梅雨の星空


この本丸では、近侍は毎日順番に交代制で、今日は俺の番だった。

「今日も雨かあ……」

執務室で書類仕事をしながら、雇い主が残念そうにつぶやく。
梅雨に入ってからは雨の日ばかりで、雨じゃない日も雲が多くて星空が見えない日が続いていた。
そんな訳で、雇い主と二人で話すのは少し久しぶりだ。

「お天道様の下は得意っ。雨の日は最悪……星も見れないしっ」

「同感……。あ、そうだ」

雇い主は何かを思いついたように、ぱっと顔を上げた。

「どうしたの?」

「仕事が片付いたら、良いもの見せてあげる」

「いいもの……?」

「うん」

楽しみにしてて、と雇い主は得意げに笑ってみせた。



***



書類仕事を片付け、雇い主に連れてこられた先は、離れにある審神者の私室だった。

「え?」

「どうぞ、入って」

「……」

入り口で立ち止まっていると、雇い主は不思議そうに首を傾げる。

「どうしたの?」

「えっと……入っていいの?」

「? うん、良いよ」

「良いのかなあ……。じゃあ、失礼しまーっす」

躊躇いつつも、雇い主に促されて中に入る。
部屋の中は洋室になっていて、白を基調とした家具でシンプルにまとめられていた。
物は少なく、室内は綺麗に整頓されていた。

「ちょっと待っててね」

雇い主は、戸棚から何やら丸い機械を取り出すと床に設置し、リモコンで部屋の電気を消した。
すると、天井が満天の星空に変わった。

「わーっ、びっくりしたっ!! なにこれっ!?」

「ふふ、家庭用のプラネタリウムだよ」

「ぷらねたりうむ?」

「うん、この機械でこうやって壁に星空を投影できるの」

そう言って雇い主はカーペットの上に寝転がる。俺も隣に腰を下ろした。

「すっごい……。こんなのあるんだ……」

「偽物だけど、少しは星空を見てる気分になれるでしょう?」

「うんうんっ」

実際の星空とは全然違うけど、これはこれで楽しい体験だった。
しばらく眺めていると、隣からすぅすぅと寝息が聞こえてきた。

「雇い主、寝ちゃった……?」

雇い主は目を閉じ、規則正しい呼吸を繰り返している。
その寝顔をじっと見つめる。起きる気配はない。

「……無防備すぎ。ダメ雇い主、ですっ」

とは言ったものの、起こすのも忍びない気がして、毛布をそっとかけてやった。

「でもまぁ、雨の日も悪くない、かもっ?」

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