週末深夜のクラブ。大音量で音楽が鳴り響く。暗闇に派手なネオンライトが降り注ぐ室内で、普段は真面目に働いているだろう人達が解放されたように騒いでいる。味の割に高い酒を片手に物色するように練り歩く。
「あの、ちょうど2席空いてるんですけど、よかったら。」
気持ち顔を赤らめた女の子2人組に声を掛けられ、隣にいる顔立ちのいい連れを見遣る。口角を上げたのを見て、肯定の言葉を口にした。隣の奴はどちらか気に入ったのか結構ノリ気なようだ。水を差さないように大人しく付いていく。奥まったスペースにあるソファにもう何人か女の子が座っていた。女同士で遊びに来たのだろうか。足を派手に出したノースリーブのワンピース姿が並んでいる。露出された肌の感じが第一印象通り彼女達が若いことを物語っている。ひと通り並ぶ顔を確認する。どれも平均以上で自分の容姿に自信がありそうに見えた。キャピキャピと連れの男を囲ってチヤホヤするのが見える。唯一その輪に入らず席を立った女が視界の隅から消えて、気がつけばなぜか彼女を追いかけていた。
「ジントニック1つ。」
バーカウンターで注文した彼女はケータイを触るでもなく、ぼんやりと遠くで踊る人達を見る。その姿に倣って自分も視線を向ける。身体を近づけて踊る男女の群れ。ダンスに自信があるのか果敢に見せつける男達。お揃いのコーディネートをした女の子の集団。
「はい、ジントニック。」
「ありがとうございます。」
店員からグラスを受け取っても席には戻らず、近くの壁に背をもたれかける。その姿を見逃さないよう気を付けながら自分の頼んだ酒を受け取って近寄った。
「ひとり?」
声を掛けると一度驚いた顔をして俺の方を見つめながらグラスに一つ口付けた。
「友達待ってるんです。」
俺がその友達と居た所から追いかけて来たのを知らないのか、知らないと思ってるのか、そう答えた。
「そ。じゃあ待ってる間話そうよ。」
安いナンパみたいに声を掛けて図々しく隣に居座る。女にしては背が高めで、自分の肩あたりに顔がある。その顔が迷惑そうな色を示してこちらを見た。目が合う。
「お兄さんモテそうなのに。意外。」
慣れた調子で微笑んで、やんわりと拒絶してくる。
「まぁ、今こうして君に断られる程度だよ。」
目線をまた遠くへ戻して嬉しそうに微笑むのを横目で確認した。心が動いた。
「此処にはよく来るの?」
彼女の方には目を向けず訊ねた。彼女もこちらに目を向けずに答える。
「たまに。友達に連れてきて貰って。」
「ふーん。慣れてるみたいだから、此処に来たらまた会えるのかと思ったのに。」
「お兄さんなら私に会えなくても、もっと可愛い子に会えると思いますよ。」
グラスにまた口を付ける様子を盗み見る。いつもは自分から声を掛けたりしない。声を掛けられるのに乗ったり、相手もノリ気な所に声を掛けたりするくらいだ。手強い彼女に苦戦する。
「あ、カカシさん!名前と一緒だったんですね!料理届いたんですけど、食べません?」
先程の女の子の中のひとりだろう。俺を追いかけて来て声を掛けてくれたようだった。名前、と呼ばれた彼女は気まずそうにジントニックを飲み干して、私そろそろ抜ける、と女の子に声をかけた。
「わかった!伝えとくね!」
彼女が抜けると言ったことをそこまで気にしていないのか、軽く挨拶をした女に腕を組まれる。空になったグラスを俺に渡した彼女は背を向けどこかに手を伸ばした。その腕が近くに来た男の腕に巻き付いて背中が遠くなる。グラスを受け取る時に一瞬指先が触れた。
「じゃ、行きましょ?」
自分が可愛いことを自覚しているのだろう、上目遣いで見つめて来る女に大人しく従った。誘いに乗るのは得意だった。
「さっきの子はいいの?」
「名前ですか?いつも途中で抜けるので。」
「そ。意外。」
「名前の彼氏がここの常連?オーナー?なんか顔が聞くらしくて、VIP席誘ってくれるんですよね。」
「へー。」
自分の腕に絡む彼女の話によると、先程の男は彼氏なんだろう。言葉通り「友達」を待っていたようだ。席に戻ると自分の連れ以外にも何人か男が増えていた。料理が届いたというのは本当らしく、テーブルには所狭しと皿が並んでいる。
「カカシ、どこ行ってたんだよ。」
「あー、飲み物、無くなったから取りに。」
女の子が名前を知っていたのは此奴が教えたからだろう。もうだいぶ気分が良くなっているらしい姿があった。俺には一応声を掛けたけど、そこまで気にしていた訳ではないらしく、また女にチヤホヤされてそちらの会話に戻って行く。
「カカシさん、ここ、座ってください。」
先程の彼女が自分をソファへと誘う。またいつもの週末が始まる。