先日、風見経由で零先輩が無事だと知ってから、胸のざわざわが続いていた。
 先輩の事はふとした時に思い出していたが、壱が駆け回るようになってからはあっという間に七年の時が過ぎた。

 壱には確実に先輩の面影がある。
 それを辛く感じる日もあったが、壱は壱。お母さんと慕ってくれる、先輩と私の子供。少しずつ心の整理がついたのだろうか。そう割り切れるようになった。

 胸のざわつき。
 整理がついたと言い聞かせていた想いが、心が、堰き止められた物を吐き出そうとしているのか。

先輩の事は今でも大好き。私の人生において先輩と壱と家族。それぞれに支えられて此処まで来られたの。
零先輩の事は勝手に心の支えにしていたけれど、真面目だから先日のように部下の人経由で壱のために養育費をくれた。

何か危ない事をしているのかな。会えなくても先輩が怪我なく病気もせず、体も心も元気でいてくれたらそれで良い。いつか、会える時まで待っていられる。
だって、七年も待っているもの。

きっと先輩は父親として壱と向き合ってくれる。そう信頼している。

でも、そう…………他に大切な人が出来たのなら私のことは放っといてほしいな。
先輩には幸せになってほしいし、重荷にはなりたくない。私には先輩との宝物である壱がいるから、これ以上望むと贅沢な気がする。


一人で街を歩いていたけど、何だか色々あったからマイナス思考になってしまう。
もう少し行くとポアロがあるから休憩しよう。

「ハナさんいらっしゃいませ」
「梓ちゃんこんにちは。グァテマラ一つと、チーズケーキをお願い」
「はい。グァテマラおひとつ、チーズケーキがおひとつですね。ごゆっくりどうぞ*」
「ありがとう」

店内は空いているようで、カウンターにコナン君が一人でアイスコーヒーを飲んでいる。壱は苦くて飲めないわ。大人の真似がしたい歳なのかな。なんだか洋書読んでるし。帰国子女?

コナン君の邪魔をしないように、離れてソファ席に座る。
梓ちゃんも疲れているのを察してか、サッと注文だけ取りカウンターの向こうへ引っ込んだ。彼女のこの気遣いが有難いよね。

本屋で買ってきた雑誌を広げる。LKDという生活雑誌で収納技やお得な情報、似たような商品の比較など。読んでるだけでも面白いし、気分転換にもなる。

梓ちゃんがコーヒーとケーキを運んできてくれた。

「あ! LKDもう新しいの出たんですね」
「うん。今日発売で午前勤務だったから、帰りに買っちゃった」
「私も買わなくちゃです!」
「読み終わったら置いてくよ? また二日後壱と来るから、その時にマスターに預けておいて」
「ありがとうございます*。実はそう言ってくれるの期待してました♪」
「知ってる*」

では、ごゆっくり。とニッコリ笑顔でウキウキとカウンターの方へ。梓ちゃんお茶目で可愛いなぁ。嫌味がないよね。
少しキャッキャとはしゃいだからから心が軽くなったし。


雑誌を読み終わり、コーヒーカップも空に。
そろそろ帰ろうかなあと思った時、からんからんと来店を知らせる音。

「梓さんすみません、少し遅くなってしまいました」
「大丈夫ですよ安室さん。あ、そうだ!
まだハナさんに会ったこと無かったですよね。レアキャラのピンチヒッターアルバイト、ハナさんです!
ハナさん、こちらこの前行ってたイケメン新人の安室透さんですよー!」
「………………」

噂のイケメン新人店員 安室透さんと初対面です。
どう見ても、零先輩ですよね???

ガタ!
思わず立ち上がる。一瞬だけど、七年ぶりだからかその瞬間がとても長く感じる。数秒見つめ合い、ニッコリと先輩が笑った。見たことのない顔で。

「貴女が噂の会うと幸せになるというハナさんですね!
ご挨拶が遅くなりました。ポアロでアルバイトをしている安室透です。本業は探偵をしていまして、最近では毛利小五郎大先生の弟子にもなりました。
何か困った事があれば此処に連絡下さいね!」
「は、はい」

息継ぎしたかな? というような長い自己紹介。大体どんな立ち位置なのかは理解した。
差し出された名刺を受け取る。
そこにもしっかりと『安室透』と書かれていた。

「私は黒田 ハナです。月に1回あるかないかでポアロでアルバイトをしています。本業は本屋店員です。本を買うなら〇〇書店でぜひ。
よろしくお願いします」
「僕推理小説好きなんです! 最近はネットで買う事が多いので、また伺いますね。
オススメがあったら教えて下さいね」

自然に手のひらを差し出された。まじか。

「はい……」

不自然にならない程度に、震えないよう気をつけて手を重ねる。ブンブンとシェイクハンドされた。

しぇ、しぇんぱいの温もり…………

ポロリ。ポロ、ポロ…………

「ハナさん、大丈夫ですか?」
「あ、はいすみませ。目にゴミがコンタクトだから目が痛くて。あの、手を離してもらっても?」

ギュゥ。涙が出てから先輩が手を握る力が強くなった。

「つい驚いてしまって。痛くなかったですか?」
「大丈夫です」
「ハナさんティッシュいります?」
「壱君のお母さん大丈夫?」

しぇんぱいと梓ちゃんと、いつの間にかコナン君までが私の近くに来ていた。みんな心配そうに見ている。ヒェ。

急いでバッグを手に取る。

「大丈夫です。雑誌読んでたからコンタクト乾いちゃったのかな?
梓ちゃん此処に置いとくから読んでね。安室さんこれからよろしくお願いします!
コナン君もまたね」

レジまで競歩かというくらい急ぐ。
一番奥の席にいたから店を出るまで長いよ!

パタパタと足音がして、梓ちゃんがお会計しに来てくれたと顔を上げたら、まさかの先輩!
さっき来たところなのにいつの間にかポアロのエプロン付けてる! エプロンカッコいい!

「僕が泣かせてしまったみたいなので、ハナさんのお会計持ちますよ」
「いえ、払ってもらう理由がないので(正直早く店を出たい)」
「…………ハナさん?」
「ヒェ。なら、今度は安室さんの分は出させて下さい……」

目が据わっている! これは先輩が半分怒っている時だ。混乱してつい従ってしまう。

「僕がいる時にまた来て下さるんですね! 名刺の裏に出勤日書いて置いたので、ハナさんが来たら休憩に入らせてもらってお茶しましょう」
「はい、それでいいです……」

いつの間に。

「では、またのご来店お待ちしております!」
「ハナさん帰り気をつけてー!」
「壱君のお母さんバイバイ」

三者三様に見送られ、手を振り頭をぺこぺこして立ち去る。つ、疲れた…………。


コナン「安室さん、壱君のお母さんと知り合いなの?」
梓「ハナさん狙いですか? さすがお目が高い! でも、私と壱君を乗り越えてからですよ!」(ハナのセコム)

安室「お綺麗な方ですね。でも、初めてお会いしましたし、これからぜひ仲良くなりたいです!
(まさか泣くとは……もう俺の事は嫌いになったのか!? 確かに組織に巻き込まないためとはいえ、行方をくらましたし子供も存在を知らなかったとはいえ、七年間も父親の責任を放棄してしまっていた。彼女が辛い時支えられなかった。
いや、これから先一生をかけてハナも壱も俺が守る。
風見から報告はなかったが、まさか、す、好きな人が出来たから動揺したとかではないだろうな!?
いや、ハナのことだ。壱を育てる事に一生懸命で他人など見てる余裕は無いはず……下手したら俺の事も半分切り捨てたかもしれない……これから挽回しなければ……)」


後日、コナンと壱が二人でポアロに。
噂のイケメン店員を初めて見た壱に梓がパパにどう?とたずねる。

「探偵はグレーゾーンだからダメ!
パパはヒーローだから警察官じゃないとやだ!」

守護霊達は言っちまったな*顔。でも、彼らが警察官のかっこいいところを語った結果です。パパも本当は警察官だもんね。良かれと思ってね。

梓はあははそっかーと流す。
安室さんは笑顔がやや引きつり、探偵の良いところを語り出す。

コナン君は、少しおかしいあむぴと、先日のハナとの様子、あむぴと壱の顔を見比べて、もしや??? と、真実に辿り着きかける。





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