変わらぬ想い:2


 曹操軍に猫族を――
 関羽は必ず曹操軍側に引き渡すこと――

 あの時の関羽の不安に駆られた表情が忘れられない――
 あの後、関羽を曹操軍に引き渡せという呉の大将たちに向かって、孫権にしては珍しく、声を荒げていた――。


「関羽は人間と猫族の間に生まれた子どもです。つまり、純粋な猫族ではなく、混血なのです……」
 猫族の瞳は金眼と呼ばれている。しかし関羽の瞳は濡れ羽色であった。
「人間と猫族の間に子は成せないと聞いていたが……」
 孫権が問いかけると、諸葛亮はそのようなことは迷信だと答えてきた。
「漢帝国の歴史書には、猫族が妖怪であるかのように書かれていますが、実は、猫族は呪いを受けるまでは純粋な人間でした」
「に、人間だった……?」
「ええ、人間だったのです。しかし、大陸中を暴れ回る金眼を退治した時に多くの血が吹き出し、それが猫族の先祖が浴びた為に呪いを受け、猫族となってしまった……」
 その呪いを今、劉備が全て請け負っていると諸葛亮は言う。ずっと子どものままであるのもその呪いのせいなのだそうだ。
「本当ならば、この大陸を救った名武将であるはずの彼らでしたが、漢帝国の重臣たちは人間の手柄にしたかった。だから歴史書は嘘で塗り替えられたのです」
「では…… 今まで人間たちが蔑んできた猫族は、本当ならば敬わなければならない存在だったと……」
「ええ、その通りです……」
 諸葛亮が調べたのならば、その内容は真実だ。
 猫族が昔、人間であることは理解できた。しかし、それならば何故、人間と猫族の間に子どもが成せないと言われているのだろうか? 事実、関羽という人間と猫族の混血がこの世に生まれ出ているのだ。その時、諸葛亮の口から驚きの内容の言葉が放たれた。
「実は…… 私が調べたところ、曹操も人間と猫族の混血らしいです……」
「曹操が…… しかし、耳が……」
「耳は、己が野望の為に切り捨てたと……」
「何……!」
 曹操が関羽に執着をする理由が何となしに理解できたような気がする。
「私の想像ではありますが、人間と猫族の間に子どもが成せないと言われていたのには、恐らく、猫族は今まで同族同士での交わりが行われてきた為に、血脈に何らかの異常が生じた為だと思われます。例えば、特殊な病を持つ者や子が出来にくい体質、知識的な理解度の欠陥など、ですが……」
 しかし諸葛亮が最後に伝えてきた言葉は、やはり人間が猫族を蔑み、関わろうとしなかった為に、双方の間で身体の交わりが殆どなかった為、であった。
「つまり……」
 諸葛亮が人差し指を天井に向けて立てる。
「人間と猫族の男女が身体を重ねても、子はできる可能性の方が高いということです。しかし、今まで私が出会った猫族の中で、人間と猫族の混血は恐らく…… 曹操と関羽しかいない。つまり、曹操にとっては関羽が同胞となるのです。人間でもなく猫族でもない者。曹操と関羽はどちらからも外れている…… つまりはぐれ者…… 関羽も幼い頃は、猫族の中にいてはいけないのではないかと悩んでいた時期もあったそうですから、恐らく、曹操も辛い人生を過ごしてきたのではないでしょうか?」
「はぐれ者同士…… 辛い過去を過ごしてきた者同士でその受けてきた傷を舐め合おうと……?」
 孫権が呟くと、諸葛亮は静かに首を横に振った。
「いえ…… それもあるようですが、曹操は自身と関羽がこの世に選ばれし者だと考えているようです」
 まるで曹操の口から聞いたような諸葛亮の言葉に、孫権が首を傾げる。と、諸葛亮はほろ苦い笑みを浮かべた。
「周瑜は何も言っていないのですね…… まず、戦の前の小競り合いについてですが、あの時、呉と猫族合わせて三千の兵に対し、曹操は五万の兵を出陣させました。それが実は囮であったようです。あの時、私には違和感がありました。あれだけの船と兵を出していて、後方の曹操軍が打撃を受けているようには思えなかった。
 初めは呉水軍の戦力を見極める為だと思ったのですが、周瑜から聞いた話では、中央にあった船ではなく、その陰に隠れていた小さな船の方に曹操が乗っていたらしいのです。つまり、そこで私は中央にあった船が囮であったことと知りました。そして、曹操が何か探していると考えていると、その結論が関羽に辿り着いたのです。そして赤壁の戦いの時、曹操自らが戦前に出ていたそうです。戦の最中に関羽を奪おうと考えていたようですが、この時も関羽はあなたの傍にいて、戦には参加していなかった。燃え盛る船上で周瑜が曹操と刀を交えたらしいのですが、その時に曹操が関羽に執着する理由を知ったそうです」
 戦から戻って来た時、周瑜はそのようなことについては何も言ってこなかった。それについては、諸葛亮と周瑜、二人の間だけの秘密とされていたらしい。
「私たちが戦から戻った時、関羽はいつも孫権さまのお傍にいられました。それに、その後から孫権さまの政務は目が回るほどの忙しさとなっていた為に、この話は伝えないことに私と周瑜の間で決まったのです」
 孫権はまだ若く、呉を守る為だけに精いっぱいである。つまり、余裕のない時期に、ややこしい問題事を増やしたくないという二人の想いでもあった。しかし、このままでは曹操が再び関羽を狙って南方へ攻め込んで来るかもしれない。よくよく考えてみると、曹操が攻め込んだ場所には必ず関羽がいた。それ程に、人間と猫族の混血を望んでいたのかと、その先に曹操が望んでいたものを自然と感じ取っていた。
 繋がり――
 周りには名高い武将が揃っている。しかし、その頂点に立つ曹操の全身からは孤独を感じた。
「では、関羽はずっと、曹操に追われる身になるのか……?」
 孫権のその言葉に、諸葛亮は小さく頷いた。
「ええ…… 関羽があの世に逝かない限り、曹操は……」
 諸葛亮の続きの言葉を片手で制した孫権。その動きを見て、諸葛亮は口を固く閉ざした。
「この話は以上だ。次はこちらの書簡について……」
 関羽の身の上の安全を早急に考えなくてはならない――
 曹操はこの新野に関羽がいることを知っている。だから、密やかにここから違う場所へ身を隠さなければならない――
 孫権はそう考えながら、自分がこの地へ来た理由が二つ目の書簡の中にあると諸葛亮に伝えた。
「ここに、孫権さまがいらした理由が書かれてあるのですか?」
「ああ、関羽からの手紙だ……」
「関羽が…… 孫権さまに……」
 何か思い当たる節があるのか、諸葛亮が口元を微かに緩める。
「こちらについては、お二人でお話になった方がよろしいかと思います。今宵、宴会を開くと劉備さまがおっしゃられていたので、その時にお話になっては……?」
 恐らく、関羽が自分に話したいことがあるというその内容を、諸葛亮は知っているようだ。普段、無表情な顔の中に突如現れた微かな笑み。それは意味ありげなものであった――。


 関羽が戻って来た時、劉備と張飛が一目散に飛んで行く。その後を孫権と周瑜が追いかけた。
「関羽! お帰り!」
「あねきぃ! 遅かったんだな!」
「ただいま、劉備、張飛。全部の村を回っていたら遅くなっちゃったのよ」
 劉備と張飛に挨拶をしていた関羽の瞳が二人の背後で立っている孫権の姿を捉えると、驚きの表情を浮かばせた。
「おい、趙雲! こんな暗くなるまで関羽を引っ張りまわしてんじゃねぇよ!」
「何も引っ張りまわしてなどいない。新野の人間たちが住む村も見回っていたからな」
「見回るくらいで、こんなに遅くならないだろうが!」
「見回るだけではないぞ。村の状況を感じ取ったり、話を聞いたりするのも大切だろう」
 劉備たちの言う通りで、周瑜と趙雲の仲はかなり最悪なものであるようだ。先ほども、戻って来た関羽が孫権に挨拶をしに歩み寄って来た。それを、周瑜が止めに入ったのだ。
 目の前で関羽の腰に両手を絡めて、孫権にまで近寄らせないようにする周瑜の行動に多少の苛立ちを起こした。それを見ていた趙雲が関羽を周瑜から解放させたが、あれは優しさではない。趙雲もまた、孫権と同じく苛立ちを感じ、それによる咄嗟の仕草であったのだ。しかし、二人の関羽取り合いは、諸葛亮の横槍で終了してしまう。
「関羽…… 今日は怪我をしていないか?」
 皆からかなり遅れてやって来た諸葛亮が関羽に怪我の有無を聞いている。それに対して関羽は笑みを浮かべながら、怪我をしていないと伝えているが、諸葛亮はその言葉を信じていないらしく、関羽を別部屋へと引っ張って行ってしまう。
「関羽が戻って来たら、身体の怪我を診るのが諸葛亮の日課になっているんだよ」
 二人の姿が消えた方向を見つめながら、劉備が苦笑する。その言葉に、真面目な孫権の頬が一気に赤く染まる。
「あ、あの人の身体を…… 諸葛亮が診るのか……?」
 思わず声が上擦る。その隣では周瑜が口を尖らせている。
「諸葛亮はいいよな…… 関羽に警戒されてないもんな。見放題じゃねぇかよっ!」
 周瑜の口から洩れた言葉を聞いた孫権は、無表情のままで睨みつける。
 この場で周瑜と同じく、諸葛亮が羨ましいと感じた自身を、孫権は恥じた――。


 孫権は呉の君主。従って劉備と並びの席に腰を下ろしている。すぐ近くではあるが、関羽も自分の席へと腰を下ろしたその時、二人の男が関羽の両側を占拠する。
「周瑜と趙雲はいつもああなのか?」
 少し高台の場所からその様子を見ていた孫権が劉備に尋ねると、
「そうなんだよ…… 今はまだましだよ。でも、この後が大変なんだ」
 と、声を潜めて伝えてきた為に、何故だと問い返すと、
「二人とも、お酒が入るからね……」
 劉備が困惑顔で答えてくる。
「成る程……」
 周瑜が酒に酔うと、普段からの積極的な態度が更に大きくなる。しかし、趙雲を見ていると、酒は大量に飲んではいるが酔っているふうには見えない。しかし、劉備が言うには、あれで趙雲はかなり酔っているのだと言う。
「おい、関羽…… こっちに来いって」
「いや、関羽、お前はこちらに……」
 二人の男が関羽の取り合いを始める。抱き寄せられたり両腕を引っ張られたり―― 関羽の身体が左右に激しく揺れ動いている。
「止めなくて、大丈夫なのか?」
 苛立ちと同時に関羽を心配する孫権。しかし、諸葛亮が心配ないと小さな声で囁いてきた。
「まあ、見ていて下さい……」
 二人の攻防が激しくなる中、我慢の糸がぷっつりと切れたのだろう。
「もう! 二人ともいい加減にしてっ!」
 さすがは戦の最前線で戦ってきただけのことはある。関羽は自分に纏わりつく周瑜と趙雲を見事撃墜していた。
「最後には怒らせて、鉄槌させられるんだよね」
 周瑜と趙雲が揃う宴会ではいつもこうなのだと言いながら、劉備がある方向へ顎をしゃくった。
「孫権、関羽を追いかけないの?」
「え……?」
 劉備にはここに来た理由を何も話してはいない。それなのに、孫権がここに来た理由が関羽であることを知っているようだ。
「当分の間、周瑜と趙雲は起き上がれないからね。関羽と話をするなら今だよ」
 関羽と共に江夏へと向かい劉備たちに初めて会った時、劉備は孫権と関羽が結婚をするという話を聞いて、大層不安な表情を浮かべていた。皆が今後の作戦を練りに港を去った時、その場には劉備と関羽だけが残っていた。
 関羽と離れたくはないと、劉備は目の前の小さな身体を抱き締めていた。そして、関羽もまた、劉備の成長した身体を背伸びをしてまで抱き締め返していた。その二人の間に自分が入り込む隙間もないことをその時、孫権は感じていたのだ。その劉備が今、孫権に関羽と話をしてこいと言っている。
「新野もかなり落ち着いたんだよ。人間と猫族が共に暮らし始めて、交流も深まってきている」
「そうか……」
「諸葛亮や関羽、趙雲の助けがないと僕たちが望んでいる政策が進まなかった。それと猫族の仲間たちに人間たちの理解もね。でも、今は本当に僕が望んでいたものがこの地で実現をした。だから、今までこの地に縛り付けていた関羽を自由にしてあげたい。いや、かなり前から自由にはできたんだ。でも、関羽がなかなか本音を言ってくれなくて…… 自分が何をしたいのか、何処に行きたいのか、誰と共に生きていきたいのか…… 相手は決まっているのに、僕たちに遠慮をしていたのか、それとも他に何か理由があるのか、そこに行くのを渋っていたんだ」
「そうか……」
「僕は彼女を自由にしたいんだ…… 今まで甘えていた分、彼女には幸せになって欲しい…… って、孫権、僕の言っている意味が分かる?」
「そうか……」
 劉備の話を流していたわけではない。頭の固い孫権は、劉備の意味ありげな言葉を奥深くまで解析するのに時間が掛かっていたのだ。
 孫権がゆっくりと劉備の方に振り向く。その表情には信じられないというような色が醸し出されていた。
「劉備、今何と言った……?」
 孫権の問いに、劉備も驚きの表情を露わにする。
「え…… 孫権、君がここに来たのは、関羽を呉に連れて帰る為だろう?」
「……!!」
 驚きで言葉が出ない。暫くの間唖然としていた孫権の顔を見ていた劉備が柔らかな笑みを浮かべた。
「どうか、関羽を幸せにして欲しい……」
 孫権がその場から立ち上がる。そして、先ほど関羽が姿を消した方へと向かって駆け出していた――。


 今日は山賊も現れず、平穏な日々を過ごしていた。新野に散らばる小さな村々を見て回り、村人たちと少しの会話をした。
 今日は周瑜が来るということで、朝から趙雲の機嫌が悪かったのを覚えている。全ての村を回るつもりではなかったが、趙雲が全て見て回って戻ろうと関羽に伝えていた。
 周瑜と趙雲が自分に好意をもってくれているのは身に染みて分かる。しかし、関羽にはただ一人、想う者がいた。
 私の心の中にはあなたはいる――
 あなたの心の中に私はいるだろうか?
 新野に戻った時、この地を穏やかにする為に邁進する日々が続いた。曹操軍によって荒らされた地を平定するにはかなりの月日がかかった。
 劉備を中心とした政策について諸葛亮との言い合いも数えきれないほどだ。周瑜が来た日などは、新野についての心配事の上に、周瑜と趙雲の相手もしなければならず、その時の関羽は憔悴しきっていた。そのような時に脳裏にふと思い出したのは孫権の顔であった。
 少しずつこの新野の暮らしが落ち着いた頃から、関羽の心の中を孫権の存在が大きなものとなり始めていた。
 孫権と別れてからかなりの月日が経つ。会えない寂しさを和らげてくれたのが、孫権から頻繁に送られてくる手紙であった。その手紙の内容は、真面目な孫権の言葉とは思えないほどに、深い愛が込められた内容。しかし、関羽は何故かその手紙に対して自分の素直な気持ちを伝えられずにいた。
 それは、これから先の不安からくるものであった。
 まず、曹操の存在――
 彼は軍の体制を整えれば、再び関羽を狙ってくるだろう。それは呉にいた時に送られてきた書簡の内容から見て取れる。
 どうして、曹操は自分に執着をするのだろうか?
 猫族の中でも才ある武を持ち得ているから――?
 それならば、関羽だけではなく張飛に人間である趙雲もかなりの戦力になるはずで、彼らを求めてもいいはずなのに、曹操は何故か、関羽だけを望んでいるような雰囲気の内容を綴った書簡を送ってきたのだ。
 関羽が孫権と結婚をしたとなれば、曹操が標的にする地は呉。いずれは曹操と呉が戦うことになってしまう。
 その他にももう一つ、関羽にはある不安があった。
 人間と猫族の間に子は成せないということ。
 稀に混血が生まれることもあるのだろう。その実例が関羽自身。しかし、今のところ、関羽が知る限り、人間と猫族の混血は自分しかいない。つまり、混血が生まれるのは稀、と言わざるを得ない。だから、孫権と結婚をしたとしても、呉の跡継ぎが生まれるかどうかも分からないのだ。
 君主にとって跡継ぎは大切だ。
 関羽は欄干に両肘を乗せて溜め息を吐き出した。
 この新野にいても、曹操はいずれ攻め込んで来る。それを回避する為には、皆には何も告げずに出て行った方がいいとも考えている。
「私は孫権を幸せにすることができないの……」
 好いた相手を幸せにするには、関羽自身が目の前から消えなければならない。しかし、その前に一度だけ、孫権に自分の正直な気持ちを伝えたいと思っていた。だから、手紙に話があると書いたのだが、まさか、このように早く孫権が来るとは思ってもみなかった。
 諸葛亮には周瑜だけが来ると聞かされていたから――
「諸葛亮はきっと、知っていたのよね」
 関羽は諸葛亮だけに自分の本当の気持ちを伝えていた。
「この同盟はまだ、孫権さまとお前の結婚という繋がりによって結ばれている。だから、別に悩むことはない」
 しかし、関羽には心配事が二つあると諸葛亮に伝え、曹操のことと跡継ぎのことについて説明をしていた。その後に諸葛亮がその二つについて調べたかどうかは分からない。何故ならば、あの後から二人の間でその話は出てくることはなかったからだ。
 二度目の溜め息を吐き出すと、関羽の口からは真白な息が夜空に向かって舞った。
 背後から足音が聞こえる。至極、慌てたような駆けてくる音。この足音は今まで聞いたことのないものだ。その足音の主が誰なのかに気づいた関羽は、背後を振り返った。
「関羽!」
 ずっと会いたいと願っていた男の顔が月明かりに照らされる。今夜の月は偃月。半分は闇に隠れ、半分は輝きに満ちていた。
「孫権…… さま……」
 呉にいた頃に敬語を失くしてほしいと伝えられたが、それはまだ関羽にはできないこと。何故ならば、孫権は呉の君主であり、関羽とは対等な立場の者でないから。
 息を切らした孫権が関羽の目の前に立つ。そして、静かに言葉を投げかけてきた。
「劉備からあなたの所へ行って来いと言われた……」
「劉備が……?」
「あなたの手紙に書かれていた話を聞きたくてここに来た…… 話してくれるだろうか?」
 無表情の中にも、少しずつ感情が外に表れているのが分かる。別れる少し前から、孫権の表情は少しだけ変化するようになっていたのだ。
 孫権の顔をまともに見られない。ずっと見つめていたら、関羽の頬が熱で火照り出すのを感じたからだ。だから、咄嗟に顔を下に向けた。
「…… お話…… します……」
 夜気で冷まされた風が関羽の髪の毛を揺らす。乱れた髪の毛を手で押さえると、その箇所にひんやりとした感触を覚えた。
 この冷たい夜気が熱で火照った頬も冷ましてくれたらいいのに――
 そう願いながら、関羽は孫権の方に顔を上げていた――。

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