眩しい日陰

「んじゃ、行ってきます」
「夕飯までには帰ってくるね」

トントン、と爪先で地面を軽く叩いて、踵を靴に押し込んだ。支部を出ると、高く昇った太陽が照りつけて眩しい。陽を浴びる彼の髪も、肌も、日差しでキラキラと輝いていて、恐ろしい程に美しかった。キラリと光る真っ白な髪が、振り返った拍子にフワリと揺れる。

「ほら、行くぞ」
「うん」

―今日一日、おまえを独り占めしたい―
彼にそう言われて、急遽決定したデート。心なしかいつもより彼の様子が楽しそうに見えて、ボクまで頬が緩んでしまう。
ふと、ボクの指先に軽く彼の指先が触れた。意図せず自然とそうなったのだろうか、と一瞬疑ったが、またすぐに触れたことで態とだと気づいた。ボクの方からも少し触れると、彼はそっとボクの指先を握る。そのまま幾度か組み直して、結局いつもの、普通の繋ぎ方に落ち着いた。

「空閑、今日はどこに行く?」
「"げーむせんたー"とやらに行ってみたい」
「お、いいね」

行ったことなかったんだな、なんて他愛もない会話を交わして、じきに目的地が見えてくる。そこは大型のショッピングモールで、その一角にゲームセンターがあるのだ。

「うお、でかいな」
「でっかいねぇ」

UFOキャッチャーのぬいぐるみをまじまじと見つめて、空閑は少し考えるような仕草をしていた。じきにポンとひとつ手を打つと、お金を入れてアームを操作する。しかしアームは空をきり、景品が出てくることはなかった。

「ふむ、これはなかなか難しいな」
「あは、そうかもねえ」

しばらく思案して実行してを繰り返して、ようやくガション、と景品が落ちる音がする。彼はそれを丁寧に取り出すと、なんと彼はそれをボクに差し出した。

「はい」
「ん、?」
「欲しそうにしてたろ?」
「…わ、」

バレてた。これは恥ずかしい。耳が熱くなるのを感じる。

「え、貰っていいの?」
「あぁ、もちろん」

ありがとう、と受け取ったテディベアは、とても手触りが良くて可愛らしかった。ボクは思わず抱きしめて顔を埋める。さらさらした感触がすごく良い。

「ふふ、かわいい」

不意に、目の前の彼がふふ、と笑う。何事かと顔を上げると、優しい瞳がこちらを見ていた。

「アズサも可愛いな」

ドクン、と心臓が大きく脈打つのを確かに感じた。徐々に早まる鼓動が苦しい。同時に一瞬で顔が熱くなる。それを見られないように、ボクはまたテディベアに顔を埋めた。
それから、服屋に行ったりお昼を食べたり、映画を見たりプリクラを撮ったり。色々なところをうろうろして、時間はあっという間に過ぎた。

「すまんな、一日中付き合わせて」

バスから眺める街並みは、流れるように通り過ぎた。窓から差し込む夕焼けの色が、夕飯の時間が近いことを知らせている。

「ううん、楽しかったよ」

―今日一日、おまえを独り占めしたい―
その彼の言葉が、また脳裏に蘇る。夕陽に照らされる彼は、なぜだか切なげに見えた。

「空閑はいつも無欲すぎるんだ。もっと我儘言っていいんだよ?」
「……おれは、」

彼は少し目を伏せた。睫毛の一本一本でさえ陽の光を受けて反射し、その全てがボクの心を抉るように掴んでいく。
一度開かれた口がまた閉じられて、彼は何かを堪えるように、一瞬だけ唇を噛んだ。

「おれは、おまえがいてくれるだけで充分だ」

嗚呼、キミはまた、何かを飲み込んだ。

「…そっか」

君が笑ったから、ボクは何も言えなかった。

prev list next
top