てのひらの温度差

雲ひとつない晴天だった。じりじりと照りつける、いつもなら鬱陶しく感じるこの日差しも、今日だけは感謝したくなる。
久しぶりに時間が空いて、やっとゆっくり、二人きりで出かけられる。つまりはデートだ。何週間も前から楽しみにしていたから、雨でなくて本当に良かった。

「随分楽しそうだな?」
「ふふふ」

大きなショッピングモールの自動ドアをくぐる。
中は冷房が効いていて、冷たい空気が肌を撫でた。

「人が多いな。何かやってるのか?」
「そうかもね。とりあえず二階の方に行こう。そっちなら空いてるかも」

空閑の返事を聞く前に動き出そうとすると、彼はこちらに手を伸ばしていた。

「ほら、はぐれるぞ」
「あ、うん」

彼の小さな指と、ボクの指が絡む。

―彼の手から、温度は感じられなかった。
ずっと知っていた。わかっていたつもりだった。
それなのに、なにか無性に、胸を抉られたような心地がして、彼と繋いだ手に力がこもる。
彼が立ち止まった。エスカレーターの前にも人だかりが出来ていて、前に進めなかったからだ。彼と並んで立っていた。列が進むまで待っていた。
目線が自然と足元に向く。底がぺたんとしたパンプスが、そこにはあった。昨日の夜、少しヒールのあるサンダルと、どちらにしようか悩みに悩んで決めたパンプス。彼との距離が、少しでも離れてしまうのが嫌で、だから選んだぺたんとしたパンプス。

「ほら、行くぞ」

腕を引かれて我に返った。彼はもう前を向いていた。ボクも、足元を見るのをやめた。
エスカレーターが二階に辿り着く。確かに人は多いけれど、身動きが取れない程ではなかった。
エスカレーターから遠い場所は案外人が少なかった。手を引かれるままに、ボクは彼の少し後ろを歩いた。
じきに彼は立ち止まる。

「アズサ、」

振り返ったキミは、どこか悲しそうで、困っているようにも見えて、それなのに笑っていた。

「おれはちゃんとここにいるよ」

何も聞こえなくなった。流れていた軽快な音楽も、道行く人の話し声も、自分の息遣いも。全ての雑音が消え去った。
でも、でも、キミは、ちゃんとそこにいた。
気がついたら抱きしめていた。爽やかな香りの中に、顔を埋めていた。恐らくその香りも彼のものではなくて、柔軟剤かなにかだろう。だけどそれでも良かった。抉られていた部分が、彼で埋め尽くされていく。

「遊真、好きだよ」
「おれもだよ、アズサ」

でも、じゃあ、どうしてキミは、私の背中に腕を回してくれないの。

「…急にごめんね、行こっか。」
「おう」

キミはただ、笑顔で頷いた。

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