夏の星空
なんだか今日は、いつもより雇い主がどこか楽しげだ。
普段より笑顔が多いというか、なんだかウキウキしているように見える。
理由を尋ねてみると、今日は流星群が見えるらしい。
なるほど、夜空を眺めるのが好きな彼女にとって、流星群は特別なイベントに違いない。
「八丁くん、今日は屋根の上で星を見たいな」
と、楽しそうに目を輝かせながら雇い主におねだりされ、二つ返事でOKした。
「よし、任せてっ!」
雇い主の小さな体を抱き上げて地面を蹴ると、本丸の屋根の上へと着地した。
月明かりに照らされた屋根はひんやりとしていて、夜の静けさが漂う。
俺はそっと雇い主を屋根の上へ降ろした。
「わ、思ったより高い……」
雇い主は少し不安そうに足元を見ている。
「やっぱり降りる?」
「ううん、大丈夫」
そう言いながらも、やはり少し怖いのか、雇い主は俺の腕を掴んだまま離さない。
「……じゃあ、手繋いどく?」
手を差し出すと、雇い主は小さく頷き、俺の手をそっと握った。
俺はその手をしっかりと握り返す。
「これで安心だねっ!」
そう言うと、雇い主は安心したように笑顔で「ありがとう」と答えた。
手を繋いだまま屋根の上に腰掛け、夜空を見上げる。
しばらくして流れ星が一筋、すっと夜空を横切った。
「あっ! 今の見た?」
雇い主が声を弾ませながら言う。
「見た見たっ!」
「わ、また流れたよ!」
楽しそうに夜空を指差す雇い主を見て、俺も自然と笑顔になる。
「あ、そうだ。願い事しなきゃ!」
と、思い出したように雇い主が言った。
「あ〜、流れ星に願い事を唱えると、その願いが叶うんだっけ?」
「そうだよ。3回唱えるんだよ」
流れ星が流れる一瞬で3回唱えるのは無理があるとか、そもそも唱えるだけで願いが叶ったら苦労はしないとか、色々思うところはあったけど、とりあえず3回唱えてみることにした。
(……これからも、ずっと雇い主と一緒に星を見られますように)
雇い主と2人で過ごすこの時間を、他の誰かに取られたくないと、いつからかそう強く思うようになっていた。
口に出すのは恥ずかしくて、心の中でそっと唱える。
雇い主も無事に願い事が出来たようで、「よし!」と小さく呟く声が聞こえた。
「雇い主は何をお願いしたの?」
つい気になって聞いてしまったが、すぐにしまったと後悔した。もし聞き返されたら答えられない。
「私はね、『本丸のみんながずっと幸せに暮らせますように』って」
そう言って雇い主はニコっと微笑む。
まるで審神者のお手本のような願い事だ。
「さすが雇い主! 良い願い事だね」
「無難な願い事だけどね、それが一番かなって」
ただただ自分の欲望を願っている俺とは大違いで、雇い主はちゃんとみんなのことを想って願い事をしていて、なんだか自分が情けなくなってきた。思わずため息がこぼれそうになる。
「八丁くん、どうかした?」
顔に出てしまっていたようで、雇い主は少し心配そうに俺の方を見て首を傾げる。
「いや〜、俺は自分の事しか願ってなかったなって、ちょっと反省っ!」
そう答えると、雇い主はクスクスと笑った。
「どんな願い事でも良いと思うよ。八丁くんは、何を願ったの?」
「それは……内緒、ですっ!」
「えぇ〜内緒かあ〜」
雇い主は不満そうにしながらも、どこか楽しげだ。
「八丁くんの願い事、叶うと良いね」
「……ありがとっ! 雇い主の願い事も、きっと叶うよ!」
「うん、ありがとう」
そして再び夜空を見上げる。
流れ星がまた一つ、静かに夜空を横切った。
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