魅せられて
今日も凛月くんは私の膝の上ですやすやと気持ちよさそうに眠っている。
凛月くんと出会った日から早数週間が経ち、気づけば昼休みに膝枕をしてあげるのが習慣になっていた。
凛月くん曰く、私の膝枕は柔らかくて良い匂いがして寝心地が良いんだとか……。
毎日私に膝枕をせがむ凛月くんを見かねた真緒君が「迷惑だったら遠慮なく断ってくれて良いんだからな」と言ってくれてはいるが、凛月くんから「明日もよろしくねぇ」とお願いされると、つい頷いてしまう。
最初こそ膝枕をすることに対して多少恥ずかしさもあったが、今ではもうすっかり慣れてしまって、凛月くんと過ごす静かで穏やかな時間は、慌ただしい学校生活のの中で、私にとっても心地の良い癒される時間となっていた。
背中を預けている中庭の木から、ひらりと葉っぱが1枚落ちてきて、凛月くんの頭の上に乗っかった。
それをそっと指でつまみあげて、地面に落とす。
ついでに頭を撫でてやると、凛月くんは目を閉じたままで気持ちよさそう表情を緩ませた。
そんな凛月くんを見て、私も思わず笑みをこぼす。
寝顔はどこか幼さが残っていて、可愛いらしい。それから――。
(……きれい、だなぁ)
艶やかな黒髪に長いまつげ、傷ひとつない綺麗な白い肌は、まるでお人形さんのようだ。
ついまじまじと見つめてしまっていると、凛月くんの目がぱちっと開いて、赤色の瞳と視線が交わる。
「そんなに見つめられたら、寝にくいんだけど?」
「……っ、ごめん」
まさか起きているとは思わず、動揺してしまう。
「もしかして、見惚れちゃった?」
凛月くんは悪戯げに目を細めてそう聞いてくる。
「その……綺麗な顔してるなと思って」
正直にそう伝えると、凛月くんは得意げに笑みを浮かべた。
「アイドルだからねぇ」
「アイドル……」
そっか。そういえば、凛月くんはアイドルだった。
失礼な話だけれど、凛月くんがアイドルだという事を私はすっかり忘れていた。
そんな私の心を読み取ったのか、凛月くんは頬を膨らます。
「何、その顔。さてはあんず、俺の事アイドルだって思ってないでしょ」
「え! えっと、そういう訳じゃなくて……」
アイドルだと思っていない訳じゃない。ただ忘れていただけだ。
いつも眠たげ気だるげで、真緒くんにお世話をしてもらってばかりの凛月くんの姿をいつも見ているので、どうも彼がアイドルだという認識が私の中で薄くなっていた。
「ひどいなぁ、あんずは。プロデューサーの癖に、俺の事アイドルだと思ってないんだー」
「そ、そんなことは……!!」
「俺だっていつも寝てる訳じゃないんだけど。あ、そうだ」
不貞腐れたような表情を浮かべていた凛月くんだったが、何かを思いついたように表情を明るくする。
「今度のKnightsのライブ、見に来てよ」
「ライブ?」
「うん、久々にKnightsのみんなでライブやるんだ」
「わぁ、見たい」
「見に来てくれたら、絶対楽しませてあげる」
そう言う凛月くんは自信に満ちた目をしていて、普段とは違うアイドルとしての表情が一瞬垣間見えたようで私は思わずドキリとしてしまう。
「……うん、楽しみにしてるね」
私がそう答えると、凛月くんは満足したように目を閉じて、再び私の膝の上で眠り始めた。
そして、ライブ当日――。
広い講堂に大勢の人が集まっていた。
大きな歓声が響き渡る中、眩しいスポットライトを浴びて、ステージの上でKnightsがパフォーマンスをしていた。
私はその光景に、目を奪われていた。
(……す、ごい)
一瞬で引き込まれてしまう魅力的なメロディ、圧倒的な技量のダンス、そして5人の歌声がアンサンブルになって心に響く。
心を鷲掴みにされたように、私はステージから目が離せなかった。
(これが、Knightsのステージ……)
ステージ上でパフォーマンスを披露する彼らはキラキラと輝いていて、まるで夢でも見ているような、そんな気分にさせられる。
凛月くんはやるときはやる、とは聞いていたけれど、本当に普段の凛月くんからは全く想像のできない姿に、私は圧倒されていた。
そこにいたのは紛れもなく、アイドルの朔間凛月だった。
ライブが終わってすぐ、私は真っ先にステージ裏へと駆けていった。
ライブ直後のアイドルに会いに行くなんてプロデューサー特権の乱用かもしれないけど、どうしても今すぐにこの気持ちを伝えたかった。
私は彼の姿を見つけると、名前を呼んで駆け寄っていった。
「凛月くんっ……!」
息を切らしながら走ってきた私を見て、凛月くんは目を丸くしている。
「ライブ、すごく良かった……! 本当に本当に、素敵だった……!!」
突然やってきて興奮気味にそう伝える私を見て、凛月くんと周りにいる他のKnightsのメンバーはぽかんとしている。
やがて私は我に返ると自分の行動が恥ずかしくなってきて俯いた。
「ご、ごめんなさい。どうしても伝えたくて……。し、失礼します」
出ていこうとする私を凛月くんが呼び止める。
「あんず、待って」
凛月くんは機嫌良さそうに笑みを浮かべている。
「俺の事アイドルだって認めてくれた?」
「もちろんだよ……!」
「じゃあさ、」
次に続く言葉に、今度は私が目を丸くする番だった。
「今度はあんずがKnightsのプロデュース、してくれる?」
「私、が……?」
後ろから、他のメンバーの「はぁ!?」という声が聞こえてくる。それもそうだろう。
Knightsは強豪ユニットだ。私のような転校してきたばかりの新人プロデューサーなんかでは役不足に決まっている。
だけど……。
さっきのライブを見て、Knightsのプロデュースを自分がやれるのならどんなに素敵だろうかと思う。
チャンスがあるならやってみたいと思った。
「よろしくお願いします……!」
ペコリと頭を下げる私に、「ちょっと、何勝手に決めてんのぉ!?」という声が飛んできた。
見れば銀髪の3年の先輩がお怒りの様子だった。
「えっと、駄目、でしょうか……」
「駄目に決まってるでしょぉ!?」
「まぁまぁ、泉ちゃん。ここはリーダーの王さまに聞いてみましょ?」
「セッちゃんうるさい。ね、いいでしょ、王さま?」
王さま、と呼ばれているKnightsのリーダーを見ると、面白いものを見るようにニコニコと笑っていた。
「ん、いいんじゃないか? 面白そうだ、わはははは☆ あぁ、霊感が湧いてきた……!」
「ちょっとLeader! 壁に楽譜を書くのは止めてくださいとあれほど……!」
そんなこんなで、私はKnightsのプロデュースをすることになったのだった。
2017.01.29
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