08


紗良と学秀は理事長室を後にした。

「紗良、どうして……」

廊下で立ち止まると、学秀はそう呟いた。

「本当にごめんね、学秀君。せっかくここまでしてくれたのに」

学秀の気持ちを裏切ってしまった罪悪感で、紗良の胸が痛む。

「そんなに赤羽の事が大事なのか」

「そんなんじゃないよ。ただ……」

紗良は少し考えて、こう言った。

「カルマ君にちょっと、憧れてたのかも」

「憧れ……?」

学秀は不思議そうな顔をして首を傾ける。

「カルマ君は、自分の意志をしっかり持ってて、迷いなく行動出来る人だから」

カルマはいつだって自分の気持ちに正直で、正しいと思う事に対して迷いなく行動する。そんな彼の事を紗良は尊敬していた。
きっと今までの紗良なら、その場の雰囲気に流されてA組に謝罪することを選んだだろう。
だけど今では、自分がどうしたいのかという事をきちんと考えるようになった。

「自分の意志で決めたことだから、後悔はしてないよ」

「……」

学秀は少し切なげな表情を浮かべたままで、何も答えない。

「……学秀君は、私がE組に行っても、友達でいてくれる?」

不安の色を滲ませた声で、紗良は学秀に問いかける。
学秀は紗良の目を真っ直ぐに見つめてこう言った。

「当たり前じゃないか。僕はいつだって君の味方だ。それだけは忘れないで欲しい」

その言葉を聞いて、紗良はゆっくりと微笑んだ。

「ありがとう。じゃあ私、E組に行っても頑張れるよ」

短い春休みが終われば、いよいよ三年生。
E組での非日常で特別な1年が、もうすぐ始まる……。



落ちる時間 2時間目 end

2015.08.04

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