昨晩から咳き込んでいた彼が今朝はより辛そうにマスクを着けている。
「辛そうだね?薬飲んだ?」
コクリと頷いてよたよたと寝室へ向かっていく。私はよく風邪引くけど1日熱を出したら治ってしまうからあまり辛くはない。一方彼はなかなか引かない代わりに一度風邪を引くと酷くなるらしい。今回もここ一週間近く咳き込んでいる。そっと寝室を除くとピピピっと熱を測っている音が聞こえた。
「どうだった?」
「39度。測らない方が良かったかな。意識したら辛くなってきた。」
横になる彼に掛け布団を上げて入れてあげる。彼から発された声はいつもの低くクリアな響く声じゃなくて、掠れて喋るのも辛そうな声だった。
「冷えピタ、貼っちゃうよ?」
寝転がる彼がコクリと頷いたのを見て前髪を退かしてシートを貼る。空気を抜くようにペタペタ押さえると冷たいのか目を細める。今日が休みで良かった。それとも平日も辛かったけど我慢してたんだろうか。彼に一声掛けてコンビニへと向かう。ゼリーやプリン、ちょっとお高めのスープ、スポーツドリンクなど私の定番風邪引きグッズを買い込んで家へと直帰する。お粥も用意してバッチリだ。何時間かして目が覚めたらしい彼がよろよろとリビングにやって来た。
「起きれた?お粥あるけど、食べる?」
コクリと頷いたのを見て土鍋をもう一度火にかける。
「あのね、ゼリーとか色々買ってみたの。食べれそうなのあったら食べて?」
お粥が温まるまでの間に冷蔵庫がらガサガサと買い込んだ物を取り出して並べる。そうこうしていると鍋がグツグツいう音が聞こえて慌てて火を止めて彼に持っていく。何も言わず食べる彼を見て本当に辛いんだな、と心が痛くなる。
「食べれなかったら残してね?ちょっと作りすぎちゃってるから。」
黙々と食べる彼に話し掛ける。その日の夜も早々と床についた彼に、明日の朝も辛そうだったら病院に連れて行こう、と病院を探す。一日彼の声を聞かないのは久しぶりだった。会わない日でもボイスメッセージは聞いていたから本当に久しぶりだった。
「おはよう。」
翌日、少し声が出るようになったけどまだ掠れている声で彼が起きて来た。
「おはよう。体調はどう?」
「昨日よりはだいぶマシかな。」
「お粥と普通のご飯、どっちにする?」
「…両方作ったの?」
「あ、うん、朝ちょっと暇だったから。」
「そっか。じゃあお粥貰おうかな。」
了解、と言ってキッチンに向かい土鍋を火にかける。温めたお粥を運ぶと何やらじっと見られている。
「どうかした?」
「いや、心配してくれてたんだなと思って。」
「あ、うん。そりゃあ、もちろん。」
「俺の声、恋しい?」
「うーん、多分。」
「多分?」
「いつもはさ、会えなくてもボイスメッセージ聞いたりアラーム聞いたりするけど、昨日は久しぶりに一日中元の声聞かなかったんだよね。でも平気だった。」
「そっか。」
「ちょっとは成長したかな。」
「名前が好きなのは俺の声だけなのかと思ってたけど、昨日今日を見てたら違うみたいだなって思った。」
「え?うん、違うよ?!」
「俺自身も好きだからなんじゃない?声聞かなくても平気だって思ってくれたの。」
そう言った彼の声は好きになった声とは違うけど、ドキドキさせるには十分だった。彼の声が好きだけど、彼の自身事はもっと好き。