地元を離れて暮らす私にとって帰省というのは随分と心の折れる行事だった。移動に5時間もかけ、日本中が移動するハイシーズンのチケットを苦戦しながら手配し、大荷物を持って帰る。帰れば気の合わない母に疲弊し、もうとっくに成人した妹を溺愛する父を痛い目で見て、純真な笑顔を向けてくる妹に表面を取り繕って笑う。一般的に見れば、それこそ普通の幸せな家庭だと思う。大学まで卒業させて貰い感謝してもしきれない。それでも、なぜか、結婚してもこんな感じなのかと幼い頃から思ってしまっていた。母から父の愚痴を聞かされ過ぎた所為なのか、共働きの両親の代わりに家事をするのが子供ながらに嫌だったのか、恋愛が上手くいかない自分に嫌気がさしたのか。理由はよく分からない。結婚しないの、と何度聞かれても私の答えは同じだった。
「たぶんしないと思うから、私には期待しないで。」
そんな親不孝な私の考えを変えたのは祖母の一言だった。
「おばあちゃん、名前ちゃんが結婚するまで生きれるかねえ。」
前までは「結婚するまでは元気でいないとねえ」と言っていたのに急に不安げにそう言われ、鼻の奥がつんとした。私にとって祖母は心の拠り所で、前々からいつかは恩返ししたいと強く思っていた。そのいつかに期限があるということを突き付けられ胸を締め付けられた。こうしちゃいられない、一刻も早く結婚式だけでも見せたい。焦る私の頭に湧いて出たように浮かんだのが結婚相手をレンタルしてしまおう、というアイディアだった。歳がそんなに離れていなくて、結婚式に付き合ってくれて、1ヶ月くらい余裕を持って借りれて、金銭的負担の少ない所を探した。もともと業者自体も多くはない。唯一これだ、と思った会社に連絡して、1週間前にレンタル商品が届いて結婚式を挙げた。結婚式場も式案内も引き出物もウェディングドレスも結婚指輪も、全部自分で手配した。こればかりは脇目も振らず仕事をして堅実に貯金してきてよかったなと過去の自分に感謝するしかなかった。さすがに新婚で別居設定は無理があるので残りの契約期間は一緒に暮らしてもらうようお願いした。
「本当にそれでいいのか。」
大金を前にしてもなお問いかける彼に即答した。世間一般大多数の人と同じであろう男の言葉を聞いて、自分は通常の判断すらできなくなってしまったのか、と情けなかった。