鬼たちの中に幸せの花開く時-sidestory-


「何で不知火が帰って、俺が京に残らないといけないんだよ!」
「だって仕方ないじゃない。私はあなたの事が気に入っちゃったのよ。だから暫くはここにいてちょうだいね」
「馬鹿馬鹿しい! 我が儘にも程がある!」


 薫にとって千姫の第一印象は最悪なものだった。自分の思い通りに事を進める勝手極まりない女鬼。静御前の末裔か何かは知らないが、高貴な鬼として育っているが故の我が儘姫には違いなかった。


 勿論、幼い頃から苦労を耐え忍んできた薫にとって、千姫の態度は腸が煮え繰り返る程の腹立たしさであった。しかし、薫には千姫と気の合うところが一つだけあった。


 それは千鶴の事――


 風間と千鶴が夫婦になると知ってからの薫と千姫の機嫌はかなりよろしいものではなかった。二人は毎夜、顔を合わせては風間の悪口ばかりを言っては気を晴らしていたのである。


 そのような中、道中で千鶴が戸隠に刺されて意識が戻らない日々が続いた。


 俺にとってはたった一人の血の繋がる双子の妹――
 千鶴、死ぬな――


 風間や不知火の前で強がりを言っても、薫の心の中は落ち着く事がなかった。


 千鶴の事が心配で離れたくないと思っていたところに千姫からの命が下り、薫は京に上る事になってしまった。


 あの我が儘姫め――
 もうすぐすれば千鶴が目覚めるっていうのに――


 薫は苛立ちの全てを千姫にぶつける為に、身体中にそれらを溜め込んで京に向かって行った。


「薫、やっぱり来てくれたのね!」


 薫の気配がしたのか、千姫が門を潜った薫の所まで走り寄って来た。しかし、機嫌の悪い薫は、千姫を無視したまま歩き続けた。


「ね、ねえ…… ちょっとくらい声を出してくれてもいいんじゃないの?」


 千姫の懇願するような声音が余計に神経を苛々させられる。薫は歩みを進めていた足を止めると振り返り、その苛立ちを千姫に向かって放ち出した。


「俺があんたに命令されて京に向かった翌日に千鶴の目が覚めたんだ! 他人の不知火が千鶴の傍にいる事ができて、肉親の俺が何故、あそこに留まる事が許されないんだ? あんたの我が儘に俺は振り回されてばかりで、妹と会話もできてないんだぞ!」


 言ってやった――
 どうだ、ざまあみろ!


 薫は自分の中から苛立ちを放出した為にほんの少しだけ機嫌が直る。そして見下すための瞳を作りながら千姫を見た瞬間、唖然としてしまった。


 目の前の千姫の大きな瞳の中から大粒の涙が溢れ返っていたのだ。


「ご、ごめんなさい…… 私…… 本当に…… ごめん…… なさい」


 千姫は涙を流した事によって声を詰まらせながら侘びの言葉を搾り出すと屋敷の方へ走って行ってしまった。


「は、初めて見た…… 千姫の涙……」


 薫は女の扱いもよく分からない為、どうしたら良いだろうと頭を捻らせながら千姫を追い掛けるように屋敷の方へ駆けて行った。


 薫が屋敷の中へ入ると、千姫の部屋の前で君菊が困り果てたような表情でうろうろとしている。滅多に涙を見せない千姫を見た君菊も驚いたのだろう。そのような行動を起こしている君菊に薫は声を掛けた。


「千姫はその部屋にいるの?」
「あっ、薫…… もうこちらに着いていたんですか?」


 薫の姿を見た君菊は少し安堵したようだ。薫がここに来るまでの間の経過を話し出した。


「姫さまは薫が来るまでの間、毎日門の所に立って待っていたのですよ。今日もずっと待っていらしたんですけど、急に屋敷に飛び込んで来てご自分のお部屋に入られてしまったんです」


 その原因は自分だ――


 薫は心の中でその言葉を紡いだが、外には吐き出さなかった。


 君菊は千姫に忠実である。そのような彼女に先ほどの事を話せば、きっと薫に対して憤りを感じるに違いない。それに、これは薫と千姫との間で起こった問題であり、第三者に頼らず、当事者同士で解決をしていかなければならない。


「ああ、君菊は心配しないで自分の用事をして来てよ。千姫は僕が宥めておくから」


 しかし、君菊は千姫の様子が心配で堪らないらしく、


「何かあったのですか?」


 と尋ねてくるが、薫は平静さを装って首を左右に振った。


「ううん、別に何もないよ」


 薫はそう言うと、千姫の部屋の襖に手を掛け静かに開けて入って行った。




 千姫は部屋の奥で一人で泣き続けていた。薫は黙ったまま千姫の傍に歩み寄って片膝を着いた。


「何で泣くんだよ?」
「ご、ごめんなさい……」
「だから、何で謝るんだよ?」
「ご、ごめんなさい!」


 薫は千姫のそのような姿を見るのが辛くなり、彼女の腕を掴み、もう片方の手で顎を引き上げると、目の前には何かに怯えているような千姫の見開いた瞳があった。


「ごめんなさい! だから、私を嫌いにならないで!」
「あ……」


 顎を引き上げた千姫の顔を見た瞬間、薫は目を見開いた。


 涙に濡れた千姫の瞳に艶が彩られている。それが何とも言えず美しいと思った。


 そう、薫は素直にそう思っていた。そして、自分の心の中に微かな恋心が実りだしている事に気が付いたのだ。


「何で、僕があんたを嫌いにならないといけないんだ?」
「だ、だって…… 私は薫の気持ちも考えないで、自分の事ばかりで……」


 千姫はただの我が儘姫ではない。こうして薫の心中を知った後に自分を責めてしまう程だ。それに聞けば、千鶴と京で出会ってからずっと気にかけてくれていたとも言う。


 根は悪い女子ではない。ただ――


 俺と同じく不器用なだけだ――


 薫は、千姫の顎を更に引き上げると、泣き続けて震えている小さくて可愛らしい唇を優しく塞いでいった――。




 山の木々の葉が擦れ合う音しか聞こえないこの屋敷の中で、二人の長い口付けが続いている。


 初めは遠慮がちに千姫の唇を塞いでいた薫の唇が大胆なものとなった。


 千姫は薫のいきなりな行為に驚いていたが、徐々に力を抜きながら両腕を薫の首に回して身体の隙間をなくしていた。


「俺なんかでいいの?」


 やっと唇を離した薫が千姫に問い掛けると、千姫は黙ったまま笑顔で頷いた。それが了承されたのだと確認した薫は、千姫をゆっくり押し倒していった――。


 薫の唇が千姫の顎から喉にかけて優しく吸い付いていく。


「あっ……」


 少し痛みのある口付けを施すと、千姫の口元から小さな喘ぎ声が漏れ出した。


「大丈夫?」


 薫がご機嫌を取るかのような言葉を放つが、千姫はそれが気に入らなかったようだ。薫の頬を両手で挟むと眉をへの字にさせて説教じみた言葉を放ち返した。


「もうっ! 男ならもっとしっかりと女を誘導しなさい!」
「あ、ああ……」


 千姫の迫力ある言葉にたじたじになる薫だが、彼も男――


 下半身が疼き始め、大きく膨らみ出している。


 先程と同じ場所に顔を埋めながら、薫の手は千姫の襟元を崩し始めていった。


 白い肌が露になり始める。大きくはないが形の良い胸が姿を現した。その胸の片方を口に含ませると、千姫の身体が小さな痙攣を起こす。桜色の尖りを揉み解しながら舐め回し吸い付いていくと、千姫の喘ぎが少し大きさを増していた。


 普段は偉そうな言葉しか吐き出されない口元からは、美しい鳥の囀りのような声音が出ている。しかし、薫がまだ遠慮がちに行為をしていると感じた千姫は、薫の後頭部に手を回して思い切り自分の胸に押し付けた。


「ぶふっ!」


 いきなり胸に顔を埋め込まれた薫が咽てしまい、ごほごほとくぐもった咳を起こす。


「ご、ごめんなさい……」


 大胆な事をしてしまったと感じた千姫は顔を朱に染めながら侘びの言葉を入れた。


「ふっ、はははっ!」


 怒られるかと思っていた千姫は、胸に顔を押し付けている薫が笑い出したのを見て驚きの表情を浮かばせた。


「千姫の方が場慣れしてるみたいだね?」


 薫のその言葉に、千姫の顔が濃い朱色に染まった。


「そ、そんな事ないわよっ!」


 千姫の慌てぶりが面白い――


 薫は千姫の胸に顔を押し付けたまま笑い続けてから次の言葉を放った。


「ここまで誘導されちゃ、男として立つ瀬がないけどね……。でも俺だって男だから最後まで頑張るよ」
「薫……」


 その後からの薫が起こす行為には凄まじいものがあった。乱暴に腰紐を解き、着物を剥がしていくと、千姫の全身が見事に曝け出されてしまった。


 千姫の胸元から腹の辺りまで隙間なく花弁のような痕を残していく。その小さな痛みの口付けが何度も続き、千姫の頭の中が真っ白な世界に入り込んでいった。


 徐々に大きくなる喘ぎ声。薫はそれに聞き惚れながらも行為を続ける。


 薫の唇はどんどん下に下がっていき、既に蜜で埋め尽くされてしまっている秘部に到達していた。


 千姫の全身が一振るいを起こして、一瞬の硬直を見せた。


 下半身のある個所を舌で突かれて小さな疼きが始まる。中に深く突き込まれると、今度は全身に疼きが流れ込んできた。そして、指をゆっくりと差し込まれていくと強弱を付けた痺れが千姫を襲ってくる。


 千姫の身体は反り返り、腰は高く突き上げられた。


 千姫の両の瞳が薫に懇願をする。それの真意を理解した薫が一つに繋がる準備を始めると、潤いのある瞳を投げ掛ける千姫が薫の前に腰を更に突き出してくる。


 薫は自分の下半身を千姫の秘部に当てると、そこに自分の男としての象徴である塊をゆっくりと突き入れていった。


 少しずつ侵入する塊の固さを感じながら、千姫の口が徐々に大きく開いていく。そして二人の身体が隙間なく重なると、千姫が薫の耳元で小さく囁いた。


「嬉しい……」


 その瞬間、薫の中にある理性がどこか彼方へと飛び去ってしまった。


 強弱を付ける律動。
 互いの身体を打ち付ける音にその中に響く千姫の美しい旋律――


 どれも薫にとって魅力のあるものだ。今まで女と身体を重ねるのは興味本位のお遊びや、口を割らせる為の口実に使っていたこの行為が、千姫としている今、喜びを感じていた。
 
 目の前で乱れ、その合間にも口付けを要求してくる。少し気に入らなければ自分から体勢を変えてくる千姫。


「君は…… 本当に我が儘な姫さまだな」


 千姫の最奥まで自分の塊を突き上げながら耳元で楽しそうに囁く薫に、嬉しそうに笑い返す千姫の表情は空ろになり始めていた。


「そろそろ…… 逝く……?」


 薫のその言葉に千姫が何度も頷きを見せる。その動きを目で確認した薫は、一度、千姫の中から象徴である自分の塊を引き出すと、強く激しい一突きを奥深くまで差し込んでいった。


 千姫の身体が美しくうねりを見せて薫の全てを受け入れている。


 外に音が漏れているのではないかと思うくらいの激しさで千姫の中に薫の精気が注ぎ込まれていった――。




「姫様、薫…… そろそろ……」


 用事を終えた君菊が屋敷に戻り、夕食の支度を済ませて二人を呼びに部屋へ入った途端に立ち竦んでしまう。


 部屋の中を見て、初めは硬い表情だった君菊の顔が徐々に柔らかいものとなる。


「お二人とも幸せにおなりなさい……」


 君菊は二人にそっと布団を掛けると、静かに部屋を出て行った。



 その部屋の中では、薫と千姫が笑みを浮かべて仲良く頬を寄せ合って眠っていた――。


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