平日は仕事でほとんど家にいないので、夜帰宅したときに彼にも来て貰って過ごすのが日常になっていた。今週末は各シーズンの写真を撮りに行くことになっていたので、私の代わりに場所などを調べてくれているようだった。
「背景に桜散らすとか、木々を紅葉させるとか、それぐらいは出来るから服装と髪型ぐらいだな。」
さらっと言われた言葉に、彼は画像編集ができるという事を知った。彼のことは何も知らない。ただただ作った料理を文句も言わず食べてくれ、週末の事をいろいろ調べて話し、他愛のない話で盛り上がる。それが心地良かった。こんな生活がずっと続けばいいのに。頭に浮かんだ言葉がなかなか消えない。結婚がしたい、という人はこの生活が欲しくて言っていたのか、と今更理解する。
「苗字さん、最近早いですね。旦那さん待ってますもんね。」
後輩に声を掛けられてはたと気付く。これまでは深夜まで仕事に追われまともに食事も睡眠も取っていなかったのに、今はまだオフィスに人が残る中退社している。確かにそれは彼と過ごすようになってからの変化だった。業務量は変わっていないなずなのに、これまでどれだけ要領が悪かったのか。
「いいなー、私も早く結婚したいです。」
冗談っぽくそう言われて、ふと化粧直しの手を止める。毎日コンビニ食だったのが自炊するようになって肌の調子が整ったようで、ここ最近化粧ノリが良くなった。家計を圧迫していた食費が、今や二人分なのに以前と変わらないくらいで、無駄遣いをしていたことに気付かされた。全部、彼と「結婚」したから起きた変化だ。昨夜彼に見せられた撮影コースとスケジュールを思い出す。
「今出来ることは全部やっておこう。」
盛りだくさんでこんなに2日で回りきれるのかと呆れた私に彼がそう言った。心の奥底で望んでいた幸せな生活が、借り物とはいえ今手の中にある。その事実に心を温めた。