最近、眼鏡の男性を見かける事が増えた。
私は気付いていなかったが、間違い探しの得意な壱が逐一教えてくれた。
ほら今日もスーパーに母親と三人で向かっていたら……

「お母さん! また眼鏡のおじちゃんみーつけた!」
「あらほんと。壱凄いね〜。
 あ、おばあちゃんと先にスーパーでおやつ選んでてくれる?
 お母さんお腹空いちゃったな〜〜」
「いいよー!」
「母さん、お願いね」
「わかったわ」

 アイコンタクトで私が行くまで壱をよろしく、と念を送る。
 伝わったのか、パチン☆とウインクが返ってきた。

 二人を見送り、最近周囲をウロついている不審者に近付く。
無関係を装うためか明後日の方向を見ているが、バレバレです!

「あの! 私に何かご用ですか!?
 用がないなら、近付かないでもらえますか!
 次に見かけたら警察に通報しますから!」

 こういう時は、きっぱりはっきり伝えるべし。逆上されたら怖いので、すぐに距離をとる。

警戒を読み取ったのか、眼鏡の不審者が慌てたように口を開いた。

「……不愉快な思いをさせてしまい、申し訳ありません。私は風見と申します。
 ある人からの依頼で貴女を調べていました。無礼を承知でお聞きします。壱くんの父親は誰ですか?」
「…………あの子は私の子です」

 ピンときた。
 どこかで先輩が壱の事を知ったのだろう。それで、恐らくは部下である風見さんに頼んだんだ。

 私は筋の通らない事があまり好きではない。
 確認ならば、先輩本人が来い!!
 来られない事情があるなら、電話ででもかけて来いってのよ!!

「…………先輩に伝えて下さい。会えない事情があるなら、為すべき事を成してから会いに来いと!!」
「失礼致しました。そのように伝えておきます」

 深々と風見さんが頭を下げてから、我に返った。この人は関係ないのに、切れてしまって申し訳ない…………。

「こちらこそすみませんでした。風見さんは先輩に言われて来ただけなのに」
「いえ。最後にお渡ししなければいけない物があります。
 …………これを」

 ズシっと重みのある小さい鞄を渡された。
チャックを開けて中を覗くと、札束が入っていそうな封筒がいくつか…………。

「受け取れません」

 押し返そうとするが、男性である風見さんのほうが押しが強い。

「返されても困ります。自分は渡すように言われています。
 ……それに、こんな言い方はしたくないですが、これは貴女ではなく壱くんの権利です」
「その言い方は、卑怯です」
「今後の為にも受け取って下さいね」

 そう言われては仕方ない。お金はあっても困らないし……。
 先輩から連絡が来たらお礼を言って、それまでは貯金しとこ。

 大人しく受け取る意思が伝わったのか、風見さんはホッとした様に見える。

「では、自分はこれで失礼いたします」
「えっ。はい。あの、先輩に有難うと伝えて下さい」
「はい」

 ペコリ。最後にまた一礼して風見さんは去っていった。

 …………先輩はとりあえず置いといて、早く銀行に行かなきゃ怖い。


−−だそうです。降谷さん−−
「すまなかったな、風見。
 しかし、公安の人間が子供に簡単に見つかりすぎではないか?」

 ことごとく壱に見つかっていた。よくこれで公安が務まるものだ。

−−言い訳になりますが。ただの子供ではなく、降谷さんの子供だからです。貴方に似たのでは?−−
「ハッ! 今日は口がよく回るな」

−−失言でした−−
「いや、良い。その通りだからな。
 ……よくやってくれた、ありがとう風見。もう切っていい」

−−はい。…………プツッツーツー…………−−


 俺に似たならば、会いに行くまでハナを守ってくれよ、壱…………。

「それにしても」

<<会えない事情があるなら、為すべき事を成してから会いに来いと!!>>

 そう言い切った、彼女の姿が脳裏に浮かぶようだ。
 彼女自身、普段は淑やかで争い事なんて縁が無い。そんな穏やかな雰囲気を持っている。
 しかし、さすがというべきか警察官の父親に似たのか、筋の通らない事が見過ごせず、学生時代も何度かイジメを目撃しては立ち向かっていた。
 そんな芯の強さも惹かれた理由の一つだった。

 人として当たり前の事を当たり前に表現する事はとても難しい。

 彼女はそれが普通に出来る、素晴らしい人なんだ。だからきっと、彼女が育ててくれているあの子も……素晴らしい子なのだろう。


 ハナがポアロで働いていた。そこから全てが繋がった。
 元々、彼女の父親が警察官だと知っていた。つまり、彼女の父親の黒田さんは壱の父親が俺だという事を知っていて、ハナを守るために調べられない様に情報を秘匿した。
 俺が安室透として潜入捜査をしている、その情報を持つポジションに居る。だからこそ、黒の組織が俺を経由してハナや壱の事を知られない様に先手を打ったのだろう。

 素晴らしい彼女を育て上げたご両親もまた、素晴らしい人達だ。
 黒田家の人々はハナと付き合っていた俺に本当によくしてくれていた。だからこそ、彼らに胸を張ってハナと壱を迎えに行きたかった。

 そして、できれば……

(黒田零……悪くない響きだ)

 素晴らしい人達の一員に。いつか、必ず。







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