冬の星空


俺がこの本丸に顕現してから1ヶ月が過ぎたある日のこと。

夕餉が終わり自室に戻る途中で、ふと外に視線を向けると、庭を歩いている雇い主の姿を見つけた。
こんな時間に、何をしているんだろう。
不思議に思って、少し迷った末に後を追った。

彼女は庭にある花壇の縁石に腰掛けて、静かに夜空を見上げていた。
近づくと、足音に気づいた雇い主が振り返り、俺の姿を見つけて少し驚いたように何度か瞬きをした。


「八丁くん……?」

「えっーと、何してるのっ?」

「……星を、見てるの」


そう言って、彼女は柔らかく微笑んだ。


「冬はね、一年で一番星空がきれいな季節なんだ」


そう言いながら、再び夜空に視線を向ける。
つられて、俺も同じように空を見上げた。

他の季節の夜空はまだ見たこと無いけど、確かに今の時期は空気が澄んでいるからか、星がよく見える。
雇い主は、再び俺の方に視線を戻すと、こう言った。


「良かったら、一緒に見ない?」



***



「あの赤い星がベテルギウスで、その左下にある明るい星がシリウスで……」


雇い主は、空を指差しながら一つ一つの星の名前を丁寧に教えてくれた。
俺はうんうんと相槌を打ちながら、雇い主の隣に座って話を聞く。


「星の名前、いっぱいあるんだね?」

「うん。季節によって、見える星座が違うんだよ」

「へぇ〜面白いねっ! 雇い主は、星を見るのが好きなんだ?」

「うん、好き。綺麗だし、星の名前を覚えるのも楽しいし、それに星空を見てるとね、自分の悩み事が全部ちっぽけな事に思えてきて……」


そう言いかけて、雇い主ははっとしたように言葉を切る。
まだこの本丸に顕現してそんなに長くはないが、彼女は自分の弱さを他人に見せることが好きじゃない人だという事は何となく分かっていた。
たぶん、悩みがある事を知られたくなかったのだろう。


「……好きなものがあるのは、それだけで良いことっ!」


そう言うと、彼女はホッとしたように表情を和らげた。


「ありがとう。……八丁くんは星を見るの、好き?」


そう問われて、俺はうーんと考える。
楽しそうに星の話をする雇い主の隣で星空を眺めるのは、結構楽しいと思った。
それを星を見るのが好きと言えるかどうか分からないけれど、嫌いではないと思う。


「ん〜……好き、かもっ?」


すると、雇い主は嬉しそうに微笑んで、「そっかぁ」と言った。


「じゃあ良かったら、また一緒に見よう?」

「……いいの?」


一人で静かに過ごす時間を邪魔してしまうんじゃないかと思ったが、雇い主は笑顔でこくりと首を縦に振った。


「……じゃあ今度また、星の名前教えてくれるっ?」

「もちろん」


その日から、時々夜の庭に出ては、二人で並んで夜空を眺めるようになった。

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