20. 親子

旅に出ていた教え子が帰還して、ふと後輩と会わせてやろうと思い立つ。忍び不足の情勢も手助けして、今は少し能力の秀でた子はどんどん進級して下忍になっている。自分達が子供だった頃を鑑みると少し複雑な心境になるが、火影としては致し方ない。そんな中、後輩の長男がメキメキと頭角を表し、今年中忍試験を受けるらしいと耳にした。絶好のチャンスなんじゃないか、とほくそ笑む。

「カカシ先生、すげー悪い顔してますけど。」
「ん、気にしないでよ。長年のしこりを解消してあげようとしてるだけだから。」

言わば慈善事業だよね、と呟くと、はぁ、と困ったように相槌を打たれる。その言葉と入れ替わるように相談に来た後輩に口角が上がる。
『ちょっとサツキから事情聞いたからって偉そうに説教たれてんじゃないわよ、ウスラトンカチ。1人で産んで1人で育てるって決めたのよ。それを全うしてるだけじゃない。なんでふらっと帰ってきてふわっと関わったあんたにそんな事言われなきゃなんないのよ。』
火影室で想い人にそう言い放った彼女は、以前の弱々しい健気な彼女ではなくなっていて、頼もしいなと*が緩む。ただ、自分のちょっとしたお節介の所為で盛大に日常を掻き乱されている彼女にそっと同情しておく。任務、と称して彼女の想い人兼長男の父親に、1週間彼女の子供の子守を命じていた。意外と上手くいってるじゃない、なんて呑気に無事1週間が終わるのを構えていたら、そんなうまくいくはずもなく、教え子の妻が泣きながら火影室にやってくる始末。なかなか一筋縄ではいかない。自分にも責任の一端がある事柄だけに珍しく焦る自分がいた。

「んー、ちょっと心配だから様子見て来たいんだけど、抜けていいよね?」

そう問いかけると、珍しくすんなりと、あぁ、と了承の声が降ってくる。カカシ先生、ごめんなさい、と泣き始めた教え子を尻目にそそくさと火影室を後にする。教え子はもちろん大事だけど、それ以上に心配になるあの子の家へと先を急いだ。家の前に着いてみると想像以上に情けなく項垂れる渦中の人がいて、こりゃ失敗したかな、と一つ頭を*く。

「早く起こしてあげたら?」

そう言って背中を押すと渋々と家の中に戻っていく後ろにそっとついていく。

「母さん起こすぞ。」
「そんなことできるの?」
「知らねーよ。やってみるだけだ。」

サスケも子供達も俺の気配には気付いていないのか、奥の部屋へと入っていく。

「名前、起きろ。」
「母さん、」

サスケとサツキの心配そうな声が聞こえる。

「オーロラは王子様のキスで目覚めるよ?」

ふと、その場に似つかわしくないことを明るく言い始めた声に拍子抜けする。この前、夕飯をご馳走になったときには気付かなかったけど、長女はしっかり母親の血を引いているようだった。

「誰だよ、オーロラって」
「眠りの森の美女。」

しばし沈黙が流れて、チュッとリップ音が聞こえてくる。

「名前」
「さ、すけ、」

聞いてるこっちが恥ずかしくなるような声を上げる2人に、子供の前だってこと分かってんのかね、と1人ヤキモキする。

「サスケ!」
「悪い、」

心配していた後輩が目覚めたらしい声と、教え子が申し訳なさそうに謝る声を聞いて、その場を後にした。心配していたよりもしっかり両親らしく、家族らしく振る舞う彼らにそっと安堵する。あとちょっとかな、なんて心躍らせながら迎えた中忍試験の日。自分を慕ってくれた姿を思い出して、長男くんにエールでも、と名前の家に出向いていた。

「起きろ、ウスラトンカチ。」

どうやらサスケが来ているらしい。自分が思ったよりも上手くいっているようで微笑ましい。

「サスケくん!キスしたら起きるかもよ!」
「その手には乗らねー。」
「でも早くしないと兄さん家出る時間になっちゃうよ?」

俺には大人しくしていたと思った長女だったが、サスケには容赦ないらしい。敵認定しているのか、父親だと思って甘えているのか。

「わー、ごめん、サツキ。私なんで今日に限って。」

慌てたような声が聞こえてくる。珍しく寝坊でもしたんだろう。

「いってきます。」
「いってらっしゃい!あとでね!」

寝間着のまま玄関の外までサツキを送りにきた姿にバレないよう気配を潜める。

「着替えないと遅刻するぞ。」
「え、うそ。」
「母さんが寝坊なんて珍しいね。」

末っ子だろうか、不思議そうに問いかける声が聞こえてくる。

「夜何してたのー?サスケくん」
「何もしてねーよ。俺が夜帰る所お前見送っただろ。」
「えー?サスケくんは信用ならないからなー。」

減らず口を叩く声に、ふと、自分と名前を重ねる。

「おまたせしてごめんね。」

準備ができたらしい名前の声が聞こえた。

「母さん、今日綺麗だね。」
「え、あ、ありがとう、イチカ。」
「キレー!」
「ありがとう、オリテ。」
「ね!サスケくん!」
「いや、俺は、別に」
「えー、趣味悪いー、可愛いよー?母さん。」
「サスケ困るからやめてあげてね。」

あぁ、そうか、と1人納得する。あの外面が良くて口の上手い少女が自分にだけ憎まれ口を叩いてくる理由が分かった気がした。そして、その少女が気になって心配して、今も救いの手を伸ばしてしまう自分が。憎まれ口を叩くのは、困らせてでも自分のことを見て欲しかったからなのだろう。構って欲しい、と不器用に手を伸ばされていたのか、と気づく。その不器用に伸ばされた手を払いのけられないのは、庇護の対象として無意識に見てしまっているからなのだろう。ずっと気付かなかった感情に1人気づかされて、心が温まった気がした。中忍試験会場へと足を運ぶ。