るお気に入りの場所らしい。
数学の勉強をするのに適した場所とは思えないが、春の暖かい日差しと柔らかな風がなんとも心地よかった。
中庭にはベンチが置いてあり、そこに二人並んで腰掛けた。
「で、紗良ちゃん。どこが分かんないの?」
「えっと、ここなんだけど……」
机がないので膝の上に本を広げ、分からない問題を指さした。
カルマが本を覗き込むと体の距離が近くなって紗良は少しドキドキしたが、目の前の数学の問題に意識を集中させた。
「んーこれは……ここをx、ここをyと置いて−−」
そう言って、カルマは問題をみるなりすらすら解説を始めた。
紗良の反応を見て、理解できていなさそうなところは丁寧に説明をしてくれる。
カルマは素行不良な割に成績はかなり優秀だという噂は正直半信半疑だっが、どうやら本当に頭が良いようだ。
「……っていう訳。どう? 分かった?」
「うん、すごく分かりやすかった……!」
お世辞ではなく、カルマの説明は本当に分かりやすかった。
数学の先生より教えるの美味いんじゃないかというぐらいだ。
「よかった。じゃあ次の問題もこのやり方で出来るから、解いてみて」
そう言われ、紗良は次の問題を解き始める。
(ほんとだ。さっきの解き方で出来る)
今までずっと考えても分からなかったのが嘘のように、難なく解くことが出来た。
「……解けた! 解けたよ赤羽君!!」
紗良は隣に座っているカルマの方を振り向き、笑顔でそう言った。
カルマはそんな紗良を見てクスっと笑い、
「はい、よく出来ました」
と言って、小さい子供をあやすように紗良の頭をポンポンと撫でた。
みるみる顔が赤くなっていく紗良。
「ば、馬鹿にしてる……?」
「うん、してる」
カルマはニヤリと笑う。
「うぅ……」
「あはは。冗談だよ」
そう言ってようやく紗良の頭の上から手を下ろす。
「あんまり嬉しそうに解けたーなんて言うもんだから、純粋に褒めてあげたくなっただけ」
「……ありがとう」
「どういたしまして」
そんな風に話しているうちに、キーンコーンカーンコーン、と予鈴が鳴った。
「じゃあ、そろそろ戻ろっか」
そう言ってカルマは立ち上がった。
「……うん」
なんとなく名残惜しさを感じながら、紗良も続いて立ち上がる。
そして2人は中庭を後にして、それぞれの教室へと帰っていった。
はじまりの時間 end
2015.04.24
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